人間味の深いプラットホームにできるかが鍵に
横尾俊彦(多久市長)×藤井宏一郎(マカイラ株式会社代表取締役)×荒田英知(PHP総研主席研究員)
空き家を観光客に貸す「民泊」や、必要な時だけ自動車を使う「カーシェアリング」など、シェアリングエコノミーが日本でも広がりを見せている。資産や資源を「所有」するのではなく、必要に応じて「利用」するという考え方に基づくもので、スマートフォンやソーシャルメディアの普及がタイムリーな仲介を可能にした。
シェアリングエコノミーは社会を大きく変えるインパクトを持つと考えられるが、少子高齢化と財政難に直面する地方自治体も注目している。公共サービスの一部にシェアリングエコノミーを活用することで、持続可能性を高めることができると期待されているのである。
昨年11月、佐賀県多久市、長崎県島原市、浜松市、千葉市、新潟県湯沢市の5市が「シェアリングシティ宣言」を行った。多久市はクラウドソーシングによる仕事の仲介、島原市は島原城のまるごとシェア、浜松市は体験型旅行や公共施設の有効活用、千葉市は国際会議や展示会の誘致、湯沢市は子育てシェアリングの取り組みをはじめた。
2040年には全国の市区町村の半分に消滅の恐れがあるとする将来人口推計が突きつけられる中、シェアリングシティは地方消滅を救うのか。多久市長の横尾俊彦氏、マカイラ株式会社代表取締役の藤井宏一郎氏、PHP総研主席研究員の荒田英知が語り合った。
シェアリングエコノミーとコミュニティ再生
荒田 地方自治体が取り組む課題には、これまでいろんな新しいネタが出ては消えてきたという歴史があると思います。それらと比べて、シェアリングシティというのは、これはちょっと違うぞという感じを私は持ったんです。横尾市長も何かピンと来るものがあったのではないでしょうか。
横尾 市長になってから5期目になりますが、就任当初から自治体も経営感覚やマネジメントが大事だという視点でいろいろ取り組んできました。
10数年前にNPMって流行ったでしょう。「ニュー・パブリック・マネジメント」です。行政を変革するエンジンとして私は期待したのですが、なかなか定着し切れなかった。新しい次元が見えなかったと思います。
しかし、今回シェアリングシティには新しい可能性があるなと感じています。
そこで、政府が進めている地方創生の加速化交付金を活用して、シェアリングシティを進める拠点として、コンテナハウスを活用して多久駅北にローカルシェアリングセンターを開設しました。昨年5月にそこでセミナーを始め、続けています。講師はシェアリングエコノミー協会の主要な団体やNPOにお願いしていますが、定年退職した方やIターンした若者が集まって、予想以上に盛況です。仲間でワイワイ教え合うような感じで進んでいます。
今という時代が以前と大きく違うのは、ほとんどの人がスマホを使ったり、ICTデバイスを使っていることです。社会参加にしろ、防災や避難にしろ、欠かせなくなっていることを首長として強く感じます。防災マップを配っても、いざという時に持って出ないけど、スマホは持って出ますからね。
荒田 シェアリングエコノミーと自治体の公共サービスには親和性があることが直感的にわかります。
藤井さんは非営利セクターを中心とした公共戦略コミュニケーションの専門家として、シェアリングエコノミーが世の中をどう変えていくというふうな展望をお持ちでしょうか。特に地域に対してどういう影響やインパクトがあるか、どんなふうにお考えですか。
藤井 私はシェアリングエコノミーというのは、いくつかの捉え方があるというふうに思っているんです。
1つは、端的に言うと、経済状況に課題を抱える自治体において、遊休資産の活用による経済的な機会を創出するということです。
例えばクラウドワークスさんがやられているクラウドソーシングです。今までだったら都会の下請事業者に仕事がアウトソースされていたのが、今、ネットワーク化されたクラウドベースド経済によって、地方に仕事が分配できます。あるいは、スペースマーケットさんのシェアスペースのような、今まで経済価値がマネタイズできなかったものがマネタイズされていくというところがあると思います。
これらは、東京の事業者の経済活動を地方に分配するとか、地方の遊休資産をマネタイズするという、シェアリングエコノミーの初歩的なところ、つまり経済的便益を中心とした捉え方です。
これとは別に、地方で従来存在したような人間関係ベースのコミュニティを新しい経済活動の中でうまく再生する、つまり昔ながらの共助社会というか、互助型社会というのとはまた違う、ITによるシェアサービスを通じた新しいつながりを創造する取り組みがいろんなところで見られているわけです。
新しい形でのコーポラティブ経済というか、協働型経済というのをもう一回復活させようという、物を借り合ったり、道具を借り合ったり、そこにコミュニティスペースがあるというような。そこにテクノロジーを導入して、それを自治体が支援するというような動きがあるわけですね。このような、コミュニティ再生としてのシェアリングエコノミーというのがもう1つのトレンドで、まち自体の運営のあり方が変わっていくレベルがあると思います。
横尾 多久でのセミナーは、たまたま1回目は、クラウドワークスさんに来てもらいましたが、参加者は市外からも県外からも来ています。3回目ぐらいから、実際に文章を書くとかのちょっとお試しワークをやってみて、実はもうビジネス参加で稼いでいるのですよ。まあ、数千円とか1万円くらいですが、教えに来た人たちからすると、想定より多くて驚いています。