三種の「ジジイ」が会社を破滅させる
このように、保身ばかり考えているリーダーのことを、河合氏は「ジジイ」と呼んでいる。
河合 「君のため」「人のため」などといいながら、実際には、自分の保身ばかり考え、「自分のため」だけに働いている。本気で会社を良くしようなどと思っていなくて、自分の体面を整えるためのことしかしない。残念な人物ですね。
中原 なるほど、企業に限らず、どこの組織にでもいるような気がしますね。
河合 ジジイというと年配の男性だけのように聞こえるかもしれませんが、実際には、そういう性質を持った人のこと。若い人でも女性でもあり得ます。自分の中にも「ジジイ」が少なからずいるので日々闘ってます(笑)。
経営トップや役員は「大ジジイ」だとすると、「小ジジイ」や「中ジジイ」もいるという。
河合 小ジジイは課長クラスの人。中ジジイは部長クラスの人です。いずれにしても、共通するのは、自分の保身が第一で、上の顔色ばかりうかがって、行動していることですね。 小ジジイのモットーは、なんといっても「逆らわない」ことです。上司から見れば、すごく使いやすいので、重宝され、大した実績もあげていないのに出世します。 そして、中ジジイになると、今度は、「危険をおかさない」ことを第一に考えるようになります。定年まで逃げ切ることを考えれば、下手に危険をおかさないほうがいい。もっとも、危険というのは、「会社にとって」というより、「自分にとって」という意味です。たとえば、瀕死の部署を立て直して六百万円の黒字にするなら、AIのようなトップ肝いりの事業で五億円赤字を出すことを選ぶ。そうして、トップの意向を汲んだほうが「安全」というわけです。
中原 そんなことをしていても、日本の大企業はなかなかつぶれない。これが、傷口を広げていくんですよね。
河合 でも、根っこは腐っているので、あるとき、突然バタッと倒れてしまう。「あの大企業が」という企業がつぶれるわけです。
こうした「三種の神器」ならぬ、「三種のジジイ」を見たら、若い人は「こうはなりたくない」と思うだろう。
河合 「管理職になったら、自分が会社を変えてやる!」と元気な人はどの会社にもいます。ところが、管理職に昇進すると、ジジイ化してしまうのです。現場に寄り添っていたはずの人が、その階層ごとの文化に染まってしまう。残念ですけどこれも人間です。
中原 人間は環境に左右されないほど、「確固たる自己」をもっていません。周囲の人間関係などによって、考え方が大きく変わってしまうものです。
河合 私の研究分野も、まさに「環境が人をつくる」ということなので、少しでも環境を変えたいと思っているんですけどね。なかなかジジイの壁は厚いな、と日々感じています。
役職定年で「ジジイ」が部下に……!
最近は、役職定年によって、ジジイが部下になることも珍しくなくなった。その対応に悩まされている人は多い、と河合氏。
河合 とくに、女性管理職の場合は、対処にすごく悩んでいるという話をよく聞きます。 役職定年の人たちは「俺たちはもう、どんなに頑張っても、給料一円も上がらないんだぜ」とグチばかり言う。そのくせ、プライドは高いので、女性管理職を「今度女の子が来るんだけどさ」などと女の子扱いをする。多少は手伝ってあげたい気持ちはあるみたいなのですが、「なんで俺が、女の子の部下に」と思うようで、素直に言うことを聞かないようですね。
中原 そういう「働かないオジサン」は、文句がそれだけあるのなら、さっさと、他の場所を探せばいいと思うのですけれどもね。好きになさいな、と言いたい。誰も引き留めていません。「これも宿命だから仕方ない」みたいな感じでおっしゃいますけど、宿命なんてない(笑)。好きになさればいいのです。よく思うのですけれども、この国は「組織にいたくないのに、組織にいつづける人」が多いような気がします。
河合 大体、この手の困った人はちょっとしたエリートなんですよね。役職定年になって会社には居場所がないんですが、「担当部長」などの部下なし管理職の称号をもらっているので、外に出ると「○○会社の部長さん」と呼ばれる。それを捨てる勇気がない。小さなプライドが邪魔するんです。
しかし、ジジイの部下を放置していたら、自分の評価も下がってしまう。どうすればいいのか。
河合 とくに女性管理職向けの話かもしれませんが、私は次の二つのアドバイスをしています。一つは「毎朝、目を見てあいさつをしよう」。もう一つは、「応援団になってもらおう」です。向こうが聞いていなくてもいいから、とにかく、隣に行って「困ったな」などとつぶやこう。「娘だと思わせろ」と言っています。
中原 僕も、働かないおじさんは、「応援団にする」のが良いと思います。嫌いな相手を応援団にしようとするのは、心理的に抵抗感があるかもしれませんが。そこはある程度、「演技」だと思ったほうがいい。マネジメントも「役割演技」です。会社を舞台だと思って、課長なら課長を演じてみるのです。すると、意外とうまくいくものですよ。
河合 演じることは、私も大賛成。そう割り切ることで、かなり救われると思います。