「ジジイ」と「働かないおじさん」、職場にはびこる大問題

残念な職場
(画像=The 21 online)

残念な職場』(河合薫/PHP新書)という本が話題だ。「無責任な上司ほど出世する」「結局、女子力を期待する」など、日本の職場で働いたことのある人なら誰しも「あるある」と思ってしまう実例が満載で、身につまされる人も多いであろう内容。なぜ、残念な職場は生まれるのだろうか。著者で健康社会学者の河合薫氏と、人材開発論・組織開発論の専門家であり、『THE21』巻頭連載「はたらく人のリアルな問題」でもおなじみの中原淳氏に、このテーマについて対談していただいた。(取材・構成=杉山直隆、写真撮影=まるやゆういち)

残念な職場
(画像=The 21 online)

「女性を登用したい」が「3歩下がってついてこい」

河合薫氏が今年4月に上梓した『残念な職場』は、「現場の人は優秀なのに、リーダーたちが意味不明なことばかりするため、その能力が生かせていない職場」について書かれた本だ。

河合 これまで私は講演会や取材で大小さまざまな企業を訪問したり、10年間で600人以上のビジネスパーソンにインタビューをしたりしてきました。そのなかで感じたのは、「残念な職場」がたくさんあることです。

中原 とくに多いのは、どんな職場ですか?

河合 リーダーが、「現状を打破したい」「職場を変えたい」「部下の能力を引き出したい」などと言っているけれども、実際には、リーダーがそれを邪魔しているという職場です。

たとえば、ある企業に「ダイバーシティ」に関する講演を頼まれたときのことです。現地で社長さんと話してみると、「私は、女の人をどんどん登用したいのだが、うちの職場は女性の役員が増えないのだよ」とおっしゃっていました。

ところが、講演会場に向かう途中、他の社員と一緒にエレベーターに同乗していたら、女性社員が先に降りていきました。その様子を見て、社長さんが言った言葉に耳を疑いました。「あれはうちの社員か? 女は三歩下がってついてくる、っていう言葉を知らんのか」。要は、本気で女性を登用したいなんてこれっぽっちも思っていないのです。

中原 政府が「女性活躍推進」を推進しているから、「うちも何かやらなくて?」という会社は多いのではないでしょうか。「スローガンの新たなインストール」は、たいてい、ただちに進みますが、「人間の意識のアンインストール」には時間がかかるものです。管理職手前の女性だけを集めて研修やワークショップをおこなう企業も多いですが、効果は疑わしいと思います。人材マネジメントの観点からすれば、女性活躍推進は「入社後ただちに」です。女性にも男性同様に、入社時からフェアに仕事の機会を与えて、きっちりフィードバックをしていくことです。急に管理職手前の女性だけに研修をするのは、意味がないとはいいませんが、「とってつけた施策」のようにも感じます。

河合 「ダイバーシティ」を掲げる企業も多いですが、本来の意味でのダイバーシティをしている企業は非常に少ない。国籍、年齢、採用形態などあらゆる属性の人と一緒に協働するという概念なのに、なぜか女性登用の話ばかりなのです。「なんの目的でダイバーシティをなさっているんですか?」といっても、答えられるリーダーはほとんどいません。これでは、いつまで経っても多様な人が能力を発揮できる職場にはならないでしょう。

トップの本音は「変化したくない」

なぜ、こうした「残念な職場」が生まれるのか。その大きな理由の一つは、経営トップが「何か経営をしているように見せかけたい」からだ。

河合 とくに大企業のトップにありがちですが、彼らが一番望んでいるのは何かといえば、「自分が社長のイスに座っている三~五年間は、何も起こらないこと」です。何かに挑戦して、失敗したら、責任を取らされますからね。それは嫌だ、と。

中原 しかし、社長になった以上「何もやらない」わけにはいかないですね。

河合 そうなんです。そこで、リスクの低いことをするのです。

中原 一番リスクが少なく、改革しているように見せやすいのは、「教育」ですよね。教育は「遅効性効果」というのがあって、ある試みをやったときの「効果」が顕在化するのに時間がかかります。だから、トップからすれば「最も手を出しやすい」のです。すぐに成果が出なくても、周囲から非難されにくい。「効果が出るのは、10~20年後だろうな」などと言っていれば、ごまかせる。

あとは、アメリカで流行った人事制度をコピペして導入するのも多いですね。とくに、人材開発の世界は「情報の非対称性」があるのです日本には人事・人材開発の学位をもって専門職的な仕事をしている人は非常に限られていますので、海外の情報などを常にモニタリングしている人は実務の現場には少ない。一方、海外の情報をいち早く導入して「輸入」しようとするコンサルタントの方々がいらっしゃいます。ここに「情報の非対称性」ができる。よって、コンサルタントによって輸入された「バタ臭い施策」が、現場に輸入されるといったことが行われる。役に立つ場合もありますが、現場が、引っ掻き回される事態も少なくありません。

河合 大企業の中間管理職と話すと、いつもその話になります。一~二億円払って、コンサルを呼ぶけど、現場調査などしたところで、現場に合わせた改善策なんて出てこないんですよ。でも、経営トップはコンサルの言うことを鵜呑みにして、現場にやれと指示をする。当然、現場は混乱するに決まっています。「その二億円を、十分の一でいいから、自分たちの事業に入れてほしい」と皆、言いますね。

「流行りのスローガン」を掲げて、改革しているように見せかけるのも、よくある手口だ。

中原 「女性活躍推進」や「ダイバーシティ」もまさにそれ。また、最近だと「AI」ですね。みんな「先進的な我が社は、AIを使いました!AIを使っています」といいたいのです。その結果、どんな目を見張るような成果が出たかは話題になりません。 人事業界にもAIは導入されています。たとえば、『どんな人が離職しやすいのか、AIで分析した結果、過去数カ月間で休みがちな人が離職しやすいとわかりました!』っていう「成果」が得られたそうです。そんなの分析しなくてもわかりますよねぇ(笑)。「畳の数が増えれば、部屋の面積が増えました」というのとほとんど変わらないじゃないですか。 それがわかっていても、あえてAIを導入するのは、単にマスコミに言いたいだけだと思うんです。誇らしい気持ちを味わいたいだけ。

河合 おっしゃる通りで、スローガンが好きなんですよね。

中原 錦の御旗とも言えますね。皆さん、「地に足がついた課題解決」をしていきましょうよ。人手不足で、人員も限られているのですから。長時間労働もできないし。

河合 結局のところ、木を見て、森を見ていないんですよね。日本の企業風土に合っているかどうかを考えずに、新しいものをありがたがり、現場を混乱させる。本当に残念な限りです。