「万物は数である」……古代ギリシャでのある発見

ピタゴラス,音楽,数字
(画像=The 21 online)

あの「ドレミファソラシド」を発見したのが、ギリシャのピタゴラスだということをご存じだろうか。しかも、それは音楽というよりも「数学」としての発見だったという。一見、まったく関係のないように見える「数字」と「音楽」とは実は密接に関わりあっている。東大、JAXAを経て人気数学塾塾長を務める永野裕之氏がその秘密を説く。

ピタゴラスと「完全」音程との出会い

「ドレミファソラシド」といういわゆる音階を最初に発明したのは誰だかご存知でしょうか? それは「ピタゴラスの定理」でも有名な古代ギリシャのピタゴラスです。ピタゴラスが音階を発明するきっかけになったのは鍛冶屋でした。

ある日、散歩中に鍛冶屋の近くを通りかかったピタゴラスは、職人がハンマーで金属を叩くカーン、カーンという音の中に綺麗に響き合う音とそうでないものがあることに気づきました。

これを不思議に思ったピタゴラスは鍛冶屋職人のもとを訪れ、色々な種類のハンマーを手に取って調べ始めました。ピタゴラスはやがて、綺麗に響き合うハンマーどうしはそれぞれの重さの間に単純な整数の比が成立することを発見します。中でも2つのハンマーの重さの比が2:1の場合と、3:2の場合は特に美しい響きになりました。

人間が自然に美しいと感じる響きの中に単純な整数の比が潜んでいるという意外性や簡潔さに惹かれたピタゴラスと弟子たちは、その後音階を熱心に研究するようになります。

調和する音には数学的な規則性があった

彼らはまずモノコードと呼ばれる楽器を発明しました。

モノコードというのは共鳴箱の上に弦を一本張って、琴柱(ことじ)を移動させることによって、振動する弦の長さを変えられる図のような装置のことです。

ピタゴラス,音楽,数字
(画像=The 21 online)

ピタゴラスたちは、このようなモノコードを2つ用意しました。

実験の方法はこうです。

片方のモノコードの弦の長さは固定しておきこれを基準にします。もう一方のモノコードは琴柱を動かすことで弦の長さを短くしていきます。そうして2つの弦を同時に弾き、綺麗に響き合う位置を探します。すぐに、片方の弦の長さが半分になったとき、すなわち弦の長さが2:1になったときに2つの音が完全に溶け合うことがわかりました。

ピタゴラスたちはその後、他にも2つの音が調和する場所がないかを探しました。すると、2つの弦の長さの比が3:2や4:3のときにもそれぞれ2つの音はよく調和することがわかりました。

音程の美しさは「神のイタズラ」?

「ドレミファソラシド」の低いドから高いドまでの音程の幅を1オクターブといいます。1オクターブ離れた2つの音は同時に響くと高さの違う「同じ音」に感じられて、完全に溶け合うことを御存知の方は多いでしょう。

音楽では、音程(2つの音の音の高さの差)を表すときに「度」という接尾辞を使います。ただし「0度」というのはなく、同じ高さの音どうしは「1度」と言います。ドとレのようにとなり合う音は2度、ドとミは3度です。

特に綺麗に響き合う音程には頭に「完全」を付けることになっていて、1オクターブの中に完全音程は、完全4度(ドとファ)、完全5度(ドとソ)、完全8度(1オクターブ)の3つがあります。ピタゴラスたちが発見した3つの「調和する音程」はそれぞれ、次のように3つの完全音程に対応しています。

ピタゴラス,音楽,数字
(画像=The 21 online)

弦の長さの比が2:1  完全8度(1オクターブ)
弦の長さの比が3:2  完全5度
弦の長さの比が4:3  完全4度

完全8度だけでなく、美しく響きあう音程になるときの2つの弦の長さの比がすべて簡単な整数の比になることに、ピタゴラスたちは感動しました。まるで神様に仕掛けられたイタズラを発見したかのような心持ちになったことでしょう。音程の研究を通して、数字を研究することは神の意思を汲み取ることであり、数字の中にこそ神の言葉があるのだと考えるようになったとしても不思議ではありません。

「ピタゴラス数秘術」とは?

ほどなくして、ピタゴラスたちは「万物は数である」というスローガンを掲げるようになります。特に整数とその比を神のように崇めるようになったピタゴラスたちは、1~9の数字に意味を付ける「ピタゴラス数秘術」なるものを編み出しました。

数秘術とは、西洋占星術や易学等と並ぶ占術の一つで、ピタゴラス式の他はカバラ式等が有名です。現代の数秘術が定める数の意味は、流派によって違いがありますが、ピタゴラスたちが行った意味付けはおよそ次のとおりです。

1 理性
2 女性
3 男性
4 正義・真理
5 結婚
6 恋愛
7 幸福
8 本質
9 理想と野心
10 完全・宇宙

ピタゴラス数秘術を使った最も一般的な占い方は、生年月日の数字を全て足し算した結果(2桁の数字になります)の各位の数を足して、最後に出てきた数字の意味を見るという方法です。例えば、1974年7月18日生まれなら、

1+9+7+4+7+1+8=37
→3+7=10

ということで「完全・宇宙」となります。

また、数字を直接計算にあてはめることもできます。

2+3=5 「女性+男性=結婚」
2×3=6 「女性×男性=恋愛」
4+5=9 「正義+結婚=理想」

数字に強い人は、たいていひとつひとつの数に「個性」を感じているものです。それだけに「万物は数である」と信じていたピタゴラスたちがこのような意味付けを行ったことはある意味当然の成り行きだったのかもしれません。

(出典:『東大→JAXA→人気数学塾塾長が書いた数に強くなる本』)

永野裕之(ながの・ひろゆき)「永野数学塾」塾長
1974年、東京生まれ。暁星高等学校を経て東京大学理学部地球惑星物理学科卒。同大学院宇宙科学研究所(現JAXA)中退。レストラン経営、ウィーン国立音大への留学を経て、現在は個別指導塾・永野数学塾(大人の数学塾)の塾長を務める。これまでにNHK、日本経済新聞、プレジデント、プレジデントファミリー他、テレビ・ビジネス誌などから多数の取材を受け、週刊東洋経済では「数学に強い塾」として全国3校掲載の1つに選ばれた。プロの指揮者でもある(元東邦音楽大学講師)。著書に『東大教授の父が教えてくれた頭がよくなる勉強法』『数に強くなる本』(PHPエディターズ・グループ)、『大人のための数学勉強法』(ダイヤモンド社)など多数。(『The 21 online』2018年06月05日 公開)

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