仕事の目的を共有し、チームの生産性を上げる

ジャパンネット銀行,組織改革,田鎖智人
(画像=THE21オンライン)

2000年に日本初のネット専業銀行として創業した〔株〕ジャパンネット銀行が、今年2月、ヤフー〔株〕の連結子会社となった。同時に社長に就任したのが、田鎖智人氏である。ヤフー出身の田鎖氏は、競争が激化するネット銀行業界の中で、ジャパンネット銀行がその強みを発揮するためには、現場が自ら判断して動く組織であることが必要だと話す。

集まって話し合ってこそ、良いものを作れる

ヤフーによるジャパンネット銀行の連結子会社化は、突然起こった出来事ではない。2006年に資本業務提携を結んで以来、ヤフーはジャパンネット銀行への関与の度合いを徐々に強めてきた。ヤフーで決済事業などを手がけていた田鎖氏は、06年の提携時にジャパンネット銀行の社外取締役となり、今年の連結子会社化のタイミングで社長に就任した。

「ヤフーは、時期によって、事業の中心領域を移してきました。創業期は検索やメディア事業が中心でしたが、その後、BtoCやCtoCのeコマースに中心を移し、さらに今は決済・金融などのお金に関する事業の比重を高めてきています。

その流れの中で2006年にジャパンネット銀行と提携し、ジャパンネット銀行の口座間であれば『ヤフオク!』(当時は『Yahoo! オークション』)の決済が簡単にできるようにするなどの取組みを進めてきました。

一方、金融業界では、業界の垣根を超える潮流があり、ジャパンネット銀行も、金融と消費を一体化したサービスの開発を目指していました。そこに、ヤフーと提携するメリットがあったのです。

今では、ジャパンネット銀行が融資をする際の審査に、ヤフーのデータを活用するまでになっています。ヤフオク!や『Yahoo! ショッピング』のデータを見て、売り主の方に仕入れの代金を融資しているのです。

普通は過去3年間の決算を見て審査するのですが、それでは遅い。スタートして間もない時期に資金があれば成長していたのに、融資を受けられなかったばかりにうまくいかなかった事業者は数多いと思います」

ジャパンネット銀行の強みを発揮するため、田鎖氏はUIUX(パソコンやスマートフォンで見るホームページやアプリの画面とそこでの体験)の改善にも取り組んでいる。それは、UIUXを作る体制の見直しにまで踏み込んだものだ。

「ジャパンネット銀行は、日本初のネット専業銀行だというだけでなく、他にも様々なことを業界の先駆けとしてやってきました。例えば、本人認証のために1度だけ有効なパスワードを表示するキーホルダー型のトークンを、早くも2006年に、すべてのお客様に無料で配っています。16年には、トークンをカード型にしました。

そうした先進的なことをしているのに、その良さがUIUXを通してお客様に伝わっていないように感じたのです。また、1ユーザーとして、『どうしてこうなっているのだろう?』と思うところもありました。

それで、実際にUIUXを作っているUI部やCX(カスタマー・エクスペリエンス)統括部の社員に『どうしてなの?』と聞くと、サービスを担当する事業部の指示を中心に作っていると言うんですね。期日の問題などで、そうせざるを得ないということでした。

けれども、デザインのことをよくわかっているUI部や、お客様の声をよく知っているCX統括部の意見を取り入れたほうが、もっと良いものができます。『三人寄れば文殊の知恵』で、3つの部が集まって、それぞれが意見を出し、話し合いながら作るべきだと思いました」

プロジェクトごとに部門を横断したメンバーが集まるのは、田鎖氏が在籍していたヤフーをはじめ、IT企業では当然のように行なわれている。しかし、ジャパンネット銀行にはなかった仕事の仕方だ。初めからうまくいったのだろうか。

「多少、時間はかかりましたが、ヤフーから出向している社員がファシリテーター役を務めたりもして、混乱はありませんでした。社員が懸念していた期日の問題も生じませんでしたね。

課題が生じたら複数の部からメンバーが集まって『Oneチーム』を作り、解決したら解散する、という働き方は、定着し始めと思います。現場の社員のほうから、『これはOneチームでやりましょう』という声があがるくらいになりました。現場が自走し始めている状態です」

UIUXに関して、Oneチームであげた成果の例として、バナーの作成がある。

「ローンを申し込むために、キャッシュカードとは別のカードを持たなければならない銀行もあるのですが、当社はキャッシュカードだけでできます。その利便性を伝えるバナーを、ローンを担当する個人事業部とUI部、CX統括部が、Oneチームとなって作りました。

以前のバナーは個人事業部が中心となって制作していて、 CTR(クリック率)は決して悪くはありませんでした。けれども、Oneチームで意見を出し合って制作すると、CTRが2倍近くになったのです」

ジャパンネット銀行,組織改革,田鎖智人
個人事業部、UI部、CX統括部がOneチームとなって作ったバナー(画像=THE21オンライン)