遺産を相続すると聞くと、なんとなく財産が増えるイメージがあるかもしれない。しかし、現実には親が借金を負っていることも考えられる。

民法では原則的に、相続の対象となる財産の中に、プラスの財産だけでなく、マイナスの財産も含んでいる。つまり、亡くなった親が借金をしていて、その後、何も対策をしていないと、気づいたときには借金だけが増えていたということにもなりかねない。

そのような事態に陥らないために相続人はどのような対応を取れば良いのか。本稿では、相続財産に負債が含まれるおそれがある場合に知っておきたい便利な制度を紹介する。

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(写真=PIXTA)

相続しないという選択肢

相続財産が明らかにマイナスであると分かっている場合、「相続放棄」という手続きをすることで、財産そのものを相続しないで済む。相続放棄をすれば法律上、その人は最初から相続人ではなかったことになるのだ。

ただし、相続放棄には、注意点がある。

① 自分の子どもなどの相続権利も消滅する
通常は子供が相続人となるべきところ、その子供が親より先に亡くなっている場合、その子供の子供、つまり孫に相続する権利が移る。これを代襲相続と呼ぶ。しかし、相続放棄をすると、その人は最初から相続人ではなかったことになる。そのため、相続放棄をした者に仮に子供がいた場合でも、もちろん代襲相続は生じない。相続放棄をする際には自分の子供などの権利も消滅することは知っておきたい。

②後順位の人が負債を負うおそれも
また、配偶者や子供が相続放棄をした場合、次の順位の父母が相続人となる。さらに父母が相続放棄をした場合、次の順位の兄弟姉妹が相続人となる。つまり、相続放棄を行うと、思いがけず後順位の者が相続人になってしまうおそれがある。そのため、後順位の者も相続放棄をするだろうと想定されるのであれば、相続人の可能性のあるすべての者に通知できるように心がけたい。

なお、相続放棄は、相続開始日から3ヵ月以内に行わなければならない。具体的には、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述書を提出するのである。戸籍謄本をはじめ、申述に必要な添付書類は、揃えるのに意外と時間がかかることが多い。そのため、期限に遅れないように注意しよう。

財産がプラスかマイナスか不明なら、限定承認の手段も

故人の相続財産が差し引きプラスかマイナスかわからないというケースは少なくない。そのような場合、残された相続人はどう対処すれば良いだろうか。

何も手続をせず、無条件で相続することを「単純承認」と呼ぶがそれ以外にも、プラスの財産を超えない範囲でのみ、マイナスの財産を引き継ぐことのできる「限定承認」という手続きがある。この限定承認を行えば、もし被相続人に多額の借金があることが発覚しても、譲り受けたプラスの財産の範囲だけで、借金を返済すれば良いため、リスクが限定されることになる。

限定承認を行うには、相続放棄の場合と同様、相続開始日から3ヵ月以内に家庭裁判所に対して申述を行う必要がある。ただし、相続放棄の場合には、個々の相続人が単独で申述を行うことも認められているが、限定承認の場合は相続人全員の合意の下、申述を行う必要がある。

判断に迷う場合には早めに相談

相続とは人から財産を受け継ぐことだ。しかし、明らかにマイナスしかない財産や差し引くとマイナスになる財産の場合、相続放棄や限定承認など、相応の対処が必要になる。

相続手続は期限で切られる場面が多い。具体的には、3ヵ月以内に相続放棄や限定承認の申述、4ヵ月以内に被相続人のための準確定申告、10ヵ月以内に相続人による相続税申告などが挙げられる。

手続きの煩雑さに困惑したり、相続財産の評価で対処に迷ったりしてしまう人もいることだろう。相続の手続きで悩んだ場合は、なるべく早めに専門家に相談することをおすすめしたい。