「子どもに財産を遺さない」という親が日米で増えています。その理由も「巨額の富は子どもの人生を狂わせかねない」との懸念から、「自分で築いた富を思う存分楽しみたい」というものまで様々です。「遺産相続をするよりも自分で富を築くほうが幸福度が高い」という調査結果も報告されていることから、遺産相続の伝統が変わりつつあるのかもしれません。

子どもに財産を遺さない著名人

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(写真=NadyaEugene/Shutterstock.com)

ビル・ゲイツ氏やウォーレン・バフェット氏、ジャッキー・チェン氏など、「巨額の富を子どもに遺す代わりに慈善事業などへ寄付する」と宣言している著名人は珍しくありません。

何十億、何百億ドルという資産を持つこれらのお金持ちにとって、人生を破滅させるリスク要因を子どもに残すより、「子どもを含む多くの人々が快適に暮らせる社会作りに役立てたい」という気持ちが勝るのでしょう。

例えばゲイツ氏は子どもに一流の教育をほどこし、子どもが自分で人生を切り開いていける土台への投資を「遺産」の一部だと見なしています。

バフェット氏は自分の死後、資産の99%をゲイツ夫妻と共同設立した寄付啓蒙活動ギビング・プレッジに寄付する予定です。「お金があり過ぎてもなさ過ぎても、子どものためにはならない」と、子どもには「好きなことを何でもできる、そのやる気が出るだけのお金」を遺す意向を示しています。

慈善団体ジャッキー・チェン・ファウンデーションに全財産を遺すチェン氏は、「子どもがそれなりの人間に育てば自分で財産を築くだろう。そうでなければお金を遺しても浪費するだけ」と、子どもの人生は子ども自身の努力次第で決まることを強調しています。

自分で1,000万ドル以上の資産を築いた人が最も幸せ?

こうしたお金持ちの考え方は、決して的外れではないようです。

ハーバード・ビジネス・スクールが100万ドル以上の資産を保有している金融機関の富裕層顧客4,000人を対象に実施した調査では、「100万~200万ドルの純資産を保有している顧客より、1,000万ドル以上の純資産を保有している顧客のほうがはるかに幸福度が高い」という結果が報告されています。しかし同じ調査からは、「遺産相続や結婚などで財産を得た人より、自分で財産を築き上げた人のほうが幸福度が高い」ことも明らかになっています。

つまり子どもに1,000万ドルを遺産として遺すより、将来的に1,000万ドル以上の資産を自分で築くチャンスを与えるほうが、結果的に子どもが幸せになる可能性が高いということです。

寄付することでより多くの幸福が得られる?

「子どもに財産を遺さない」という選択は、子どもの将来に対する懸念だけではなく、「自分の受けた利益や恩恵を社会に還元したい」という強い願望の表れでもあります。ハーバード・ビジネス・スクールの研究者は「鉄鋼王」として巨額の富を築いたアンドリュー・カーネギー氏を例に挙げ、こうした心理を「資産を寄付することでより多くの幸福を得られるため」と分析しています。

カーネギー氏は晩年、自ら設立した慈善組織ニューヨーク・カーネギー財団を通して財産の大半を寄付することで、多くの人々に希望を与えました。支援分野はインスリンの発見から核兵器の解体、低所得層学生のための奨学金制度「ペル・グラント」の設立、セサミストリートの製作まで多岐にわたります。

社会貢献によってカーネギー氏が得た幸福感は、かけがいのない財産だったのではないでしょうか。

日本でも8割弱の親が「生きているうちになるべく使う」

一方、「子どもに財産を遺すよりも、自分の人生を楽しむために使いたい」という親も増えています。

リテール投資家情報サイト「ハーツ・アンド・ウォレッツ」の2016年の調査では、米国の回答者5,000人(50~60歳)の30%が「全部財産を使い切る」と回答。日本の住宅メーカー9社による共同プロジェクト「イエノミカタプロジェクト」が2015年に実施した調査でも、10.3%の親が同様の回答をしており、75.4%の親が「なるべく使って、残った分を子どもに相続させる」との考えを明らかにしました。

これらの調査の回答者がどの所得層に属するのかは不明です。ただ財産が多ければ多いほど、お金が子供の将来に及ぼす悪影響への懸念や社会還元への意識が強く、そうでない親は「自分のために使いたい」と感じるのかも知れません。

「親の財産は子どもが受け継ぐ」という伝統に、変化の兆しが表れているのでしょうか。

文・アレン琴子(英国在住のフリーライター)

(提供:JPRIME


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