相続の手続きとして必ず行わなくてはならないのが「遺産分割協議」です。このプロセスを踏まない限り、誰が相続財産を引き継ぐかが決まらないだけでなく、相続税の申告でデメリットが生じることになります。今回は、「遺産分割協議とは何か」「まとまらないときのデメリットは何か」について解説します。

遺産分割協議とは

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(写真=Burdun Iliya/Shutterstock.com)

亡くなった被相続人の相続財産に対して複数の相続人がいる場合、その財産を相続人の間で配分することが必要です。これを「遺産分割」といいます。遺言書があれば、その内容に従って相続財産を分けることになりますが、遺言書がなければ相続人同士の話し合いで分割方法を決めるのが一般的です。この話し合いのことを「遺産分割協議」といいます。

遺産分割が行われるまで、相続財産は相続人全員で共有している状態になります。協議が成立すれば遺産は分割されますが、全員の合意が必要です。多数決などは認められません。この遺産分割協議が、俗にいう「争続」のきっかけになることもあります。「事業承継で兄弟姉妹間の一人だけが事業関連の財産のほとんどを引き継がなくてはならない」「一人だけに生前贈与が行われていた」といった場合は、協議がなかなかまとまらないことが少なくありません。

しかし、相続税の申告は相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に行わなくてはなりません。協議がまとまらない場合には、未分割のまま、いったん法定相続分により申告・納税を行うことになります。そして後日、協議がまとまり次第、修正申告や更正の請求をし、正しい内容を申告します。

遺産分割協議がまとまらない場合のデメリットとは

相続税の期限は、遺産分割協議がまとまらなくても延期することはできません。そのため、法定相続分でやむなく申告・納税せざるを得ません。ただ、この場合、税務上の特例が受けられないなどにより、税金面で損をすることがあります。

●小規模宅地等の特例が使えない
小規模宅地等の特例は、居住用や事業用の宅地を相続した場合に、その相続した宅地の評価額を50%あるいは80%減額することができる制度です。都市部など土地の評価額が高額になりがちな地域に宅地がある場合には、この制度の適用を受けられるか否かで相続税額が大きく変わります。非常にメリットが大きい制度ですが、相続税の申告期限までに遺産分割が済んでいなければ適用を受けることができません。

●配偶者の税額軽減の特例が使えない
配偶者の税額軽減の特例とは、被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した正味の相続財産の金額が「1億6,000万円」「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは配偶者に相続税がかからないというものです。節税額が大きいためこの制度もメリットが大きいのですが、遺産分割が相続税の申告期限までに完了していなければ適用を受けることができません。

●物納ができない
相続税の納税資金がない場合、救済策の一つとして「物納」があります。物納とは、不動産や債券など現金以外の「現物」により相続税を納付する方法です。現金で一括納付が困難な場合にのみ認められるのですが、「延納しても現金で納められない場合に限る」など細かい要件があります。遺産分割協議が完了していないと、この物納も実質的に利用が不可能です。
なぜなら、財産ならば何でも物納できるというわけではないからです。未分割の財産は管理処分不適格財産として物納の対象から除外されています。

3年以内に分割できればさかのぼって適用可能

遺産分割協議が終わらないままに相続税の申告・納付をすると「小規模宅地等の特例」「配偶者の税額軽減の特例」といったメリットが受けられないと解説しました。しかし、申告期限内の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、実際に相続税の申告期限から3年以内に分割されれば、さかのぼってこれらの特例の適用を受けることができます。

この場合、分割がされた日の翌日から4ヵ月以内に更正の請求を行う必要があります。理想は法定申告期限内に遺産分割協議を完了することです。しかし、親族内でトラブルが発生したり、相続財産の評価が複雑だったりすれば10ヵ月以内に協議を終わらせるのは難しくなります。生前に協議を行えればベストですが、それが実現できなければ、こういった制度をあらかじめ理解し、不測の事態に備えておくのが有効です。(提供:相続MEMO

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