兄弟の遺産相続について、
「親の面倒を看ていたら他の兄弟より多く遺産を相続する権利があるの?」 「自分達夫婦には子供がいないので、将来自分の兄弟に財産がいってしまうのを避けたい」 「兄弟で相続する場合の遺産の取り分(相続分)を知りたい」
と言った、お悩みをお持ちではないでしょうか。
この記事では、兄弟が関わる遺産相続に関する知っておきたい基礎知識や注意点などを解説しています。この記事をよく読んで事前に必要な対応策を講じれば、無用な争いを避けることができるかもしれません。
1.兄弟で遺産相続をする際のそれぞれの取り分は?
兄弟で遺産相続をする場合の法定相続分については、「親が亡くなって兄弟で相続する場合」と「兄弟が亡くなって他の兄弟で相続する場合」で異なります。それぞれ、順番に解説していきます。
1-1.親が亡くなって兄弟で相続をする場合の取り分
親が亡くなって兄弟で相続をする場合の各相続人の取り分(法定相続分)は、配偶者がいる場合には配偶者が2分の1、残りの2分の1を子供である兄弟で均等に按分することになっています。配偶者がいない場合には、原則は、子供である兄弟の人数で均等に按分することとなっています。
親が亡くなって、兄弟で相続をする場合の取り分(法定相続分と言います)については、基本的には「均等」となっています。例えば、長男と長女の2人の兄弟がいる場合には、子供の相続分をこの2人で均等に分割します。 配偶者である母がいる場合には、母が2分の1、長男が4分の1、長女が4分の1となります。
相続人が兄弟しかいない場合には、それぞれ同じ身分となりますので、単純に均等に等分した割合での法定相続分となります。子供が3名ならそれぞれ3分の1ずつ、子供が4名ならそれぞれ4分の1ずつといった具合です。
【参考】以前は、非嫡出子の法定相続分のは非嫡出子の半分だった平成25年9月4日以前に発生した相続についての兄弟での法定相続分は、嫡出子と非嫡出子で異なっていました。非嫡出子とは、婚姻関係にない男女(籍を入れていない)の間に生まれた子供のことを言います。愛人の子供等が該当します。現在では、嫡出子であろうが非嫡出子であろうが、法定相続分は均等となっていますが、平成25年の民法改正が行われるまでは非嫡出子の法定相続分は嫡出子の法定相続分の2分の1となっていました。例えば、ケース2で長男と次男が嫡出子で三男が非嫡出子の場合は、長男5分の2、次男5分の2、三男5分の1という法定相続分ということになります。
1-2.兄弟が亡くなって兄弟で相続をする場合の取り分
兄弟が亡くなって兄弟間で相続をする場合の原則的な取り分(法定相続分)は、配偶者がいる場合は配偶者が4分の3で残りの4分の1を兄弟で均等に按分します。配偶者がいない場合には、兄弟間で均等に按分することになっています。
但し、父母のどちらかが違う異母兄弟や異父兄弟がいる場合には、両親とも同じ兄弟間よりも片親しか同じでない兄弟の方については、法定相続分が2分の1になります。
子供がおらず、両親や祖父母がすでに他界している者が亡くなった場合の相続人は配偶者と兄弟となります。その場合の法定相続分は、配偶者4分の3、兄弟4分の1となります。なお兄弟が複数いる場合にはこの4分の1を均等に分配します。よって、当該ケースでは、4分の1の2分の1となり、弟と妹の法定相続分はそれぞれ8分の1ずつとなります。
結婚しておらず、両親や祖父母がすでに他界している者が亡くなった場合の相続人は兄弟のみとなります。この場合の法定相続分は単純に兄弟で均等に分割することとなります。よって、相続人である兄弟が2名の場合はそれぞれ2分の1ずつ、3名の場合はそれぞれ3分の1ずつということになります。
被相続人である兄は、母Aの子供、弟も母Aの子供、ただ妹は連れ子で母Bの子供といったように片親が異なるいわゆる異母兄弟がいる場合には法定相続分が異なります。ここで、兄と弟は両親とも同じなので、弟のことを全血兄弟と言い、妹は片親が異なるので半血兄弟と言います。半血兄弟の法定相続分は全血兄弟の半分となります。ここでは、全血兄弟である弟は3分の2、半血兄弟である妹は3分の1という割合になります。
なお、親が亡くなって子供が相続する場合については、全血兄弟と半血兄弟がいる場合でも法定相続分は異ならずに均等となります。
2.兄弟間での遺産トラブル事例とその防止策・解決策
兄弟で遺産相続を行う際によくある代表的なトラブル事例を3つご紹介したいと思います。
2-1.【トラブル事例1】どちらかが親と同居し親の面倒を見ている場合
兄弟のいずれかが、親と同居し介護や経済的な援助をしている場合には、いざ親の相続が発生した場合にトラブルになりがちです。面倒を看ている方の兄弟は、「自分は生前親の面倒を見ていたし経済的な援助もしてきたのでその分多めに遺産をもらいたい」と主張するが、面倒を看ていない方の兄弟が、「それとこれとは話が別で、遺産は法定相続分に従って分けましょう」と主張するような場合に遺産をめぐるトラブルに発展してしまうケースも少なくありません。
≪防止・解決策≫ この場合の有効な解決策は、「遺言書」につきます。親が生前に「遺言書」を書いておくのです。自分の面倒を看てくれた子供には多めに財産を渡すような遺言書を作成しておけば良いのです。
そうすれば、いくら面倒を看ていない方の兄弟が「もっと欲しい」と主張したところで、遺留分の範囲を侵害していない限りは争いようがありませんので、遺産トラブルを防止することができます。
なお、起きてしまったトラブルの解決策は特にありませんが、当事者間で遺産分割がまとまらない場合には裁判所の判断を仰ぐか弁護士を介して話し合いを行うしか方法がありません。
2-2.【トラブル事例2】どちらかが親から経済的援助を受けているケース
トラブル事例1とは逆のケースで、いずれかの兄弟が親から経済的な援助を受けていた場合です。この場合も、経済的な援助を受けていない側の兄弟が、「自分はその分、多めに財産が欲しい」と主張すれば遺産トラブルに発展する可能性があるでしょう。
≪防止・解決策≫ この場合の有効な解決策も、トラブル事例1と同様、「遺言書」です。経済的な援助を与えていない子供には少な目に財産を渡すと親が遺言書を残しておくことで防止することができるでしょう。
ただし、トラブル事例1の場合でも同様ですが、この経済的援助の内容によっては「特別受益」というものが認められ、遺産分割の際にこの経済的援助を加味して法定相続分を計算するということが行われる場合もあります。
なお、「特別受益」とは、特定の相続人が被相続人から生前に「経済的援助を受けている場合の利益」のことを言います。ただ、この「特別受益」の計算方法等に明確な基準がないため、当事者間で話し合いがつかない場合にはやはり裁判所や弁護士に相談する以外方法はないでしょう。
2-3.【トラブル事例3】分ける遺産がほぼ自宅不動産しかない場合
分ける遺産が自宅不動産しかない場合には、「遺産をどのように分けるか」についてトラブルになることが多いです。例えば、遺産が自宅不動産と現預金500万円だったとします。
ここで、自宅不動産の価値が500万円で相続人である兄弟が2人であれば、じゃあ私は自宅、私は現預金ときれいに分割することができますが、例えば自宅不動産の価値が3000万円だった場合はどうでしょうか。自宅を相続した方の相続人が差額分を現預金で他の相続人に払うことができればよいですが、そうでない場合には困ったことになります。
じゃあ、売却して現預金で分割すればよいのではと考えられますが、例えば一方の相続人が、親の思い出がつまっているから売却したくないといった場合が想定されます。
≪防止・解決策≫ この場合の防止策についても、事例2や3と同様に「遺言書」が有効です。 財産を残す側の親が、例えば、「自宅は売却して2人で仲良く現預金を分けてください」と指定しておければ揉めなくて済むでしょう。 こういった遺言書がない状態で、相続が発生してしまった場合には、自宅を相続しなかった側の相続人が分割でその対価を払っていくといった方法や、広い自宅の場合には分筆して敷地を分けて相続するといった方法が考えられます。
2-4.【トラブル事例4】子がいない夫婦に相続が発生、遺産相続に夫の兄弟が登場
子がいない夫婦の場合、仮に夫が亡くなった場合(※ 両親は既に他界)、夫の財産は配偶者である妻と、夫の兄弟が取得することとなります。民法で定めれた法定相続分は、妻が4分の3、夫の兄弟が4分の1と言うことになっています。
生前に一切付き合いがなかった夫の兄弟が突然現れ、自分の相続分を主張してくるといったことも起り得ないとは限りません。
特に分けられる財産が自宅の不動産しかないような場合には、最悪、その自宅不動産を売却して現金を支払わなければならないという結果にもなりかねません。
夫の兄弟も法定相続人のうちの1人である以上、その夫の兄弟の協力がなければ夫の預金から生活費の引き出しすらできなくなってしまいます。
≪防止・解決策≫ この場合の防止策についても、事例2や3、4と同様に「遺言書」が有効です。
遺言書に、自分の財産はすべて配偶者に渡す旨を一筆書いておくだけでOKです。兄弟には遺留分がありませんので、このような遺言書を残しておくだけでトラブルは回避できます。
適切な遺言書さえあれば、夫の兄弟の協力や許可がなくとも夫の財産である預金からお金を引き出したりすることも問題なくできます。
3.まとめ
兄弟で遺産相続を行う場合の基礎知識と注意点を述べてきました。
法定相続分については、異母兄弟がいる場合には少し半血兄弟が全血兄弟の半分の取り分になるといった点が特異な点です。
また、前述のトラブル事例に該当するような場合には、生前に財産を遺す側が遺言書を書いておかれることを強くお勧め致します。(提供:税理士が教える相続税の知識)