身近な人が亡くなり、相続税について調べてみたところ、

相続税には基礎控除と呼ばれるものがあることは何となく理解したが、詳しい内容がよくわからない

というお悩みはございませんでしょうか。

相続税はすべての人が申告しなければならない税金ではなく、一定額以上の遺産がある場合にのみ申告が必要になる手続きです。そこで重要になるのが相続税の基礎控除です。

本記事では、相続税専門の税理士が、相続税の基礎控除について簡単な事例を交えて相続税と基礎控除の関係を詳しく説明いたします。

【誰でもわかる】相続税の基礎控除パーフェクトガイド
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.相続税の基礎控除とは

相続税の基礎控除とは、故人が保有していた財産のうち、一定金額までは相続税の申告を行わなくても大丈夫というボーダーラインのことです。

ここでいう相続税の申告とは、税金の納税と相続税申告書の提出の2つを指します。

この一定金額は、下記算式で計算を行います。

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

つまり、

遺産の総額 > 基礎控除
この場合は、相続税の申告を行う必要があり、

遺産の総額 < 基礎控除
この場合は、相続税の申告をする必要がないことになります。

よく聞かれる疑問としては、算式にある「法定相続人の数」についてです。

法定相続人の数とは、簡単に一言で申し上げると、”相続人の人数”のことを言います。

ちなみに、この“相続人の人数”については相続人の中に相続放棄をしたものがいても、その放棄をした者の人数を含めて計算します。相続放棄をしたことにより新たに相続人になった者の人数は含めません。

また、故人に養子がいる場合などは、少し考え方が難しくなりますので、「法定相続人の数」を確実に把握するためには「初心者でも分かる!「法定相続人」と「遺産を相続できる割合」」を参照ください。

なお、相続税の基礎控除は平成27年に大きな税制改正があり、大幅に引き下げられています。平成26年12月31日までに相続が発生した場合には、「5,000万円+1,000万円×法定相続人の人数」という算式でしたが、平成27年1月1日以降発生の相続については前述の「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」という算式に変更になっています。この、相続税の基礎控除の改正について、詳しく知りたい方は、「相続税改正ポイントのすべてを税理士が分かりやすく解説」を参照してください。

2.遺産総額が基礎控除を超えた場合には相続税の申告が必要

遺産の総額が

3,000万円 + (600万円 × 法定相続人の数)

上記算式で計算を行った金額を超えた場合、相続税の申告が必要になります。

まずは、簡単な例を用いて、どのような場合に相続税の申告が必要になるのかを見てみましょう。

なお、以下の設例でも明らかにしていきますが、相続税の基礎控除の算出に使う相続人の人数は、法律によって決まっている法定相続人の人数であり、財産を受け取った相続人の人数ではありません。仮に、財産を受け取った相続人が1人であっても法定相続人が3人であれば3人として計算を行います。


例1)基礎控除を超えないパターン(相続税の納税が必要ない場合)

お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 3,000万円

この場合の基礎控除金額は、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

この4,800万円と、父の遺産3,000万円の比較を行います。

3,000万円 < 4,800万円
となりますので、

遺産の総額が基礎控除より低いため、相続税の申告を行う必要がございません。


例2)基礎控除を超えるパターン(相続税の納税が必要な場合)

お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 7,000万円

この場合の基礎控除金額も、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

この4,800万円と、父の遺産7,000万円の比較を行います。

7,000万円 > 4,800万円
となりますので、

遺産の総額が基礎控除より高いため、相続税の申告を行う必要があります。


3.遺産の総額の計算の仕方について

ここまでのお話を一旦まとめますと

  • 相続した財産(遺産総額)が基礎控除を超えれば相続税を申告
  • 遺産総額が基礎控除を超えなければ相続税の申告は不要

の2点だけでした。

ここまでで「遺産の総額」という言葉が何度も出てきました。
「遺産の総額」は相続税の計算をするうえで最重要なので、続いては「遺産の総額」の計算方法について説明します。

「遺産の総額」の基本的な考えは、「故人が所有していた財産を、お亡くなりになった日時点で換金したらいくらになるのか」ということです。

つまり故人が保有していた、不動産、有価証券、現金預金、その他の財産も全て換金し、さらに、故人にかかっていた生命保険の金額などを合計した金額を、「遺産の総額」といいます。

ただ、遺産総額を把握しようにも、把握が難しいことがあります。

それは、預貯金や有価証券(株式、投資信託等)、生命保険等の財産を故人がいくら所有しているかについて、知らない人が多いためです。特に親と同居していない人であれば、親のお金のことは分からないのではないでしょうか。

3-1.亡くなった方が管理していた財産を把握する

そんなときには、解決策としては単純ですが、家の中を片付けながら確認していくしかありません。 現金などの価値あるものがあるので片づけは人に頼まず、相続人が実施することが多いです。

【預貯金・証券の把握方法】

通常、預貯金や証券等の重要書類は一か所にまとめている人が多いため確認作業はさほど大変ではないはずです。家の中に金庫があればもちろん中身を確認しますし、銀行に貸金庫を借りてその中に重要な書類や通帳を保管している人も珍しくありません。

家の中を探した結果、通帳や証券等の重要な書類が見つからない場合には、取引のありそうな金融機関に貸金庫の有無を照会する必要があります。

■被相続人の金融機関を調べるためには
相続人が被相続人の金融機関を調べるためには戸籍が必要です。
「相続人である」と認められれば、金融機関を調べることは可能です。
その際には暗証番号は不要です。また戸籍取得前には死亡届け出を提出し被相続人の死亡が戸籍に明記されていなければいけません。
戸籍に死亡が明記されるのは死亡届け出から1週間以内です。

【保険金の把握方法】

生命保険に加入していれば、保険証書に死亡保険金の金額が記載されています。 死亡保険金は保険会社に電話し死亡保険金の受け取り確認をとりましょう。

各社の規定によって必要な書類や受け取り方は違いますが、相続税申告の計算に必要なので被相続人の死亡後すぐに保険会社に連絡をしましょう。生命保険金は受取人が指定されていることが多いため、すぐに支払いが実行されるケースが多いです。

【株式の把握方法】

株式については複数の評価方法がありますが、とりあえずは相続発生日の終値や時価をベースに株数をかけて計算するとよいでしょう。 相続開始日の終値×株数で計算できます。

【不動産の価格把握は要注意】

不動産の価格を概算で求めるには

固定資産税評価証明書×1.14

をすれば求められますが、正確な評価額を求めるのは専門性が高くなりますので税理士に聞いた方が早いです。

なお、ここでなぜ“1.14倍”なのかというのは、理論上「時価を100」とした場合の「相続税評価は80」、「固定資産税評価は70」と定められているためです。もちろん、多少ずれることはありますが、住宅街の整形地であれば、ほぼほぼ大きくずれることはないでしょう。土地の相続税評価について、詳しく知りたい方は、「土地の相続税と相続手続きを一挙解説」を参照してください。

上記のような財産確認の結果、相続税の基礎控除のボーダーぎりぎりというケースもあります。

例えば基礎控除額が5,400万円で現金と株を合わせると4,500万円相続。 土地は概算だと1,000万円だけど、特例を使うと200万円になるので、最終的に基礎控除以下になる。 https://chester-souzoku.com/calculation-basis-1258 こういった判断は専門性が必要になります。

ご自身で計算されるのも可能ですが、相続税申告は個別性が強いのであなたがどうすべきか、この場で具体的な解決策を提示することはできません。

責任をもって確実に言えることを一つ申しますと、税金を確実に下げた土地評価をするならば相続専門の税理士に相談するのが間違いないということです。

すべての遺産を合計した金額が相続税の基礎控除以上になれば、相続税申告が必要となります。

【換金価値がわからない財産の評価方法】

評価で疑問となるのは、お亡くなりになった日時点で実際に換金しているわけではないため、不動産などの金額はどのように計算をするべきなのかということです。

換金価値が分からないものをどのように評価を行うかについては、財産ごとに細かく決まっておりますので、細かく知りたい方は「相続税評価額の基礎知識と計算方法を税理士がやさしく解説」を参照下さい。

4.遺産の総額と基礎控除を比較する際の注意点

ここまで、遺産の総額について解説を行ってきましたが、ここで新たに3つの疑問がでてきます。

  1. 債務や葬儀の費用についてはどのように考えるのか
  2. 生命保険金の非課税について
  3. 各種特例(小規模宅地等の特例や配偶者控除の特例など)を適用できる場合に、基礎控除と比較を行う遺産の総額はどのように考えるのか

では早速この3つについて確認をしてみましょう。

4-1.債務や葬式費用は控除して遺産の総額を計算する

遺産の総額を計算する上で、債務や葬式費用については、どのように考えるのかというと、上記3で計算した「遺産の総額」から債務や葬式費用を控除した金額をもって、基礎控除との比較を行います。

簡単な例で確認してみましょう。


お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 土地 3,500万円
建物   500万円
現金   1,000万円
債務   100万円
葬儀費用 200万円

この場合の基礎控除金額は、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

父の遺産総額の計算は、

3,500万円(土地) + 500万円(建物) + 1,000万円(現金) = 5,000万円

となり、

基礎控除4,800万円より高くなるため、相続税の申告が必要であるように思われますが、

ただ、基礎控除と比較すべき金額は、

5,000万円 - 100万円(債務) - 200万円(葬儀費用) = 4,700万円

となり、基礎控除より低くなるため、相続税の申告は必要ないことになります。


4-2.生命保険金の非課税について

生命保険金を受け取った場合、生命保険金は非課税ということで税金が掛からないとご存じの方も多いと思いますが、生命保険金を受け取った場合の基礎控除との関係について見てみましょう。

お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 土地 3,000万円
建物    500万円
現金    1,000万円
生命保険金 1,800万円
葬儀費用  200万円

この場合の基礎控除金額は、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

父の遺産総額の計算は、

3,000万円(土地) + 500万円(建物) + 1,000万円(現金) + 1,800万円(生命保険) - 200万円(葬儀費用) = 6,100万円

となり、基礎控除4,800万円より高くなるため、相続税の申告が必要であるように思われますが、

ただこの場合、生命保険金には非課税の枠があるため、

6,100万円 – 1,500万円(生命保険の非課税枠)
= 4,600万円
(※生命保険金の非課税枠の詳しい計算はここでは省略させて頂きます)

が、基礎控除と比較すべき金額となります。

つまり、 4,600万円 < 4,800万円 となるため

基礎控除より低くなり、相続税の申告は必要ないことになります。


生命保険金がある場合には、非課税金額を控除した金額を基礎控除と比較することになります。

生命保険金の非課税枠については、「【知らなかったでは済まされない!】生命保険(死亡保険)と相続税の対応関係、完全ガイド」を参照下さい。

4-3.各種特例を使用する前の金額をもって財産の総額を計算する

では、続いて相続税を計算する上で適用のできる各種特例との関係を見てみましょう。 特例でよくでてくるのが、

  1. 小規模宅地等の特例
  2. 配偶者の税額軽減

の2つになります。

結論から申し上げると、基礎控除と比較すべき金額は、各種特例の適用前の金額です。

ここも簡単な事例を用いて確認をしていきましょう。


例1)小規模宅地等の特例を適用する場合

お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 土地 5,000万円
建物   500万円
現金   1,000万円
葬儀費用 200万円

この場合の基礎控除金額は、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

父の遺産総額の計算は、

5,000万円(土地) + 500万円(建物) + 1,000万円(現金) - 200万円(葬儀)= 6,300万円

となりますが、
ここで、小規模宅地の特例を適用した場合

5,000万円 × 80% = 4,000万円

の減額が可能となります。

※小規模宅地等の特例の詳しい計算はここでは省略させて頂きます。
(小規模宅地等の詳しい解説については、「自宅の土地が8割減額!小規模宅地の特例(居住用)徹底解説」をご参照下さい)

この場合、
上記で計算を行った

6,300万円 - 4,000万円 = 2,300万円

を基礎控除と比較すべき金額なのではないかと思われがちですが、
基礎控除と比較を行う金額は、特例適用前の6,300万円となりますので注意が必要です。

ちなみにこの場合、
6,300万円 > 4,800万円 となり、基礎控除を超えるため、
相続税を支払う必要はありませんが、相続税の申告は必要になります。


例2)配偶者の税額軽減を適用する場合

お亡くなりになった方 : 父
相続人        : 母と子供2人の計3人
父の遺産       : 土地 5,000万円
建物   500万円
現金   1,000万円
葬儀費用 200万円

この場合の基礎控除金額は、

3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円

となります。

父の遺産総額の計算は、

5,000万円(土地) + 500万円(建物) + 1,000万円(現金) - 200万円(葬儀)= 6,300万円

となり、この父の遺産を全て配偶者であるお母様が取得された場合、配偶者の税額軽減を適用し支払うべき相続税が0円となるため、相続税の申告が不要であると思われがちです。

ただ、相続税の申告が必要かどうかは、遺産総額6,300万円と基礎控除額を比べるため、特例を適用する前の金額で比較を行うということに、注意が必要です。

ちなみにこの場合、
6,300万円 > 4,800万円 となり、基礎控除を超えるため、 相続税の申告は必要になります。

5.財産の総額が基礎控除を超えた場合の手続きについて

ここまで、遺産の総額が基礎控除を超えるかどうかということを、色々なパターン別でみてきました。

故人の遺産が基礎控除を超えた場合には、相続税の申告が必要となりますが、 相続税の申告の手続きや、期限についても不安に思うところだと思います。

手続きや期限の詳しい内容については、下記ページを参照下さい。

相続税の申告が必要な場合、 「相続税申告パーフェクトガイド」を参照下さい。

相続税の申告期限については、 「具体的な日付もこれで完璧!「相続税いつ払う?」専門家が徹底解説!」を参照下さい。

なお、相続税が発生する場合においてその支払う相続税をできるだけ低くしたい(節税したい)と思われる方も多いと思います。相続がまだ発生していない方については、相続対策を行うことで大幅に相続税を節税できる可能性があります。また既に相続が発生している方についても、相続発生後に相続対策を行える場合もあります。 これら、相続対策について詳しく知りたい方は、 「相続税がゼロ円に!税理士が厳選する17の相続税対策完全ガイド」を参照して下さい。

6.まとめ

相続税の基礎控除とは一体何なのかということを、具体的な例示を踏まえてここまで確認をしてきました。

注意すべき事項は、

①法定相続人の数を確定させる

②遺産の総額を把握する

③生命保険の非課税金額は控除して比較を行う

④特例適用前の金額と基礎控除を比較する

ということでした。

ただ、相続税には期限があります。

「法定相続人の数」や「遺産の総額」についてはご自身で分からない方もいらっしゃると思いますので、 少しでもこれらの計算について不安に思った場合は、相続税の専門家である税理士に聞きましょう。(提供:税理士が教える相続税の知識