音楽配信依存から「脱却」し、店舗の総合支援、そしてコンサルティングへ
USENといえば音楽配信の会社だが、近年、事業領域を拡大させている。特に店舗の開業支援に力を入れており、今年8月には、社長自ら『お店を始める前にするべき5つのこと』という開業のノウハウ本も出版。いったい、なぜなのか?田村公正社長に話を聞いた。
店舗のカギを握るのは「POSレジ」
――店舗にBGMを提供してきた御社が、開業支援を始めた理由はなんなのでしょうか?
田村 当社は、店舗への音楽配信事業を50年続けてきました。60数万件のお客様と取引をしています。海外にも同様の事業があるにはあるのですが、これほどの規模のものは日本にしかなく、我々は創業以来の先人たちから奇跡的なサービスを引き継いだのだと思っています。
ただ、近年、音楽の聴き方が大きく変わりました。特に若者は、個人のスマホで楽しむのが当たり前になっています。それに伴って、音楽に対する価値観も変わってきていると思います。
今の中高生が成人し、お店を開くときに、果たして音楽配信サービス(BGM)の契約をしてくれるのか?そうした問題意識のもと、我々は「音楽配信の会社」から「音楽配信も扱っている会社」へと、次のステージに進む必要があると常々考えていました。社内では「音楽配信依存からの脱却」と言っています。
また、当社のお客様の大部分を占める飲食業や理美容室、小売り、サービスなどの中小企業・店舗では、時代の潮流ともいえるIT化が遅れていて、労働生産性が低いところが少なくありません。そうした背景から、ここ数年は店舗運営のIT化を中核とした「店舗の総合支援サービス」の提供を強く押し進めてきました。中でも、店舗経営の起点となるのはレジなので、まずはそこを切り口にご提案をしています。
レジは、店舗の設備の中でも真っ先に導入するものですから、「これから開業を考えている」という段階の方にアプローチすることが重要です。音楽配信なら開店に向けた工事中の店舗を見つけて、そこに提案するという営業活動で間に合うのですが、レジでは、それでは遅いのです。
そこで、開店を考えている方に早期にアプローチするために、開業支援のサービスを展開することにしました。
――開業支援は、店舗の総合支援サービスの一環なのですね。
田村 我々が店舗総合支援サービスの「バリューサークル(Value Circle)」と呼んでいる概念図(上図)があるのですが、その最も上流は、時計でいう0~1時に位置する「開業支援」です。大きな夢を持ち、これから店舗開業を考えている方々向けて、実践的で有益なセミナーを無料で開催することで、1件でも多くの開業者をサポートしたいと考えています。
――参加すると、どういったことを教えてもらえるのでしょうか?
田村 事業計画書の作り方や資金調達の仕方などです。銀行などの金融機関に在籍していた当社の社員がコンサルタントとなって、融資を受けるための事業計画書を作るサポートをしています。また、〔株〕日本政策金融公庫の方に登壇していただくこともあります。
また、物件選定の仕方もお伝えしていますし、FCで何十店舗も展開して成功された方や、逆に失敗された方にお話しいただいたりもしています。成功者だけでなく、失敗された方のお話を聞きたいという要望も多くいただきますので。
今は、年間約2,500人にセミナーに来ていただいて、そのうち約300人が開業されています。
――実際に開業する人に向けたサービスやソリューションも充実していますね。
田村 物件を契約する段階になると、必ず店舗の損害保険に入らなければならないので、昨年12月にUSEN少額短期保険〔株〕を立ち上げ、比較的リーズナブルで補償内容の厚い火災保険などを提供しています。保険事業で利益を出すことよりも、店舗が入りやすい保険の提供が目的です。
その次が、電話やインターネット回線、Wi-Fiなどのインフラのご提案で、それとほぼ同時に、レジについても提案をさせていただいています。POSレジと音楽配信はパッケージにしているので、POSレジの契約をしていただくと、BGMもついてくるというわけです。
――レジの取り扱いを始めたのはいつですか?
田村 2015年から、タブレットで使うアプリとして販売を始めました。『Uレジ』という名称で、従来のPOSレジの5~6分の1のコストで、ほとんど同じ機能が実装されています。
――バリューサークルを見ると、開店後も様々なサービスを提供していますね。
田村 開業後にオーナー様が悩まれることが多いのは、思うようにお客さんが集まらないということです。そこで、集客支援のサービスも提供しています。もともとはUSENの一部署でしたが、今は事業会社になっている〔株〕USEN Mediaの『ヒトサラ』という飲食ポータルサイトなどが、それに当たります。
他にも『UPLink』というO2Oアプリも提供しています。お店が独自でアプリを作ろうとしても、アプリストアへの申請が非常に煩雑だったり、制作費が高額になったりするケースも多く、事実上、制作するのはハードルが高いので、それを我々が代行するサービスです。
例えば、雨の日に、お店から半径500メートル以内にいる、アプリをダウンロードしている人に向けて、「今日は30%オフ」「ビール1杯無料」などとプッシュ通知する機能などを持っています。
また、集客支援の手前の「調達」については、社内ベンチャーで産直食材を取り扱う『REACH STOCK』というサービスを行なっています。野菜や魚、肉などの生産者と飲食店をアプリで直接マッチングするものです。同様の事業を手がけている企業はまだ数少ないですし、当社のお客様は約40%が飲食店なので、これから大きく伸びると考えています。
一昨年に電力の小売りが、昨年には都市ガスの小売りが自由化されたことを受けて、コスト削減のご提案の一つとして、それらも取り扱っています。ガス事業は、東京電力エナジーパートナー〔株〕とアライアンスを組んで1都6県で行なっていますが、東京ガス〔株〕から切り替えていただくと、2年契約の場合、一般料金から5%料金が下がる提案が可能になりました。
――無料セミナーを受けて開業する年間約300人の中で、実際に御社のサービスを導入されるのは、どのくらいですか?
田村 特に強いセールスはしていないのですが、9割以上のお店には、何かしらのサービスを導入していただけていますね。