ベネズエラの権力闘争と米中貿易戦争によって、原油価格の反発が抑えられている。同時に、世界的な経済成長に陰りが見られ、米シェールオイルが増産され、今年の原油市場拡大の中、多くの原油が海中に埋まったままであることによって、原油価格の今年における上昇分が徐々に削られている。

一方、金とドルは世界の経済的および政治的問題に対するヘッジとしての安全資産となっている。

一歩前進、二歩後退

原油価格はクリスマスから今年初めの2週間にかけて順調に上昇したが、現在では一歩前進二歩後退の状態に陥った。

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(画像=Investing.com)

8日の取引終了時には、WTI原油先物価格はまだ年初来16%の上昇を保っていた。先月は19%近くの上昇を見せ、1月においては過去最高の上昇幅であった。

だが、1月中旬における原油価格の上昇勢いは止まり、これからは小幅上昇と急落を繰り返す可能性が高い。先週の5%下落は2019年に入って以来最低であった。

今後、ベネズエラと中国が原油問題へのキーである。

ベネズエラの場合、グアイド国会議長が反マドゥロ大統領派として暫定大統領就任を宣言してから2週間、膠着状態が続いている。多くの国がグアイド国会議長を認めているが、マドゥロ氏はベネズエラの軍隊を含めた政府機関に対しての権力を持ったままである。

すぐにマドゥロが退くとは考えてはならない

こう着状態が続く中、ニューヨークに本社を置くEnergy Intelligenceは、

「現在、両大統領は支持者を集めていて、次の動きを決めようとしているようだ。こう着状態が続く可能性が高い」

と述べた。

コンサルタント会社、コントロール・リスクスの副所長であるRaul Gallegos氏は、

「もしマドゥロ氏が数週間の内にキューバへと飛行機で去ると思っているなら、それは間違いだ。それは起こらない」

と加えた。

状況がこう着しているということは、マドゥロ氏が管理しているベネズエラ国営石油会社ペトロレオス(PDVSA)にトランプ政権が課した制裁は、今まで原油価格に限られた影響しか与えていないということも意味する。

また、米国のベネズエラに対する制裁に加え、現在トランプ大統領にとって更に2つの問題がある。原油価格を上昇させようとしているサウジアラビアに対応すること、イランに対する圧力をかけ続けることである。

アメリカとサウジアラビア

トランプ大統領は、ペトロレオスに対する制裁によって生まれた原油供給不足をサウジアラビアに頼っている。しかし同時に、トランプ氏はサウジアラビア盟主のOPECとロシアを中心とするOPECプラスによる原油価格上昇の計画を阻止しようと努めている。

米国ではOPECがロシアと協定を組もうとするのなら独占禁止法違反でOPEC加盟国を起訴するという「石油生産輸出カルテル禁止法(NOPEC)」法案を米司法省へ提出した。

同時に、ベネズエラ産原油がないため圧迫されている米ガルフコーストの製油所は、米政府に戦略石油備蓄(SPR)からの原油供給を期待するなと伝えられた。米政府はサウジアラビアがこれから米国に対しての輸出を拡大すると「確信」しているのだ、とエネルギー統計サービスを行っているS&P Global Plattsは述べる。

しかし、サウジアラビアが大きな影響を与えるOPECは原油価格上昇のために減産を行っている。そのため、同社はサウジアラビアはベネズエラの原油供給減少分を埋めるような計画を示していないと指摘する。

原油価格の見通しはたたない

原油に関して、以下のことがベネズエラ・イラン問題にて重要なことである。

米国の制裁によりイランは日量100万バレルの原油を輸出できなくなった。さらに、3月に免除措置が停止すれば合計日量約200万バレルの輸出ができなくなる。

さらに、ナイジェリアの今月16日に行われる大統領選、リビアの政権混乱などが原油価格は大きな下押し圧力を受ける可能性がある。

これを打ち消すとしたら、ベネズエラの海中に埋まっている700万バレルもの原油である。しかし、これはだれが出資するのかという問題がある。

シカゴにあるThe Price Futures Groupの証券会社でエネルギーアナリストをしているPhil Flynn氏は「今後どうなるのか分かっている人はいない」と語る。

金、ドルは米中間の貿易戦争のヘッジになるのはどちらか?

11日に北京で米中貿易協議が始まり、その協議には通商代表部(USTR)のジェフリー・ゲリッシュ次席代表が参加している。14日からは米中閣僚級協議が開始され、ロバート・ライトハイザーUSTR代表や、スティーブン・ムニューシン財務長官が参加する。

知的財産の盗用や、米国企業の技術を中国企業と共有することなど、中国の要求に対して米国は圧力をかけている。

中国政府は、2000億ドル相当の中国製品に対する米国の関税が10%から25%に引き上げられる3月1日までに合意に至らなければいけない。

ドナルド・トランプ米大統領は先週3月1日まで習近平中国国家主席に会わないつもりだと発言し早期解決への期待を曇らせた。

米中貿易協議がなくなったことによって金価格は1300ドルまで上昇した。だが、ドルは金曜日まで5日間続騰し、事実上貿易戦争に対するヘッジとなっていた。(提供:Investing.comより)

著者:バラーニ クリシュナン