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(画像=冷凍庫にはきちんと整理されたハンバーグのタネがびっしり)

一人だからこその「仕込みの工夫」

『コントワールクアン』は、夜営業は予約推奨だが、空き具合によって当日入れることもある。しかし、昼営業は基本的に3日前からの予約が必要だ。昼と夜で同じメニューなのに、予約の日数に差をつけているのはなぜだろう?

「うちは基本的に予約制なので、予約に合わせて仕込みの量を調整しています。なので、その日の昼に飛び込みの方がいらっしゃっても、注文に対応できない部分が多いんです。夜、予約してきてくれた方に、『これ、品切れです』と言いたくありませんから。そこで、昼営業に関しては、十分に仕込みができるように3日前からの予約にしています。一番仕込みに時間が掛かるのが『たまねぎのタルト』で、このメニューはアパレイユを作るだけで8~9時間かかり、タルト生地と同時に作ると他のメニューの仕込みができなくなってしまいます。ですから、それぞれ別の日に仕込む必要があるのですが、こうした調整を行うためにも3日前から予約を把握しておく必要があるのです」

仕込みは基本的に営業時間の合間に行うという。例えば名物のハンバーグは、時間がある時に粗挽きしておき、真空パックで冷凍しておく。これで1か月は持つそうだ。平たく伸ばして冷凍することでかさばらずに収納できるし、解凍時間も短くて済むのがポイントだ。

また、メニューに野菜を使った料理があまりないため、必然的に野菜を多く使った「前菜の盛り合わせ」にオーダーが集中する。それを見越して、注文を受けたらすぐに出せる状態にしておくそうだ。「野菜は生のまま置いておくとどんどん劣化するため、基本的に加熱調理しています」と丸井さん。昼のうちに野菜を揚げたり、茹でたりして味付けし、なじませておくという。

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(画像=前菜の盛り合わせは常連客のほとんどが注文する)

調理機器にこだわり業務を効率化

丸井さんは、スタッフを雇わない代わりに、調理機器に投資することで業務を効率化している。

「機器を選ぶ際の優先事項は“大きさ”です。この狭いキッチンスペースに収まる物という基準で探しました。ドイツ製の『ウィンターハルター』の食器洗浄機は、水圧、洗剤の量、洗浄時間を3パターン設定でき、グラスから鍋まで洗えます。キッチンには、洗い物をまとめて自然乾燥させるスペースがないので、食器洗浄機から出してそのまま仕舞えるのがポイントです」

仕込みのときに活躍するのが、「TOSEI」の小型真空包装機だ。ハンバーグやソースを小分けにして真空パックすることで、食材の鮮度を保ったまま冷凍することができる。ピザ釜ではなく、スチームコンベクションオーブンでピザを焼いているのも特徴だ。丸井さんは、「もともとコンペクションオープンでピザを焼くつもりはなかったんです。ただ、家庭でもピザを焼いているからできるかなと思って試したらできました」と話す。

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(画像=ピザ釜もないのに本格ピザが出てくることに驚く人も)

オーダーが集中したら?

複数の客から同時に注文が入ったとき、丸井さんは冷蔵庫に貼ったオーダー票を見比べ、考えこむ様子を見せる。オーダーがいくつも入ったとき、調理の優先順位をどのようにつけているのだろうか?

「オーダー順ではなく、煮る、焼く、揚げるなどの調理工程を考えて出す順番を決めています。焼いて、茹でて、また焼いて……となったら効率が悪いでしょう。焼くものはまとめて焼く。そういう意味ではこちらの都合ですけど、その代わり提供までのスピードは速いです。例えば、前菜、ハンバーグ、ピザを同時に注文されたら、ハンバーグを解凍している間に前菜を盛り付け、それが終わった瞬間にオーブンの温度を上げてピザを焼きます。ピザが出来上がるときには、ハンバーグの解凍が終わっているので、ハンバーグをこねて焼きます。できるだけまとめて注文してもらうために、メニューを一つにして、みんなで使い回しているんです。いつもメニューが手元にあると、『食べ終わってから注文しよう』と油断してしまうので」

どんなに人数が増えても、「焼く」「煮る」「揚げる」「盛り付ける」というパターンでまとめて捌いているので、あまり待たせずに提供できるようである。

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(画像=粗挽き肉の弾力が強く感じられるハンバーグ。薬味もたっぷり)

サービスの距離感

『コントワールクアン』の接客はサラッと淡白な印象を受ける。お水はセルフサービス。丸井さんは質問されたら答えるというスタンスで、彼から積極的に話しかけることはない。この距離感はファミレスを参考にしているそうだ。

「例えば、『サイゼリヤ』に行って、店員から『うちのミラノ風ドリア、美味しいからぜひ食べてください』っていちいち言われませんよね。基本的に放っておかれているのに、なぜか居心地がいい。あのナチュラルなニュアンスがすごくいいなと思っていて。過度な接客をすると、それを求めていない人が辛くなってしまうので、適度な距離感を保つようにしています。うちは席同士が近いので、話したい人は隣の人と話せばいいし、僕がそれを嫌がることはありません」

『コントワールクアン』は、オーナーシェフである丸井さんが自分のやりたいことをマイペースにやるために、ワンオペを突き詰めた店だった。丸井さんがいつも自然体でいるから、訪れる客も肩肘はらずに自分の時間が楽しめる。ここにしかない、不思議な居心地の良さが『コントワールクアン』にはある。

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(画像=地元民に愛される人気店)

『Comptoir Coin (コントワールクアン)』
住所/東京都台東区蔵前4-8-9 島宅1F
電話/非公開
営業時間/12:00~17:00(L.O.16:00)、19:00~24:00頃(L.O.23:00)※ランチは3日前の予約のみ
定休日/不定休(月4~6日休み)
席数/10

執筆者:三原明日香

(提供:Foodist Media