親がマイホームを所有しており、相続人が複数いれば、相続時に親の不動産をどうするのか当事者間で話し合うことになります。協議の結果、空き家を複数の相続人が共有で相続することもあります。不動産の共有名義において注意すべき点や、対策等について解説します。
不動産の共有名義とは
共有名義とは不動産を複数人で保有することです。不動産は名義人を登記しますが、不動産登記上も複数人での「共有名義」となります。親の土地を相続する際に、兄弟姉妹で共有名義とするケースもあれば、もともと共有の土地を相続するケースもあります。
共有名義の持分や相続は
持分は当事者間で自由に決めることができ、均等に分ける必要はありません。もともと共有であった土地を相続するときは、持分を相続することになります。
購入時の状況で共有名義になることも多いです。夫婦や、資金を援助してくれる親との間で共有名義とする場合です。以前は世帯主である夫(父親)の単独名義にする家が多かったのですが、現在は共働きが主流となっていますので、今後は共有名義の不動産が増えていくことが見込まれます。
共有名義の土地相続、単独名義と何が違うのか
単独名義とは1名のみの名義で登記することで、不動産の持分すべてをその人が保有している状態です。共有名義では自身の持分のみを保有し、登記の際は持分割合も登記します。ただ、持分のみの保有でも使用割合が減るわけではありません。
例えば父親単独名義の家に父親と長子が同居しているケースで考えてみます。父親が死亡し、長子がほかの家に住む兄弟と不動産を共有で相続したとしても、持分のみ保有している長子も引き続き家に住むことができます。
共有名義が問題となるケース
単独の名義人は単独で土地の管理や売買を行えます。一方、共有名義の不動産については各共有者の一存で行えるものもあれば、同意を得なければならないものもあります。行為の性質によって取るべき同意の度合いは変わります。
【共有物の意思決定に必要な同意】 共有物の変更 共有者全員の同意が必要 共有物の管理 持分価格の過半数の同意が必要 共有物の保存 各共有者が単独で行える |
家を相続した場合に、家の掃除やメンテナンスといった「保存」行為は各共有者が自由に行うことができます。他方、売却や取り壊しなど、共有物を「変更」する際には共有者全員の同意が必要です。
共有物の「管理」とは、変更に該当しない利用・改良行為のことですが、変更と管理の線引きを厳密に行うのは難しいのが現実です。実際に共有名義の不動産に対して、使用方法の変更・改良を行うときは専門家に確認しておくと間違いがないでしょう
不動産の共有名義 メリットとデメリットを比較
相続時における不動産の共有名義には、メリット・デメリットの双方があります。両者を比較していきましょう。
不動産の共有名義 【メリット】
相続人間の公平感が大きなメリットです。
遺産の分割方法でもめにくく、相続の話し合いがスムーズに進む例が多いです。もし協議が荒れた場合や、膠着(こうちゃく)状態に陥ってしまったときにも意見をまとめやすいでしょう。
近年は相続を原因とした空き家が増加していますが、空き家を相続したときに結論を留保する手段として共有名義が用いられることもあるようです。「空き家なのでいつかは処分なり売却しなければならない。しかし今は相続直後で結論を出す余裕がない」といった状況のときに、近い将来の話し合いを前提に共有にするのです。
相続した不動産が収益物件なら、持分に応じて利益を受け取る権利も取得できるので分配が楽な点も注目したいところです。
不動産の共有名義 【デメリット】
共有名義の相続人の間で不動産に対する考え方が同じならばいいのですが、管理や処分の方法について意見が食い違うと解決が難しくなります。先に挙げたように、共有不動産の管理・変更は単独で行うことができないからです。
時間がたつほど共有者間の話し合いは難易度が高くなるでしょう。解決できないまま共有者が死亡し、世代交代が進むことも考えられます。共有者の子どもが複数いる場合に、漫然と相続が行われると、子どもの人数に応じて共有者が増加します。なかには所在不明者が出ることもあるかもしれません。その場合は特別の手続きが必要です。
話し合いの意思がない共有者がいるケースも注意が必要です。不動産では持分だけの売却も可能なため、見知らぬ他人が持分を買い、共有者になることも考えられます。
不動産の相続 共有名義への対策は?
共有名義のメリットは、主に遺産分割協議の話し合いが容易になる点です。将来に禍根を残さないためには、共有名義は避けたほうが無難かもしれません。共有名義を避けるには、どのような対策が有効でしょうか。また、すでに共有名義で相続済の場合は、どのように共有名義を解消していけばいいのでしょうか。
相続前だが、共有名義になる可能性があるケース
遺産分割協議による単独名義・もしくは相続せず売却、ほかの相続人の相続放棄など、とれる選択肢は少なくありません。
具体的には次のようなものがあります。
【相続財産が不動産以外にもある場合】 いずれかの相続人による単独名義にする ほかの相続財産との配分を工夫して公平に分けられると理想的です。話し合うべきボリュームが多いので、相続発生前から親族間で相続について話し合っておきたいところです。 |
【相続財産が不動産のみの場合】 いずれかの相続人の単独名義にする 相続財産が不動産のみの事例で単独名義を目指すときは、より難易度が高くなります。生前から生命保険を活用して相続できる現金を増やしたり、生前から遺言書を活用したりすることで単独名義の実現性を高める工夫をしておきましょう。 分筆する(土地のみ) 不動産のみの相続財産を公平に分けたいなら、分筆する方法があります。分筆とは1つの土地を分けて、別々の土地に分割し、分けることです。土地を任意の割合に分けてそれぞれに登記を受ければ共有を避けることができます。土地の分筆はいつでもできるため、相続開始前に実行を検討してもいいでしょう。 相続せずに売却する すでに相続人が自身のマイホームを保有している、賃貸ではあるが遠方に住んでいるなどの理由で、不動産を相続するのが難しいことが分かっていれば、売却する方法があります。 相続放棄 ほかの相続人が相続放棄をすると、その者は当初から相続人でなかったことになるので、その子どもが相続権を引き継ぐことはありませんし、相続手続きに参加する必要もなくなります。遺産分割協議に参加する意思もない場合には有効でしょう。 |
すでに共有名義で相続しているケース
共有名義は解消可能です。共有解消に向けて早期に動き出すなら、まずは、「共有物分割のための分割請求」を行いましょう。共有物分割とは、共有している不動産等の共有状態を解消することです。原則として、各共有者はいつでも分割請求をすることが可能です。ただし、当事者間の合意により「5年以内は分割しない」といったような制限を設けることもできるので、制限がないか事前に確認しておきましょう。
分割請求により共有関係を解消するならば、次のような解決策が考えられます。
分筆して各人単独名義にする 持分放棄により単独名義とする。放棄した共有者に金銭を支払うなどする 持分売却をして単独名義とする、売却して利益を分配 |
不動産の広さや現在の利用方法によって解決方法は変わってきます。当事者間で納得のいく方法を探っていきましょう。
共有名義の選択はデメリットも知って慎重に行おう
親からの相続が発生したとき、話し合いの煩雑さを避けるために一見して楽に思える「不動産の共有名義」を選択してしまう場合もあるかもしれません。しかし一度に共有名義になると、単独名義にするためには再度話し合いをすることになります。不動産をどう相続するのかは将来の見通しを持って行いたいものです。話し合いがうまくいかない場合は専門家に相談しながら、相続人全員が納得する答えを見つけていきましょう。(提供:税理士法人トゥモローズ)