要約

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

・堅調な2017・2018年に続き、2019年の実質GDP成長率も+1.5%と、+1%程度とみられる潜在成長率を上回ると予想する。外需から内需主導の自立的な成長の形に進化していくだろう。労働需給の逼迫が賃金上昇を加速させ、消費のしっかりとした回復が続くだろう。労働需給の逼迫による省力化の必要性、都市再生関連、そ、研究開発、そして利益率維持のための売上高拡大に向けて、設備投資が拡大するだろう。外需から内需主導の自立的な成長の形に進化していくだろう。労働需給の逼迫が賃金上昇を加速させ、消費のしっかりとした回復が続くだろう。グローバルな景気拡大と円安が企業活動を刺激し、労働需給の逼迫による省力化の必要性、そして売上高拡大のため、設備投資が拡大するだろう。

・特殊要因下押し後2019年末から、需要超過と賃金上昇を背景に物価は1%超へ緩やかに上昇幅を拡大するが、2%の日銀の物価目標達成はかなり先となろう。物価目標は政府との共同で維持され、日銀はマネタリーベース増加を含む現行の金融緩和の枠組みを維持し、長期金利を辛抱強く抑制し、フォワードガイダンスで早期出口論を封印し、再び円安の力となろう。長期金利誘導目標引き上げは、安倍首相が自民党総裁任期満了を控えてデフレ完全脱却を宣言するとみられる2021年半ばとなろう。

・アベノミクスは国民に信任されている。構造改革を推進させつつ、安倍首相の任期末までは生産性の向上への投資拡大とデフレ完全脱却を目指し、財政政策は緩和的になるだろう。景気拡大の実感が生まれ、内閣支持率は持ち直すだろう。

・企業活動の回復で企業貯蓄率も再低下していく中で、財政政策も緩和し、マネーが循環・拡大する力であるネットの資金需要が復活し、それを間接的にマネタイズする金融政策の効果も強くなり、ポリシーミックスとして、リフレの力が強くなるだろう。

・アベノミクスの最大の成果である長期金利を上回る名目GDPの拡大が、円安を含め、デフレ完全脱却に向けたリフレの力を引き続き促進するだろう。リフレによる財政再建は成功しつつあり、政務債務残高のGDP比率はトレンドとして低下していくだろう。

金融政策-2%の物価目標は維持されるだろう

・日銀はマネタリーベースの増加を含む現行の金融緩和の枠組みを維持し、長期金利を辛抱強く抑制し、フォワードガイダンスで早期出口論は封印され、再び円安の力となろう。2%の物価目標は政府・日銀の共同のものであり、変更される可能性は極めて小さい。為替操作ではなく、国内要因での金融緩和であることを正当化するためにも必要だ。日銀は、緩和の副作用の目先の軽減より、物価目標達成と資金需要回復による金融機関の収益構造の本格的な安定化を目指すだろう。

・日銀の長期金利の誘導目標引き上げは、安倍首相が自民党総裁任期満了を控えてデフレ完全脱却宣言するタイミングの2021年半ばまで先送りとなるだろう。必要条件は、展望レポートの経済・物価のリスクバランスの中立化だろう。まだ低い誘導目標とより強く上昇していくフェアバリューとの差は拡大を続け、金融政策は緩和的であり続ける。2%の物価目標達成が確認でき、短期金利の引き上げに踏み切るのは、かなり先の2022年となろう。

図)日銀バランスシート

日銀バランスシート
(画像=日銀、SG)

財政政策-引き締めから緩和へ転換し、ポリシーミックスの形に

・財政政策は、 「生産性革命・集中投資期間」として、教育への投資を含む「全世代型社会保障制度」の創出、防災対策とインフラ整備、そしてデフレ完全脱却に向けた更なる成長のため、攻めの緩和へ明確に転じるだろう。基礎的財政収支黒字化目標は2020年度から2025年度へ先送りされ、安倍首相の新たな任期末の2021年までの制約はなくなった。2019年10月に消費税率再引きがあるが、前回より家計負担はかなり小さく、財政支出の拡大で景気下押し圧力をオフセットするだろう。金融緩和と財政緩和のポリシーミックスの形がより明確になり、ネットの資金需要の復活でリフレサイクルが強化され、デフレ完全脱却を支援するだろう。

・景気拡大により、財政赤字はトレンドとして縮小していくだろう。アベノミクスの最大の成果である長期金利を上回る名目GDPの拡大が、リフレの力を引き続き促進し、財政収支を改善させている。政府債務のGDP比率はピークアウトし始めており、日本の財政状況が著しく改善し始めているという認識が徐々に広がることになるだろう。

図)財政収支の変化と名目GDP成長率と長期金利の差

財政収支の変化と名目GDP成長率と長期金利の差
(画像=日銀、SG)

企業収益-堅調な拡大を予想

・構造改革は徐々に進展している。構造改革を含むアベノミクスの成長戦略の目的は、企業の収益力を向上させることだ。企業の売上高・経常利益率が既に史上最高の水準まで上昇していることは、改革が進展していることを示している。規制緩和、そして労働改革などにより、企業の収益力の向上が、生産性の向上などを通して、日本の潜在成長率の向上につながるような改革の継続が必要である。

・企業の体質は頑強になってきている。グローバルな景気・マーケットの不安定化、円高、そして財政緊縮にもかかわらず、日本の実質GDP成長率が潜在成長率を上回り続けることができている要因である。生産性や収益力が弱いとみられてきた非製造業の売上高経常利益率も過去最高まで上昇した。日本の企業に足りないのは財務レバレッジの拡大だ。賃金上昇などのコスト増で利益率は伸び悩み始めており、新たな商品・サービスによる売上高拡大の必要性が投資拡大につながるだろう。消費活動は刺激され、企業収益の拡大は継続するだろう。

図)売上高経常利益率

売上高経常利益率
(画像=財務省、SG)

金利-長期金利を上回る名目GDP成長率がリフレを促進

・リフレの力がデフレ完全脱却の動きを生み出している。縮小していた名目GDPと総賃金を拡大に転じさせたのが、アベノミクスの最大の成果である。名目GDP成長率が長期金利を持続的に上回るのは1980年代後半のバブル期以来である。長期実質金利はマイナスとなっている。拡張する力が抑制する力を上回り、デフレによる縮小均衡から、リフレによる拡大均衡に変化してきたことを意味する。

・名目GDP成長率が長期金利を持続的に上回ることで、企業活動の更なる活性化、株価を含むリスク資産価格の上昇が見込まれる。日銀は2021年から長期金利の誘導目標を引き上げる可能性があるが、長期金利は引き続き日銀のコントロール下にあり、名目GDP成長率を下回る状態は長期化するだろう。ネットの資金需要はまだかなり小さい。企業部門は既にストックでもネットの貯蓄部門となっている。民間貯蓄が高水準で、国際経常収支の黒字は続き、高齢化などによる財政支出の拡大が金利の高騰につながることはないだろう。

図)国債10年金利と名目GDP成長率

国債10年金利と名目GDP成長率
(画像=日銀、内閣府、SG)

為替-再度の円安の可能性

・円安への動きの再開が予想される。内需が停滞から回復、国際経常黒字のピークアウトなど、為替を左右する要因は、円高から円安の方向へのシフトを示すだろう。ネットの資金需要が復活し、マネーが循環・拡大する力が強くなり、金融緩和の効果も強くなることも、円安要因だ。2017・2018年までは日米金利差は名目では拡大したが、実質ではあまり拡大しなかった。2019年末からは日本の物価上昇の加速により実質も拡大し円安の力となろう。2021年まで長期金利の誘導目標の引き上げがないという見方が円安の動きを支えるだろう。

・円安がデフレ完全脱却の動きを支えるだろう。金融緩和の早期出口への警戒により短期的に円高となれば、日銀は長期金利の誘導目標引き上げないことになる。日銀はオーバーシュート型コミットメントの物価目標の維持とフォワードガイダンスによって早期出口論を封じ込めており、金融緩和状態の長期化が、ドル・円を中期的に120円程度に上昇させることになろう。グローバルな金利上昇の中で、円のファンディング通貨としての役割が強くなるだろう。日銀の金融政策正常化後は、110円程度が長期的な安定水準だろう。

図)ドル・円と日米実質金利スプレッド

ドル・円と日米実質金利スプレッド
(画像=財務省、内閣府、SG)

対外収支-経常収支黒字額はピークアウトへ

・経常黒字額はピークアウトし、円高圧力は減衰するだろう。海外の景気回復と交易条件の改善による貿易黒字の拡大と、膨大なネットの海外金融資産などからの所得収支の拡大で、経常黒字額は高水準を維持し、円高圧力になってきた。財政政策が緩和に転じ、内需の拡大による輸入の堅調な増加が見込まれる。米国政府からの円安と日銀の金融緩和に対する批判を封じるためもあり、日本政府は米国の貿易赤字を縮小させる内需拡大とデフレ完全脱却に強くコミットメントしていくと考えられる。

・高齢化が進行しても、国内貯蓄に対して、ネットの資金需要は強くなく、国際経常黒字はかなりの期間で維持されるだろう。企業の収益力が回復していることも支えとなろう。国内の資金余剰を背景に、金利高騰への切迫感はなく、デフレ完全脱却後の日銀の金融緩和からの出口は比較的容易だろう。

図)経常収支、家計貯蓄率とネットの国内資金需要

経常収支、家計貯蓄率とネットの国内資金需要
(画像=日銀、内閣府、SG)

政治-安倍内閣の支持率は持ち直すだろう

・国政選挙の結果などを通して、アベノミクスによるデフレ完全脱却への方針は国民に信認されている。2020年度までは生産性の向上への投資拡大とデフレ完全脱却を目指し、財政政策は緩和していく。賃金上昇により景気拡大の実感が生まれ、その実績を背景に政権に対する国民の支持は根強く、安倍内閣の支持率はいずれ持ち直すだろう。2019年の統一地方選挙と参議院選挙でも、連立与党が勝利する可能性が高い。

・アベノミクスが継続し、信用サイクル、設備投資サイクル、そしてリフレサイクルが天井を打ち破り、デフレ完全脱却に向かうのがメインシナリオだろう。景気と財政支出の拡大を背景にポピュリズムは拡大せず、衆参両院で連立与党は過半数の議席を大幅に上回り、政治は安定している。2019年から新天皇即位と新元号により、人心が新たな時代に向けて一新する可能性がある。政策余地を残すため、デフレ脱却宣言は任期末ぎりぎりとなろう。

図)内閣支持率の推移と歴代内閣の平均支持率

内閣支持率の推移と歴代内閣の平均支持率
(画像=NHK、SG)

リスク

・海外経済の状況と政策に引き続き依存: 日本経済は内需だけで景気拡大を続ける力はまだなく、海外経済が低調で輸出が底割れてしまえば、景気後退となってしまう。円高が進行し、企業のデレバレッジやリストラが再発すれば、デフレの状態に逆戻りしてしまうリスクとなる。財政赤字を拙速に縮小させようと財政政策が緊縮となれば、ネットの資金需要は復活せず、景気弱体化でアベノミクスに対する国民の信任は失われるだろう。過剰貯蓄のまま景気後退となり、デフレの状態に逆戻りしてしまうとともに、超長期金利まで0%程度に低下してしまうかもしれない。金融機関の収益構造が更に弱体化するリスクとなろう。

・構造改革の行方: 財政政策と金融政策の予想を上回る効果、そして構造改革の進展などにより、企業がデレバレッジからリレバレッジに早期に転じれば(異常であったプラスの企業貯蓄率がマイナス化)、アップサイド・ポテンシャルとなる。生産性の向上につながる構造改革が全く進展しなければ、企業の成長期待の上振れによる設備投資サイクルの更なる上昇は見込めない。潜在成長率の更なる上昇と実質所得の持続的な増加は見込めず失望となろう。その場合、人口動態の悪化の構造問題が再び注目されるだろう。

・現政権への国民の不満: 2019年10月の消費税率引き上げによる景気への下押し圧力を、しっかりとした財政支出による景気対策と所得の分配などの拡充でオフセットすることができず、景気が悪化すれば、国民の現政権への不満が大きくなり、ポピュリズム的な政治の動きのリスクとなる。憲法改正の議論の拙速な進行で、国論が二分し、現政権への不満が更に大きくなるリスクもある。デフレ完全脱却に向けて、粘り強く一貫した経済政策重視の姿を維持できるのかが注目である。景気拡大を維持し、2019年春の統一地方選挙、夏の参議院選挙、そして10月の消費税率引き上げをうまく乗り切れるのかが課題である。

表)日本経済見通し

日本経済見通し
(画像=SG)

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司