金融政策の概要:政策金利を据え置き。9月末でバランスシートの縮小を停止
米国で連邦公開市場委員会(FOMC)が3月19-20日(現地時間)に開催された。FRBは、市場の予想通り、政策金利の据え置きを決定した。
今回発表された声明文では、景気見通しやガイダンス部分については変更が無かったものの、景気の現状認識については、足元の経済指標が一部軟化していることもあって全般的に下方修正された。今回の金融政策は全会一致で決定された。
一方、FOMC参加者の見通しは、前回(12月)から、今年と来年の成長率、物価見通しが下方修正されたほか、失業率が上方修正された。また、政策金利の見通し(中央値)では、19年が前回の年2回の利上げペースから利上げ見送りに下方修正された一方、20年の年1回の利上げ、長期見通しの水準は維持された。
なお、今回の会合ではバランスシート政策が変更され、5月から国債の削減ペースを現状の月間300億ドルから150億ドルに半減するほか、9月末でバランスシートの縮小を停止することなどが発表された。
金融政策の評価:全般的にハト派的な内容。追加利上げの可能性が更に後退
政策金利の据え置きは当研究所の予想通り。また、縮小停止時期を前倒しにするなどのバランスシート政策の変更についても事前に示唆されていたことから、驚きはない。一方、19年の政策金利見通しが利上げ見送りまで下方修正されたのは意外であった。当研究所では、年初から資本市場が安定していることもあり、下方修正されても年1回の利上げに留まると予想していた。
FOMC会合後の記者会見で、パウエル議長は現在の政策金利が景気を刺激も抑制もしない中立金利の範囲内にあることを強調し、19年も米経済の底堅い成長見通しを維持するものの、物価上昇圧力が抑制されているほか、海外経済の減速や通商政策に対する懸念などから米経済に対する不透明感が強まっていると述べ、金融政策の変更判断を急がない方針を示した。
ブレグジットや米中貿易戦争などの不透明感が早期に解消する可能性は低いほか、資本市場が安定したことを確認するにも暫く時間がかかると考えられるため、年前半の利上げ判断は困難だろう。
一方、今回の会合では政策金利の長期見通しが維持され、来年1回の利上げが想定されているが、来年以降も成長率の低下基調が持続することから、当研究所は追加利上げが実施されるとすれば、来年より今年後半に実施される可能性が高いと考えている。
声明の概要
●金融政策の方針
- (雇用の最大化と物価の安定の政策)目標の達成を支援するために、委員会はFF金利の目標レンジを2.25-2.5%に据え置くことを決定した(変更なし)
●フォワードガイダンス
- 世界経済・金融情勢、抑制されたインフレ圧力の観点から、これらの結果を支援するのに適切となる将来のFF金利の目標レンジ調整を委員会は忍耐強く判断する(変更なし)
- これらの判断に際しては、雇用情勢、インフレ圧力、期待インフレ、金融、海外情勢など幅広い情報を勘案する(変更なし)
●景気判断
- 労働市場は力強いままだが、経済活動は第4四半期の堅調なペースからは鈍化した(経済活動について「堅調なペースで拡大」“has been rising at a solid pace”から「鈍化した」”has slowed”に下方修正)
- 2月の就業者数は、ほとんど変わらなかったが、最近数ヵ月を均せば雇用増加は底堅く、失業率は低位に留まった(2月の就業者の記述を追加したほか、雇用増加についての評価を「強い」”strong”から「底堅い」”solid”にやや下方修正)
- 最近の指標は、第1四半期に家計消費と民間設備投資の伸びが鈍化したことを示している(前回の民間設備投資についての下方修正に加え、家計消費について「引き続き力強く成長した」”continued to grow strongly”から民間設備投資と併せて「伸びが鈍化」”slower growth”に下方修正) 前年比でみたインフレの総合指標は、主にエネルギー価格の下落によって低下した一方、食料品とエネルギーを除いたインフレ指標は2%近辺に留まっている(総合指標について「2%近辺に留まっている」”remain near 2 percent”から「低下した」”has declined”に下方修正)
- 総じて、市場が織り込む物価見通しはこの数ヵ月低位に留まっており、調査に基づく長期物価見通しはほとんど変化していない(市場が織り込む物価見通しについて「低下した」”have moved lower”から「低位に留まっている」”have remained low”に小幅な表現変更)
●景気見通し
- 委員会は、経済活動の持続的な拡大、力強い労働市場環境、2%で対照的な委員会の目標近辺でのインフレ率の推移、が最も蓋然性の高い結果であると引き続き判断している(変更なし)
会見の主なポイント(要旨)
記者会見の主な内容は以下の通り。
●金融政策、政策金利見通し
- 米国経済は好調に推移しており、引き続き金融政策を活用して経済をサポートする。
- 米国経済は非常に堅調なペースとなった18年からは低下するものの、19年は底堅い成長を予想する。我々は、現在の政策スタンスが適当と信じている。
- しかし、昨年以降、細心の注意を払うべき国内外の幾つかの動向に留意している。良好な経済状況を考慮すると、政策スタンスの変更が必要となる事象の評価に忍耐強くいられる。
- 現状でFF金利は、景気を刺激も抑制もしない中立金利の広い推計の範囲内に入っている。
- FOMC参加者の見通しにおける政策金利予測は委員会の決定ではない。
- 政策金利の見通しについて委員会の考えを示す手段は、ドットプロットではなくFOMCの声明である。
- (本日発表されたドットプロットでは、19年の利上げ回数が2回からゼロ回に修正された一方、来年1回の利上げを予想している。FF金利先物は年末に政策金利の引き下げを予想しているが、今回の会合で政策金利見通しに急激な変化があったのか?)現在目にしているデータは、どちらの方向にも動くべきシグナルを出していない。
●世界経済・通商政策の影響
- 17年の世界経済は追い風だったが、18年は欧州、中国経済が大幅に減速。世界経済の成長鈍化は米経済の逆風になる可能性。
- 中国経済の減速は関税が影響した可能性はあるものの、企業のデレバレッジの影響が大きい。
- 関税の水準は、米国の経済規模に比べて相対的に小さい。一方、ビジネス関係者からは関税に関する多くの懸念や、輸入原材料価格の上昇、市場喪失への懸念が示されている。
●インフレ動向
- FOMC参加者によるPCE価格指数の19年見通しは、コア指数が2%近辺に留まる一方、総合指数は、昨秋からの原油価格下落の影響もあって2%を下回ると予想。
- (今年インフレが加速するのを懸念していないのか、何故賃金上昇がインフレ加速につながらないのか?)賃金はここ数年でより健全で高い水準に上昇したが、これは良いことだ。一方、インフレが加速しない要因として、自然失業率が、人々が考えているより低く労働市場の緩みが残っている可能性。また、長期期待インフレ率が2%を下回る水準で固定されているかも知れない。
- (インフレ率が中銀の目標を下回るのは世界的な現象だが、これらが中銀にもたらす課題は何か?)これは重要な課題だ。インフレの下押し圧力に対して中央銀行が打てる手は限られる。
●バランスシート政策
- 本日、バランスシート正常化の指針と計画を改定して公表した。我々は5月から資産縮小スピードを緩和し、9月に縮小を停止する計画を公表した。9月時点で準備預金の水準は政策を効率的かつ効果的に遂行する上で必要とされる額を上回っているかもしれない。
- その後一定期間は保有する資産の規模を一定にする。委員会は準備残高がこれ以上減少すべきでないと判断するときに証券保有を再び増加させる。
- (バランスシートの縮小を金融引締め政策と捉えているのか?)違う。金融政策の調整手段はあくまで金利政策である。
FOMC参加者の見通し
FOMC参加者(FRBメンバーと地区連銀総裁の17名 )の経済見通しは(図表1)の通り。長期の失業率見通しこそ上方修正(失業率は低下)されたものの、前述の通り、19年と20年の見通しを中心に全般的に下方修正(失業率は上昇)された。なお、物価見通しが下方修正された結果、20年および21年は物価目標(2%)を上回っていた前回予想から物価目標に一致する水準となった。
政策金利の見通し(中央値)は、19年が2.875%から2.375%に下方修正され、前回(12月)の年2回利上げから据え置きに下方修正された(図表2)。なお、予測した17名のうち、11名が据え置き予想にしており、前回の2名から大幅に増加した。
一方、20年と21年はそれぞれ前回の3.125%から2.625%に下方修正された結果、20年は年1回(0.25%)の利上げ、21年は政策金利据え置きと前回から利上げペースの見通しは維持された。
また、長期見通しは前回の2.75%が維持された。
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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員
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