「第一印象が大事」。その思いで始めた店づくりがSNS時代にマッチ
お客様がラーメンを撮影しSNSへアップし始めたのはいいが、庄野さんには一つ悩みがあった。せっかく美しく盛り付けても写真を撮るとなると話は別。お客様が撮影した写真の多くは影が入っていたり、ぼやけてしまっていたのだ。「ウチのラーメンを食べてもらうためには、第一印象がとても大事」。そう考えた庄野さんは、お客様がきれいに写真を撮るにはどうすればいいかを考えて、店づくりに反映していく。例えば、照明。専門家やプロのカメラマンにアドバイスを受けながら店内の明るさを検討。テーブル上にはプロが料理撮影をする際と同じ、1,000ルクスの光量を確保している。
また、2016年に護国寺にオープンした8店舗目の『MENSHO』では器にもこだわった。金沢で活躍するデザインチームseccaとともに生み出した器は、伝統の九谷焼と最新の3Dプリンタを駆使して出来上がったもので、製作費は一皿なんと2万円。「コース料理の一品としてラーメンが供されているように」との思いで作られた器は、白を基調にアシンメトリーなフォルムでエッジを利かせている。
もちろん、これだけこだわるとなると原価もかなりのもの。創作ラーメンでは、開発費を含めると原価率は50%にもなるというが、庄野さんは創作ラーメンで利益を取ることは考えていないという。
「ファンサービス的な意味合いもありますが、自分たちの勉強にもなっています。他店にはない食材で作るとなると、僕たちが自分で研究するしかない。だからやる価値があるのです。それに、新規出店の時には商品作りにも役に立ちます。“これはお客様にウケたな”というデータが取れますから」
通常ではあり得ないほど高価な器を開発し、創作ラーメンの原価率も高めに設定。この利益を圧迫しかねないチャレンジングな店舗運営には、庄野さんのこんな思いが隠されている。
「2万円の器を使うなんて、原価を考えたら普通はできない。でも、『フレンチは食べに行くけれど、ラーメンは行かない』という人にもラーメンの魅力を知ってもらいたい。同じお店をコピーして展開するチェーン店が一番利益が出る構図ですけど、僕が目指すのはそうじゃない。ラーメンも、その周りの空気感もプロデュースして、店舗ごとにがらりと内容を変えていく。イノベーションが起きるようなラーメン店をやっていきたいんです」
来春にはサンフランシスコ2号店をオープン予定。さらにその次の構想もしっかりとイメージしている。
「いろんなお店で高め合って、もっと技術を磨きたいです。そして今後はアメリカ全土、そして世界に“本物”のラーメンを届けたい。そのために大切なのが、サンフランシスコの店。サンフランシスコはシリコンバレーが位置し、多くのIT系企業があります。ここで働く人たちは、情報にとても強い人たち。SNS映えを目指して商品を作るわけではないけど、情報に価値を付けて拡散してもらうのはとても重要。これからも情報が拡散しやすい環境づくりを大切にしたいと考えています」
スマートフォンで写真を撮る……。今では当たり前になっている光景だが、お客様の行動の変化にいち早く着目し、徹底的にそこを追求してきた庄野さん。小さな個人経営のラーメン店がSNS時代に絶妙にマッチしたことで、今や世界を股にかけるほどの存在になりつつある。『MENSHO』グループの次なる仕掛けがとても楽しみだ。
『MENSHO』
住所/東京都文京区音羽1-17-16 1F
電話番号/03-6902-2878
営業/11:00~15:00、17:00~21:00
定休日/月曜・火曜
席数/10
(提供:Foodist Media)
(執筆者:戸田千文)