★対メキシコ関税引き上げ、延期観測。 米国株主要指数はおおむねこれで3日連続となり、200日線奪回から今度は25日線奪回を始めています。 きっかけはブルムバーグ報道ですが、複数の関係者筋の話として、米国政府が対メキシコ関税引き上げ(5%。最大20%)に関して、延期することを検討しているというものです。 トランプ大統領自身は、妥決には程遠いとツイートしています。 米中問題は、両者とも実質的に貿易問題というより国防の問題ですから、そう簡単ではないのもわかります。なにしろ野党民主党のほうが対中強硬論であるくらいです。 一方メキシコは、本質は移民問題ですから、まだ解決の糸口は得やすいということはあるでしょう。また、米国内には対メキシコ関税には反対論も多いことも手伝っているようです。 いずれにしろ、確定した話でもありません。市場では、昨年12月安値以降、5月までの上昇局面に、乗り遅れた向きが非常に多かったと言われていますので、この種の市場参加者たちが買いたい欲求を正当化するのに、観測報道にとびついたというのが実態ではないかと推察できそうです。
★米主要株価指数、25日線奪回を始める。 主要株価指数は、今週底入れから200日線奪回をし始めましたが、続伸で今度は25日線奪回に動いています。 総合株価指数S&P500、グローバル指数のダウ工業株、そして最大のリスク指標であるジャンクボンド、この三つがまず25日線奪回に成功しました。 肝心の先行指標であるダウ輸送株指数は、貿易問題の進捗がないためでしょうか、むしろ昨晩は軟調に終わっています。 ちなみに、高利回り銘柄の多い電力・ガス・水道といった公共株の指数・ダウ公共株指数は、前日上場来高値更新でしたが、昨晩はさらに続伸して、連日の新値更新となっています。 この辺にも、株式市場から全面的に資金が逃避したのではなく、半身で国債に逃避していたということがうかがわれます。
★市場の悲観論の後退。 市場全体から悲観論が後退しているのは、プット買い(言わば、下落相場に備えた掛け捨て保険)が落ち着いてきていることにも表れているようです。 この動きを示しているのが、VIX(恐怖、変動)指数です。 3日続落です。前日200日線・25日線を割っていましたが、ついに昨晩は16台を割り込みました。15.93です。 15を割ってくるようですと、今度はリスクパリティ型のファンドが、買いプログラムを機械的に発動するところが相次ぐことになるでしょうから、もう一段低下してくると面白い展開になりそうです。 6月は政策発動が相場を突き動かす、としてきた当レポートですが、すでにフィリピンなど新興経済国家で利下げが始まっています。豪州が続き、インドも妙読み段階です。 中心軸にある米国でも、連銀が年内利下げを排除しないとしたわけですから、世界的な規模で再び金融緩和措置が行われる公算が高まってきました。 各国によって状況の程度は違いますが、アメリカ自体は本来不必要な措置ですから、過剰な政策発動になってきます。
★景気・相場の底入れが、上半期という想定は変更無し。 当レポートでは、年初から一貫して、景気や相場の底入れが今年の上半期だとしてきました。 マクロが1-3月、ミクロでは4-6月としていましたが、経済指標や個々の企業の業績については、これらの想定より遅れるものは多々あるでしょう。 が、先行的なものは上記の線で進捗しているはずだと思います。 恐らく目立ってファンダメンタルズデータが浮上しているように見えてくるのは7月でしょう。 昨日も述べたように、中国で4月に輸入が増勢に転じていることはその象徴的な先行事象でしょう。 連銀がすでに利下げの選択肢を否定しないと述べたことで、あとはアメリカの行政府にボールが投げられたことになります。連銀からは、FOMCの日程が近づいているので「ブラックアウト期間」に入るため、一切発言が出てきません。 行政府にボールが預けられているとすれば、当然次の材料はG20(本日から、代理会議。週末から蔵相・中銀総裁会議。28-29日に首脳会議という段取り)で、次第に明らかになってくるはずです。 とくに、注目される米中協議再開ですが、中国は先行指標のPMI(センチメント指数)が50割れとなりましたから、前回と同様、この直後には必ず政策で動いてくるはずです。 また、アメリカの関税発動と相場のからみで言えば、発動までは株式相場は下げますが、発動されると相場はことごとく反転上昇してきた経緯があります。織り込み済みです。 G20の3段階に及ぶ会議の過程で、米中問題がどうなっていくか不明ですが、仮に決裂という最悪のケースになったとしても(残りの3000億ドルの関税引き上げ)、当面アメリカにとっては痛くもかゆくもない話なので(中国経済は土俵際です)、株式相場はこの後は、もはや悪材料が出ないということになります。 これもアク抜けです。 従って、どういう事態に転んでも、おそらく株式相場は底入れの確認をすることになるだろうと想定しています。
★中国の動向。 トランプ大統領のツイートによると、中国との貿易交渉の妥結は、G20後だという認識になってきています。 大統領のブラフですから、真に受けるわけにはいきませんが、今後両国の協議日程の予定がなかなか決まりませんと、物理的・時間的にG20での妥結は無理、ということになってしまいます。 誰が考えても、G20の首脳会談で妥結という運びでしょうが、なにか変化があったのでしょうか。 二点考えられます。 一つは、昨日から福岡で、G20各国の代理協議(事務方の協議)が始まっているはずですが、そこでなかなか折り合いがつかないということ。 二つは、中国では政策発動によって4月の輸入が増勢となってきているから、景気テコ入れ策で中国経済が最悪期を脱した可能性があることから、アメリカはもっと強硬に中国を叩かなければ、自身に都合の良い交渉ができないと踏んだ、ということ。 こんなことぐらいしか考えつきませんが、いずれにしろ、対中問題はまだ流動的なようです。 にもかかわらず、相場が続伸しているわけですから、メディアがさかんに喧伝していたほど、米中問題は景気減速や相場下落の本質的な問題ではない、ということがよくわかります。
★半導体の動向に注目。 昨晩個別銘柄ですが、アメリカで一つのニュースがありました。 セルサイドのアナリストが、半導体メーカー大手AMDの投資判断をネガティブから中立に引き上げ、ターゲット株価も従来の17ドルから28ドルに、一気に65%も引き揚げたのです。 AMDといえば、インテルと並んでアメリカを代表する半導体メーカー最大手です。 昨晩は結局7.9%の高騰となって戻り高値更新をしていますが、実はよく見ればこの銘柄、年初来高値更新です。 さらに言えば、年初来一貫して右肩上がりを維持しており、ほとんど200日線を割ったことすらありません。50日線・25日線を割っても常に一時的でした。この強さは異様な感じすらあります。 AMD固有の事情で片づけられるがやや疑問なほどの強さです。 とくに4月以降はほとんど横ばい高原状態で、全体相場の下落にも関わらず、影響は軽微でした。ここ10日ほどは復調で、昨日は一気にこの4月以来の持ち合いレンジを突破するという快挙となっています。 株価としては底を這っているインテルとは偉い違いです。ちなみに、半導体製造装置最大手のアプライド・マテリアルズは先を行くAMD、まだ地を這うインテルの、ちょうど中間にあります。すでに200日線をサポートにした調整が終わろうとしています。25日線も昨晩奪回したことで、あとはすぐ上に控えている50日線の突破が待たれるわけですが、これを突破しますと、半導体製造装置への設備投資の再開を先取りした株価の動きが確定してくることになります。 このように、個々の銘柄のは齟齬はあるものの、今後とくに半導体関連、さらには景気先行業種と目されるディープ・シクリカル系の銘柄の動きにはよくよく注目していきましょう。(提供:Investing.comより)
著者:増田経済研究所 松川行雄