日本の消費者の目が世界で戦う最強の武器

世界の人々にとって日本製品は、日本人の想像以上に強い人気があります。なぜそれほどまでの商品となっているのか。その理由は、日本人消費者の厳しい基準にあります。

なぜ、日本製品は人気があるのか

1980年代、日本の国内市場は旺盛な消費意欲を持つ団塊の世代が主導していました。この元気な国内市場を背景に、日本の企業は世界へ進出しました。

購買意欲の高い国内市場で商品を鍛え上げ、マーケット的に強い商品にしてから海外に輸出する。

このパターンで、世界の競合を打ち負かしていったのです。

しかし、この世の春を謳歌していた日本の企業も、バブル崩壊後、アップルやグーグル、アマゾン、フェイスブックなどの新しい時代の寵児(ちょうじ)が世界を席巻し、中国や韓国のメーカーが台頭してくるなかで、かつての輝きを失っているように見えます。

でも、本当にそうなのでしょうか。最近のインバウンド需要を見ていると、日本の企業は依然強いのではないかと、私は思ってしまいます。

中国からの観光客は、日本製の紙おむつや温水洗浄便座、家庭用医薬品、化粧品などを大量に買い求めています。

また、来日した世界中のシェフたちは日本の包丁を買い求めます。さらに日本の砥石(といし)まで売れているのを見ると、日本という国の持つ強さの秘密が、少しわかるような気がします。

日本には、明治時代に資本主義が確立する前から連綿と受け継がれてきたもの作りの文化と伝統があります。そのもの作りの技術に支ささえられた商品と、日本独自の市場のなかで鍛え上げられてきた商品が強いということです。

包丁はまさにそうではないでしょうか。伝統的な技術に裏打ちされたその切れ味は世界中のシェフを惹きつけています。さらに、切れ味だけではなく、包丁の種類の豊富さも注目を浴びているようです。

世界中に包丁はありますが、日本のように細分化していて、目的別に分かれているものはないという話です。それに、シェフの名前を入れてくれるという付加サービスも魅力となっているようです。

また、温水洗浄便座がそうですが、これは日本で独自に生まれ、進化してきた商品です。世界のどこにもなく、日本独自の世界で進化してきた市場が国外の消費者を魅了しているのです。

日本の製品にはふたつの魅力がある

私は常々、日本製品にはふたつの魅力があると考えています。

ひとつは、日本の優秀な技術力と労働力、厳しい品質管理に支えられた日本製品の質の高さです。

日本製品なら安心。そう考えている人が、世界の消費者には多いのです。多分このことについては、みなさんも賛成していただけるのではないかと思います。

そして、もうひとつの日本製品の魅力とは、「世界でいちばん優秀な消費者である日本人」がその製品を使っているということではないでしょうか。

日本の消費者は世界でも特別な存在です。

バブルを体験し、海外旅行の経験も多く、世界のいたる所で買い物を経験しています。洗練のされ方、ショッピングの経験と質が他の国々の人々と比べて格段に違うのです。

そして、商品の品質、安全性、デザイン、新規性、包装紙、ラッピングの仕方、広告などのすべてに感度が高く、基準が厳しいのです。

この高い基準をくぐり抜けてきた日本の商品は、それだけで魅力的です。

厳しい基準で商品をチェックし、中身にも、外見にもこだわる日本の消費者のお墨付きがついた製品が、日本で販売されている商品なのです。

中国の人たちが紙おむつや粉ミルク、日本の家庭用薬品を買い求めるのは、「日本人が使っているものだから安心」「日本の市場で流通しているものだから安心」という心理的な背景があるからではないでしょうか。

同じ会社の紙おむつでも、中国工場で作られたものより、日本の工場で作られたものを中国の人たちは買い求めて、日本にやって来るようです。

こういう日本のブランド化は、日本の企業にとって強い武器になるのではないでしょうか。

売り先を国内から世界に変えるグローバル化の波

日本の企業は今まで、国内市場向けに販売し、その商品を世界に売り出すという販売戦略でした。しかし、この戦略は古いと思います。

日本の人口減少を考えると、これからは最初からグローバル市場を目指すべきではないでしょうか。

日本の企業は今までの国内市場優先のマインドセットを変え、ヨーロッパ、アメリカ、中国、アジア、オーストラリア、ニュージーランド、日本をひとつのマーケットと考える見方に移行するべきです。

そして、私がいま申し上げたことを実行するためには、日本の企業はある問題点を改革するべきだと思います。それは、日本の上場企業の経営者を見ると外国人が少なく、日本国籍の社長がほとんどだということです。別の言い方をすると、企業の上層部に国籍や人種の多様性がないということです。

グーグルやマイクロソフトの社長はインド人です。アメリカのテック企業を見てもまだ白人偏重傾向はあっても、人種の多様化は進んでいます。グローバルでのゴディバの経営陣には、アメリカ人、インド人、イギリス人、フランス人、オーストラリア人など多様な国籍の人間がいます。

グローバル化に対応できる経営陣の多様化を進め、日本の消費者のきめ細かな感性で、世界市場を目指した商品を作れば、日本の企業はきっと世界的なヒット商品を生み出せるのではないでしょうか。

食品業界でいえば、日本の食品は、イスラム教の「ハラル」、ユダヤ教向け「コーシャ」に対応しているものはまだまだ少ないようです。

イスラム教徒の人口は世界人口20%ぐらいを占めています。この市場に出て行かない手はないのではないでしょうか。

アメリカの上流階級にはユダヤ教の人も多く、パーティーなどでもコーシャ用の食事やお酒が用意されていたりします。コーシャには厳しい基準があり、コーシャ認定だと安心というイメージがあります。日本の優れた食品をコーシャ認定にし、世界へ売り出せば人気が出るのではないでしょうか。

日本の企業は、日本人消費者の高度な感覚と厳しい目を武器にしてグローバルな世界に出ていけば、これからもいくらでも勝機があると思います。日本の優れた消費者の意見を吸い上げて、世界に出ていくべきなのです。

世界の人々は自分たちに向けて作られた日本の製品を待っている、と私は思います。

ゴディバ ジャパン
ジェローム・シュシャン
日本およびアジアを中心とする国際市場において25年以上に渡るラグジュアリーブランドのマネージメント業務に従事した経歴を持つ。2010年6月にゴディバ ジャパン株式会社の代表取締役社長に就任、革新的な新製品の開発やチャネル拡大戦略、マーケティング施策により多様化する顧客のニーズに応え、日本の業績を7年間で3倍に成長させた。日本以外に、韓国、オーストラリア、ニュージーランド、ベルギーの生産工場(「Manufacture Belge de Chocolats」)のマーケットを統括する。2016年に、初のビジネス書「ターゲット ~ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?」を執筆。フランス人社長が日本の武道の一つである弓道を通して得た、マネージメントやリーダーシップへのアプローチについて綴っている。同書の英語版は2018年4月に出版され、海外からもそのユニークなビジネス手法に関心が寄せられている。2019年に、「ゴディバ ジャパン社長の成功術 働くことを楽しもう。」を出版。若いビジネスマンに向けたハッピーマネジメント術を紹介している。

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