組織:自分の頭でとことん考え抜いた人が勝つ。
孫子の兵法書の一節に、次のような文章がある。
「未だ戦わずして廟算して勝つ者は、算を得ること多ければなり」
孫子の有名な「算多きは勝ち、算少なきは勝たず」(「計篇第一」)という文章の前に、述べている内容である。
孫子の一文は、いずれも深く考えさせられるものばかりである。その中でも、この行は、小生がもっとも肝に銘じているところであり、まさに経営の本質をついている内容である。
組織のトップは、あらゆる意思決定の最終決断者であり、その責任を負う。私たちは、トップの判断ミスが組織を破滅させた例を新聞等に限らず、多く知っている。トップの深い思考力、考え抜く力の重要性を説いているのである。
ここに、「廟算(びょうさん)」とある。
「廟算」とは、祖先の霊廟での算(作戦会議)である。古代中国では開戦の前に、戦勝祈願をかねて祖先の霊廟で作戦会議を開き、勝利するための計画を練っていたという。
なぜ、廟での算なのか?これに対して、伊丹敬之教授※は次のような解釈をしているが、示唆に富んでいる。「それは、歴史に恥じない算をせよ。先祖に対しても、そして後世に対しても、恥じない算を徹底的に突き詰めること」
まずは、歴史の流れ(時流)をしっかりと掴むことの大切さであろう。さらに、時代を支配している価値観(ものの考え方)とは何か、それがどう変化しようとしているのか、を見極めることの大切さであろう。「歴史に恥じない算」「廟算」……、すばらしい言葉だと思う。
先週、全国経営者大会※が帝国ホテルで開催された。
各界を代表する著名な講師陣が、「新たな時代を切り拓くために何をなすべきか?」について、さまざまな切り口で講演するのを聴いていた。
共通して言えるのは、「過去の延長線上に未来は描けない」というパラダイムシフトを意識しての課題への取り組みが多かったと思う。
新たな成長戦略をどう描くのか?その解は、「小手先のテクニックは通用しない。自分の頭で、とことん考え抜いた人が勝つ!」
一言でいうと、「廟算」である。未来への選択は、徹底して自ら考え抜くしかない。歴史の流れ、時代を支配する価値観の勢力図を見極めて、大胆かつ繊細に、柔軟に発展の構想を描き続けること。
「歴史に恥じない算」「廟算」しよう! ぜひ、「将軍の日」へ!
伊丹敬之
日本の経営学(1945 年~)。一橋大学名誉教授。
全国経営者大会
日本経営開発協会/関西経営管理協会主催で行われる
経営者向けのセミナー。
組織:決断力は2つの視点で磨き上げる。
あらゆる失敗の最大の原因は何だろうか?それは、「決断力」の欠如、優柔不断さではないだろうか……。
職業柄、経営の崖っぷちという状況に居合わせる場面がある。まさに、トップの「決断力」を試される瞬間である。「伸(の)るか反るか」の局面であるから、当然のためらいが生じる。だが、トップとして決断から逃げるわけにはいかない。
経営とは決断の連続である。優柔不断さは、トップにとって致命的欠陥であり、組織の存亡に関わる重大な問題だといえよう。それゆえに、自らの「決断力」を磨き上げる努力を怠ってはならないと考える。
「決断力」とは、考える力とそれを実行に移す勇気である。経営において決断を迫られる状況は、次の2つに大別して考えることができよう。
1 戦略的な「決断力」
組織の取るべき進路・方向性を見定めるための大局的な決断力。パラダイムシフトが起きている環境において、未来のあるべき姿をどう描くか。ドメインの再構築を含め、イノベーション的な決断を迫られる。
理念・目的という原点に立ち返り、「何のために存在するのか?」という目的思考が問われる。
2 戦術的な「決断力」
眼前の敵(問題)にどう対処すべきか、という局所的な決断力。問題の見極めが重要となる。次の4つの質問が有効だ。
①問題点は何か?(つまり、問題の所在をはっきりさせる)
②問題の原因は何か?(原因をはっきりさせると解決策が明らかになる)
③解決策は幾通り考えられるか?(衆智を出し合う)
④最も望ましい解決策はどれか?(実行可能な解決策を絞り込む)
「決断力」の欠如とは、主体性の欠如と置き換えてもいいのではなかろうか。問題への無関心さ、他人への依存、失敗への恐れ、判断力の低下、ストレスによる無気力感、疲れによる集中力の低下等々。
だから、前述の2つの視点からつねに問題と向き合い、自らの主体性を磨き上げることが「決断力」の向上につながるのである。
それから、勇気。決断の価値は、それを下すのにどれだけの勇気が必要であったかによって決まるという。勇気とは、自らの信念を貫き通そうとする強い心意気のことである。
経営そのものが難しいのではない。自らの「決断力」の欠如が経営を難しくしているのだと考えてみよう。やることを明確にすれば、物事はシンプルである。
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