ジャーナリスト 堀潤氏の監督作品「わたしは分断を許さない」を一般公開に先んじて観させていただいた。
香港、福島、沖縄、シリア、ガザ、北朝鮮、、、、堀氏はこの5年間、国内外のあらゆる場所に「分断された世界」の存在を意識したという。作品の主張はタイトルが示す通りであるが、饒舌な解説も挑発的な言説もない。主題は「分断」の現場を生きる登場人物(被取材者)一人ひとりの現実の “物語” として表現される。
堀氏は「主語を小さくする」ことが大切である、と語る。ゆえに香港のデモはアニメが好きな陳逸生さんが向き合う民主主義の問題であり、沖縄の問題は久保田美奈穂さんが感じる基地への違和感を通じて描かれる。故郷を離れた深谷敬子さんの無念と生き難さの中に福島の問題を捉え、将来は小児科医になりたいというシリアの少女ビサーンさんの屈託のない笑顔と、難民キャンプで活動する松永晴子さんの涙が難民問題の重さを象徴する。
小さい主語への拘りは市場調査を生業とする当社にも通じる。当社は自身の活動について「日々変化する市場のダイナミズムを個々の企業活動の視点から捉える」、「机上の空論を排し、徹底して現場にこだわる」と表明している。しかし、実際の活動は本当にそうなっているだろうか。
成長産業はどこだ? 技術革新の経済インパクトは? 地方創生の経済効果は? 単純で刺激的なテーマを設定して、安易に答えを導いていないか。私たちもまた経済活動における個々の「現場」を見失うことのないよう常に留意し続ける必要がある。
私たちの社会、経済、産業、業界、、、いやいや “主語は小さく” である。そう、私たちの会社、そして、私自身もグローバル経済の一構成員である以上、堀氏が突きつける「あなたも分断に加担していませんか」という問いの前にたじろがざるを得ない。何らかの形で、どこかを介して、直接、間接を問わず「分断」をする側のシステムに組み込まれているのだろう。映画はそれを意識することの大切さを思い起こさせてくれる。と同時に、遠く、そして、どれほど小さくとも、何らかの形でつながっているのであれば、11歳のビサーンさんの未来への希望に関与することも出来るはずだ。日常を越えられない日々の中で何が出来るのか、そんなことも考えさせられる。一般公開は3月から、是非、ご覧いただきたく思う。
今週の“ひらめき”視点 1.19 – 1.23
代表取締役社長 水越 孝