相続についていつ話すのがよいか―― 私たち相続のお手伝いをする立場では「できるだけ早く」とお伝えしたいところですが、実際にはなかなか難しいようです。

相続についての話し合いは、生前に対策を考える場合と、実際に相続が起こった場合の2つのケースがあります。

親がまだまだ元気なうちに相続対策の話を切り出すと、「親が死ぬのを待っているのか」と思われそうです。また、親が亡くなっていきなり相続の話を始めると、「そんなに遺産が欲しいのか」と思われてしまいます。

この記事では、生前の場合と死亡後の場合の2つのケースで、相続についていつ話すのがよいかを考えます。

相続についていつ話すのがよいかについては人それぞれの考え方があって、決まった答えを示すことができません。これからご紹介する内容はあくまでも一つの目安ですが、相続についてなかなか話を切り出せなくてお困りの方は参考にしてください。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

1.相続についていつ話すのがよいか?~親が元気なとき~

遺産相続をめぐるトラブルは、遺産が多い富裕層に限ったものではありません。 遺産が自宅だけといったような場合でも、その自宅をめぐって遺族どうしでもめることがあります。

遺産を円満に相続するためには、親が元気なうちに家族で話し合って対策をしておくとよいでしょう。生前に話し合っておけば、どのように財産を継がせたいのか親の意向も聞くことができます。

親の方から相続の話を切り出してくれれば助かりますが、そのようなケースはあまりありません。親にとってみれば自身が死んだ後のことであり、家や事業を継がせたいといった強いこだわりがなければ、相続について無関心になりがちです。自身が死ぬことを意識するため、できれば先送りしたいという気持ちもあるでしょう。

相続の生前対策は親が元気なうちに始めたいものですが、話をするタイミングや切り出し方は慎重に考えなければなりません。唐突に相続の話を切り出したばかりに、親が心を閉ざしてその後の関係が悪化することさえあります。

1-1.親が「その気」になったタイミングをうかがう

お盆や年末年始など家族が集まる機会は生前対策の話をするにはうってつけですが、そのときに親が相続に向き合う心構えができているとは限りません。まだまだ元気な親に相続の生前対策の話をするには、親が「その気」になったタイミングをうかがうことが大切です。

親が相続に向き合うきっかけとしては、次のような例があります。

  • 両親のどちらかが亡くなったとき
  • 親戚が相続でもめていると聞いたとき

両親のどちらかが亡くなったときは実際に相続をしなければなりませんが、その一方で、次に起きる相続について対策を考えるきっかけにもなります。

親戚など身近な人が相続でもめていることを聞いたときも、自身の相続について考えるきっかけになるでしょう。身近な人の相続トラブルを聞くと、「我が家ではこんなことは起きて欲しくない」と思うものです。

親が病気やケガをしてしまった場合や、介護施設に入所するタイミングなども相続について話すきっかけになるという意見もあります。しかし、親の気持ちが落ち込んでいるときに相続の話をすることはおすすめできません。

このようなときは、ひとまず、預金通帳の保管場所や保険の加入状況など差し迫って必要なことだけを聞くようにしましょう。治療費や入院費用、入所費用の支払いに必要と言えば親の理解も得やすいでしょう。

少し難易度は上がりますが、相続とは直接関係のない何気ない話などをきっかけに、相続の生前対策の話をすることもできます。たとえば、マイホームを買ったときの思い出話などから、家を今後どうしていくかという話に持ち込むといった要領です。

1-2.相続対策の話は相続人全員で

相続人となる予定の子供(兄弟姉妹)が複数いれば、相続対策の話は兄弟姉妹全員でするようおすすめします。

特に、親と同居している子供と別居している子供の間では溝ができやすいので注意が必要です。別居している子供を話し合いに加えないと、同居している子供が親の財産を横取りするつもりではないかといった疑いが生じやすくなります。

2.相続についていつ話すのがよいか?~親が亡くなったとき~

親が亡くなったときは遺族どうしで相続の話し合いをします。この章では、親が亡くなったとき、相続についていつ話すのがよいかの目安をお伝えします。

相続については民法に細かい規定がありますが、いつからいつまでに話し合いをしなさいということまでは決められていません。ただし、相続に関連したさまざまな手続きの中には期限が定められているものがあるため、これらの期限に間に合うように話し合いを進めていく必要があります。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

遺産を相続するか放棄するかの判断はすべての人について必要になるため、相続放棄の期限(死亡から3か月以内)に間に合うようにできるだけ早く話し合いを始めるようおすすめします。

2-1.四十九日法要の頃が目安

相続の話し合い(遺産分割協議)は、相続人全員で行わなければなりません。

相続人が全員集まって、かつ相続について話し合うのにふさわしいタイミングとしては、仏教で葬儀を行う場合の四十九日法要があげられます。告別式のときは相続の話をする気が起こらなくても、四十九日の頃にもなると気持ちが落ち着いてきます。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

このほか、葬祭業者から促されたり、預金の名義変更手続きのときに案内されたりして相続の話し合いを始めるケースもあります。

通夜と告別式の合間に相続の話を始めるケースもあるようですが、あまり早く相続の話を始めると、遺産をあてにしているのではないかという印象を持たれてしまいます。

2-2.故人と身近だった人が話を主導する

相続の話を主導するのは、配偶者や同居の子供など、故人と身近だった人がよいでしょう。自宅のほか遺産の状況をより詳しく知っているからです。相続は葬儀と直接の関係はありませんが、喪主を務めた人が相続の話し合いを主導するのも一つの方法です。

3.まとめ

ここまで、相続についていつ話すのがよいか、生前対策と実際の遺産相続の2つのケースについて目安となる考え方をご紹介しました。

遺産相続は死ぬことと財産が結びついているだけに、話をするにも慎重になる必要があります。話を切り出すタイミングを間違えると、家族関係に悪い影響を及ぼす可能性もあります。

人によって考え方が違うので正解を一概に示すことはできませんが、生前対策については親が相続に向き合う心構えができたタイミングで話を切り出すのが一つの目安となるでしょう。実際の相続では四十九日法要の頃に話し合いを始めるとよいでしょう。(提供:税理士が教える相続税の知識