不幸にして妻とお腹にいる赤ちゃん(胎児)を残して夫が亡くなってしまった場合、相続人が誰になるのかご存じですか。当然ながら妻は夫の相続人となります。しかしお腹の中にいる胎児は相続人となるのでしょうか。そこで今回は胎児と相続について解説していきます。

法律上の規定

胎児,相続人
(画像=Valeria Aksakova/Shutterstock.com)

通常の相続の場合も同様ですが、民法上と相続税法上では相続に関する取り扱いが違うケースがあります。まずは民法上の相続に関する胎児の規定について解説します。

“民法
第三条 私権の享有は、出生に始まる”

出典:電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)

民法では相続権をはじめとするさまざまな権利は出生によって始まるとされています。ただし胎児については、民法の別の条文で次のように定められています。

“(相続に関する胎児の権利能力)
第八百八十六条 胎児は、相続については、既に生まれたものとみなす。
2 前項の規定は、胎児が死体で生まれたときは、適用しない”

出典:電子政府の総合窓口e-Gov(イーガブ)

つまり民法では、胎児はすでに生まれたものとしてみなされ相続人となりますが、不幸にして死産の場合には相続人とはならないという決まりです。そのため胎児が出生直後に亡くなった場合は、胎児は父親の相続人となり、法律上は父親の財産を相続することができるため、出生直後に亡くなった胎児の相続が開始することになります。

このように民法上は「胎児がいるか」「無事に出生をしたか」「死産をしてしまったか」によって相続人の人数が変わってくるのです。

相続税法上の規定

それに対して相続税法上の規定は民法上の規定と異なります。相続税法上の胎児の規定・取り扱いは以下のようになっています。

“法令解釈通達 第27条《相続税の申告書》関係
(胎児が生まれる前における共同相続人の相続分)
11の2-3 相続人のうちに民法第886条(相続に関する胎児の権利能力)の規定により既に生まれたものとみなされる胎児がある場合で、相続税の申告書提出の時(更正又は決定をする時を含む。)においてまだその胎児が生まれていないときは、その胎児がいないものとした場合における各相続人の相続分によって課税価格を計算することに取り扱うものとする”

出典:国税庁

つまり相続税法上は、胎児については生まれていないものとみなして相続税の課税価格を計算することとなっています。ただし胎児の出生前と出生後では相続人の人数が変わるため、相続税法第32条では一度相続税の申告書を提出した場合、修正申告または更正の請求を行うことができるとしています。

“(胎児がある場合の申告期限の延長)
27-6 相続開始の時に相続人となるべき胎児があり、かつ、相続税の申告書の提出期限までに生まれない場合においては、当該胎児がないものとして相続税の申告書を提出することになるのであるが、当該胎児が生まれたものとして課税価格及び相続税額を計算した場合において、相続又は遺贈により財産を取得したすべての者が相続税の申告書を提出する義務がなくなるときは、これらの事実は、通則法基本通達(徴収部関係)の「第11条関係」の「1(災害その他やむを得ない理由)の(3)」に該当するものとして、当該胎児以外の相続人その他の者に係る相続税の申告書の提出期限は、これらの者の申請に基づき、当該胎児の生まれた日後2月の範囲内で延長することができるものとして取り扱うものとする”

出典:国税庁

さらに、まだ胎児の時点で胎児が生まれたものとして相続税額などを計算し、相続税の申告書の提出が不要となる場合には、申請をすることにより胎児以外の申告書の提出期限を胎児が出生してから2ヵ月の範囲内で延長できるとしています。

遺産分割や相続手続きをする際の注意点

このように民法上と相続税法上では胎児に関する規定などが異なり、遺産分割や納税額などに影響が出るケースも考えられます。

相続税の申告には期限がありますが、遺産分割や財産の名義変更については期限がなく胎児が実際に財産を取得するのは出生後です。そのため、もしこのようなケースに該当してしまった場合、税務にかかわる手続きは期限内に行い、民法上で規定される手続きは出生後に行うなど状況に応じて手続きを進めていくことが必要となります。(提供:相続MEMO


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