2月7日、日本製鉄(旧新日鐵住金)は2020年3月期の当期連結最終利益が4,400億円の赤字になるとしたうえで、2023年9月をもって呉製鉄所を閉鎖すると発表した。
呉製鉄所は1951年、呉海軍工廠の跡地に誕生、以来、戦後の復興とともに地域経済をけん引してきた。それだけに呉市と広島県にとっては衝撃だ。協力会社を含めると従業員は3,300人、県内の取引先企業は117社におよぶ。2018年の豪雨災害をようやく乗り越えつつあった地元への影響は甚大である。市は相談窓口の設置を決定するとともに県、地元経済界、金融機関と連携し、雇用対策を講じるという。
「鉄冷え」の影響は日本製鉄に止まらない。2020年3月期、JFEホールディングスも連結事業利益が前期比92%減となると発表、神戸製鋼所の鉄鋼事業も250億円の経常赤字を見込む。需要の伸び悩み、中国勢の躍進、原料の高止まりを受けて汎用鋼材分野における輸出競争力は低下、一方、品質面においても日本勢の絶対優位は失われつつある。結果、個社における目先の施策は生産拠点の集約を含む生産設備・製造品目の構造改革しかない。
鉄だけではない。セメントも外部環境は同じだ。12日、宇部興産と三菱マテリアルは2022年4月を目途に新会社を設立、セメント事業を統合すると発表した。両社は1998年に「宇部三菱セメント」を設立、販売と物流部門を既に統合しているが、新会社はこれを吸収合併、生産から販売に至る完全な垂直統合を目指すという。
統合の目的が合理化である以上、タテだけでなくヨコ、つまり、拠点集約は避けられない。宇部興産のセメント工場は山口県宇部市、美祢市、福岡県苅田町にある。三菱マテリアルの工場は青森県下北郡、岩手県一関市、埼玉県秩父市、そして、北九州市に2か所だ。いずれそれらのいくつかが呉と同様の立場に置かれる。
鉄鋼、鉱業、セメント業の未来を、現状のままかつての延長線上に引き戻すことは出来ない。ゆえに移転も閉鎖も経営判断として正しい。しかし、地域に逃げ場はない。企業は合理化という “撤退戦” が生み出した時間と資本をどう使うのか。せめて再び世界と戦える体制を築き、その果実をもって地域という “ステークホルダー” が提供してきた有形無形の財に対する配当としていただきたい。
今週の“ひらめき”視点 2.9 – 2.13
代表取締役社長 水越 孝