最近の見通し改定で注目点の1つは、新型肺炎コロナウイルスが封じ込められない場合、何が起こるかについての不確実性である。 コロナウイルス拡散は、米国や大半の先進国の成長を妨げてはいないが、経済・債券市場・企業の収益見通しを変化させている。
米シュワブ・ファイナンシャル・リサーチ主任債券ストラテジスト、キャシー・ジョーンズ氏は、今年の米10年債利回りについて、従来予想していた2.25-2.50%へ上昇するのではなく、2%以下にとどまると予想している。
ジョーンズ氏は「コロナウイルスが見通しを変える」と題した債券市場の見通しの中で、「金利が以前の水準に戻るとは思えない。経済への悪影響は、世界経済の成長鈍化と中央銀行の政策緩和を意味する可能性が高い」と分析し、国際通貨基金(IMF)が今年3.3%と予想していた世界GDP成長率をコロナウイルスが0.2ー0.4%押し下げるとの見通しを示した。
ジョーンズ氏は、大流行の中心である中国は、「世界の製造業の生産高の35%を占めている」と説明し、中国の消費は石油・工業用金属などの商品の需要を促進し、世界の観光産業にも大きな役割を果たしていたと付け加えた。クレディ・スイスのアナリストによると、中国は世界のテクノロジサプライチェーンの約50%と大きな割合を占めているという。
Apple社は、iPhoneやその他の製品の製造・組み立て、および中国の顧客への販売を中国工場に大きく依存している。同社は、コロナウイルスの拡大を受けて、米国時間17日、1−3月期期の売上予測を下方修正した。
Apple社は、「世界のiPhoneの供給は一時的に制限される。中国国内の製品需要に影響が出ている」と説明した。同社の株価は18日に2%近く下落し、S&P500種の0.3%下落のほぼ6倍となった。
中国でのサプライチェーン中断の影響は不透明
Apple社のサプライヤーは中国のいくつかの施設を閉鎖しなければならず、再開を遅らせているところもある。またStarbucks、McDonald's、その他多くの企業と共に中国の一部店舗を閉鎖した。
ハイフリークエンシー・エコノミクス社主任エコノミスト、カール・ワインバーグ氏は中国経済に関する週間リポートで、「野菜からトイレットペーパーに至るまで、サプライチェーンの中断の重要性を見分ける方法はない」と述べた。「これらの隔離や生産停止の間、多くの労働者へ賃金が支払われていない。これまでこのような事態を見たことがない。6000万人以上が隔離され、産業労働力の重要な部分が待機しているため、生産がどれくらい悪いかまだ言うことができない」と指摘した。
コロナウイルスは約73,000人に感染し、1,800人以上が死亡した。中国当局が感染拡大を阻止しようとしているため、数千万人が隔離されている。
現時点で、ウイルスは中国の成長を1%ポイント以上鈍化させ、4.5~5%程度にし、日本やその他のアジア諸国と香港の成長を鈍化させると予想される。昨年第4四半期の中国の国内総生産 (GDP) が年率6.3%へ急落したことを受け、日本が景気後退に陥るのではないかと懸念されている。
現在のところ、ウイルスの感染経路と拡散に大きな変化がなければ、米国やアジア以外の先進国市場への影響は軽微と見られている。S&Pグローバル・レーティングズ社は、コロナウイルスの影響で米国のGDPが0.01%ポイント、欧州では0.1~0.2%ポイント押し下げられるが、新興市場への影響は限定的だと予想している。
同社のアナリストらは、「人的コストの増大は、世界経済におけるネットワークの複雑さを反映して、より広範な経済コストをもたらす可能性がある。コロナウイルスのベースラインシナリオのリスクは大きく、下方に偏っている。想定された期間内に封じ込められなければ、どんどん広がっていくだろう」と指摘した。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、下院金融サービス委員会で証言し、「注意深く見ている」と語り、多くのエコノミスト、ストラテジスト、アナリスト、投資家の意見を代弁した。
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