「相続はいいことばかりではない」という現実に多くの人が気づいたからなのか相続放棄の件数は増加傾向です。しかし相続放棄には注意すべき点があります。そこで今回は相続放棄が増えている背景と意義、そして注意すべきポイントについて解説します。
相続放棄は増加傾向!背景には何がある?
2018年度の「裁判所司法統計年表家事編」によると相続放棄の件数は2005~2018年で毎年約15万件以上と増加傾向です。2018年時点の相続放棄の件数は21万5,320件まで増加しています。1975~1985年ごろまでは5万件を下回っていた程度だったため、比較すると非常に多くなったことが分かるのではないでしょうか。
相続放棄増加の一因として「都市圏に住む相続人には地方の不動産の相続が重荷」という事情が考えられます。核家族化や地方の過疎化が進んだ現代において「高齢の親は地方に住んでいるけど現役世代の子どもは都市圏に住んでいる」というケースが一般的になりました。この状況で相続が発生すると、都市圏に住む子が地方の農地や親の自宅を引き継がなくてはならなくなります。
仮に亡くなった親が年金暮らしだった場合、預貯金がほとんどなく遺産は不動産ばかりということも珍しくありません。不動産を引き継いだあとの納税や名義変更などの負担を避けたいがために、子どもは相続放棄を選ばざるを得ないケースも増えてきているのです。
相続放棄とは
そもそも相続放棄とはどのようなものなのでしょうか。相続放棄とは、すべての財産の相続を放棄することです。すべての財産とは、現預金や不動産、債権といったプラスの財産だけでなく借金や未払債務、未払税金などのマイナスの財産をも含みます。また放棄の対象には遺留分も含まれるため注意が必要です。
相続放棄は、相続開始(被相続人の死亡)があったことを知った日から3ヵ月以内に、家庭裁判所に相続放棄の申述を行い、受理されなくてはなりません。申述が受理されると、その相続人は最初から存在しなかったものとして扱われるのです。相続放棄は、単純承認(すべての財産を引き継ぐ)や限定承認(プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ)に比べ、手間も負担も少なくて済みます。
共同相続人全員の同意が必要な限定承認と異なり相続放棄は単独で申述可能です。また遺産分割争いに巻き込まれることもありません。親の遺産を当てにせず今ある生活をとにかく維持したい相続人には良い方法の一つです。
相続放棄で注意すべき3つのポイント
負担の少ない相続放棄ですが注意点もあります。以下の3つのポイントを心に留め置くとよいでしょう。
ポイント1:「1円もいりません」と一筆書いただけではダメ
相続放棄は法律行為です。つまり「家庭裁判所に相続放棄の申述し受理される」という法的な手続きを踏まなくては相続放棄を行ったことにはなりません。口頭で「私は相続放棄する!」と宣言しただけではもちろんダメです。他の相続人に「1円もいりません」と一筆書いたとしても相続放棄したことにはなりません。必ず「3ヵ月以内の家庭裁判所への申述」が必要になりますので押さえておきましょう。
ポイント2:「処分」「隠匿」をしたら認められない
相続放棄は「すべての財産の承継を放棄する」ことです。そのため自分の都合で一部の財産だけを受け取るということは認められません。言い換えると申述前後に相続財産の一部を処分したり隠したりすると、相続放棄の手続きを行っても「財産を相続する意思がある」とみなされ、相続放棄が認められなくなるのです。
なお、この処分には賃貸不動産の振込先の名義変更や被相続人の債務の一部返済なども含まれますので注意しましょう。
ポイント3:受理されなかったら再度申述できない
相続放棄は申述しただけでは認められません。申述が家庭裁判所に受理されて初めて相続放棄を行ったものと認められます。ただし申述が常に受理されるとは限りません。一度受理されなければ2度目の相続放棄の申述はできない点も注意が必要です。
相続放棄のさまざまな注意点
この他にも相続放棄には注意点があります。相続放棄をしてもアルバムなどの形見分けはできるのですが、形見分けするものに資産的価値がある場合は「財産の処分」とみなされる可能性があるため注意が必要です。相続放棄はあとから取り消すことはできないため、同順位の相続人が全員相続放棄をした場合は次の順位の相続人が相続することになります。
そのため負債などが多額の場合、相続放棄により親族内の関係が悪化する可能性も否めません。負担の少ない相続放棄ですが他の相続方法と同じく慎重に検討したほうがよいでしょう。(提供:相続MEMO)
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