配当金を目的とする投資は、投資初心者から上級者まで幅広く人気がある投資手法だ。そもそも配当金とは何であり、いつ、どのように金額が決定されるのか。また、投資家はいつ、どのようにして配当金を受け取れるのかなど、配当金に関する基礎知識を紹介しよう。

目次
1,配当金とは何なのか?
2,配当金はいくらもらえるのか?「配当利回り」
3,配当金はいつ、何回もらえるのか?
4,配当金の4つの受け取り方
5,上場企業の配当利回りTOP10 
6,配当金にかかる税金、3つのパターン
7,配当金目的の株式投資のポイント

1,配当金とは何なのか?配当の決定方法や原資などを紹介

株,配当金
(画像=Andrii Yalanskyi/Shutterstock.com)

株式を保有することで受け取ることができる株式の配当金とは、そもそも何なのか? 基本を確認していこう。

配当金とは何か――投資家に還元する企業の利益の一部

配当金とは、株式会社が実施する株主還元策で、株式投資のメリットの1つだ。具体的には、企業活動による利益の一部を、株式を保有する投資家に還元するお金を指す。

株式投資には、「値上がり益」「配当金」「株主優待」という利点があるが、この中で株価変動リスクに大きな影響を受けることがなく、定期預金のような貯蓄性もあるのが「配当金」だ。リスクを低減しながら資産形成したい投資家にとっては魅力的だろう。

配当金の決定方法――配当政策と株主総会の決議

会社法では、株式会社は株主のものと定められている。そのため、企業の利益の使い道(「剰余金の処分」)や配当の実施(「剰余金の配当」)については、株主総会で決議することとなっている。

しかし、株主が自由に配当を設定できるわけではない。企業はその年の決算が終了すると、配当政策に則った利益の分配方法を決算後3ヵ月以内に行われる株主総会で決議して、株主への配当が決定するのだ。

配当政策とは、長期的経営戦略の観点から、「利益の~%」あるいは「1株あたり~円」を、どのような時間配分や支払形態で株主に分配するかを方針としてまとめたものだ。

この中で、企業は投資家に対して「毎年安定配当を継続する」「累進配当政策(減配しないで毎年同額の配当か増配すること)」「年間1株あたり普通配当~円、うち中間配当~円」「配当性向~%を目指す」などを明示している。

配当金はどこから支払われる?――企業の純利益(利益剰余金)や資本余剰金など

配当金の原資は、基本的には企業が1年間で稼ぎ出した純利益である。純利益はいったん繰越利益剰余金勘定に振り替えられて、この利益(利益剰余金)の一部が株主に分配される。

利益剰余金は、1事業年度に獲得した当期純利益のうち、配当金に充てられなかった部分の一定額が内部留保として累積されたものだ。株主資本の一部であり、株主還元や設備投資などに充てることを目的としたお金でもある。

ただし例外もあり、配当金が自己資本の一部である資本剰余金から支払われることもある。業績が悪く利益剰余金が不足しているものの配当を維持したい場合や、減資して自己資本比率あるいは総資産利益率を上げたい場合などだ。

配当金の原資が異なると税法上の処理方法も変わってくるので、知識として知っておいたほうがいいだろう。

2,配当金はいくらもらえるのか?「配当利回り」を確認

配当金目当てで投資をしている場合、気になるのは「実際にいくらもらえるのか?」だろう。これを明らかにするのが、「配当利回り」という指標だ。

配当利回りとは何?お得さを表す

配当利回りの算出方法は、以下のとおりだ。

配当利回り(%)=1株あたりの年間配当金額÷株価×100

同じ1株あたり年間配当金額でも、株価が安いと配当利回りが高くなり、株価が高ければ配当利回りは低くなる。株価が同額の場合、1株あたり年間配当金額が多いほうが配当利回りは高く、1株あたり年間配当金額が少ないほうが配当利回りは低くなる。

つまり配当利回りが高いほうが、好配当(=お得に配当を受け取ることができる)ということになる。

配当を目的とした銘柄選びでは、配当利回りの他に、時価総額や資本金、ROEなどの条件で銘柄を絞り込むことが多い。この場合の配当利回りは「3%以上」「5%以上」など、自分なりの判断基準や銘柄を絞り込みやすい条件を設定するといい。

日本を代表する銘柄の配当利回りは?

配当利回りは、実際はどの程度の数値になるのだろうか。日本の代表的な株価指数である日経平均株価と、日本を代表する三菱UFJフィナンシャル・グループ <8306> ならびにトヨタ自動車 <7203> の2銘柄をピックアップして、配当利回りを比較してみよう。

日本の代表的な銘柄の配当利回り比較

  銘柄
コード
配当利回り
(予想)
株価
(2020年3月13日
終値)
1株あたり
年間配当金額
日経平均株価 2.86% 17,431.05
三菱UFJ
フィナンシャル・
グループ
8306 6.30% 397.1 25円
(2020.3予想)
トヨタ自動車 7203 3.62% 6,084 220円
(2020.3予想)

(※日経平均株価の配当利回り(予想)は、日本経済新聞社公表の「国内の株式指標(2020年3月13日)」より抽出しており、日経平均採用225銘柄を対象に「1株当たりの年間配当金の合計÷株価の合計」で算出されたもの)

3,配当金はいつ、何回もらえるのか?受け取るための条件も解説

配当金を受け取るためにはいくつかの条件があり、すべてを満たした株主が配当金を受け取る権利を得る。

配当金を受け取る条件――権利確定日の2営業日前の大引けまでに約定

配当金を受け取ることができるのは、それぞれの企業が定める権利確定日(一般的には中間決算または本決算期末日)に株主名簿に名前が記載されている株主である。

権利確定日に株主であるためには、権利確定日の2営業日前の権利付最終日までに株式の買付注文を出して、約定する必要がある。たとえば権利確定日が3月31日(木)である場合、権利付最終日の3月29日(火)までに株式を購入すればいい。

権利付最終日とは、配当や株主優待などの株主権利を得ることができる最終取引日のことで、約定日から起算して2営業日後が株式の受渡日となっている。

配当の回数はどう決まる?――配当政策をチェック

日本では、本決算後の年1回、あるいは中間決算後と本決算後の年2回配当を実施する企業が多い。

株式会社には配当を支払う義務があるわけではなく、各企業の経営判断で配当の内容や有無の方針が決められる。そのため、過去最高益を上げた企業などが特別配当を実施したり、設立記念などを迎える企業が記念配当を上乗せしたりすることもある。逆に、業績低迷が続いている企業や、利益の大半を企業成長のための投資に充てる方針を掲げる企業では、配当が支払われないこともある。

各社ホームページの「投資家情報/IR情報」→「株式情報」→「配当政策」には、配当方針や具体的な配当の回数、配当金額、配当の方法が明記されている。配当を目的とした株式購入を考える際は、必ずチェックしておきたい。

何株持っていれば配当金が受け取れるのか?――単元未満株にも株主権 

配当金を受け取ることができるのは、権利確定日に株主名簿に名前が記載されている株主だ。この条件を満たしていれば、単元未満株主であっても単元株主同様に株主権(主に自益権)があるため、配当を受け取る権利がある。

市場で取引できる単元株(100株)の株主には、本来以下のような権利がある。

1,配当請求権……所有株数に応じた配当を受け取る権利
2,議決権……株主総会に出席して意見を述べる、あるいは重要な決議に投票できる権利
3,残余財産分配請求権……会社が解散した際に、残った財産を受け取る権利

1単元に満たない単元未満株は株式市場で自由に売買できず、株主総会での議決権も有していない。しかし単元未満株主であっても、配当だけでなく、株主還元の一環として実施されることが多い株式分割でも、所有株数に応じた割当を受けることができる。

4,配当金の4つの受け取り方

株主は、中間決算と本決算から2~3ヵ月後に分配される配当金の受け取り方法を、以下の4つから選択できる。

株式数比例配分方式 ――一般的な配当金受取方法

株式を保有する証券会社を通じて、それぞれの証券会社の証券口座で受け取る方法だ。

「特定口座(源泉徴収あり)」で配当金を受け取り、譲渡損益などと損益通算する場合は、配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」に設定する必要がある。「NISA口座」で保有する株式の配当金を非課税にする場合も、この受取方法を選択しなければならない。株式数比例配分方式以外の方法を選択すると、「NISA口座」で配当金を受け取っても、20.315%の所得税などが源泉徴収されてしまうので注意したい。

口座の種類にかかわらず、配当金の受取方法を「株式数比例配分方式」に設定した場合は、同一名義人の証券口座で保有する株式すべての配当金が同じ受取方法になる。

登録配当金受領口座方式――指定の金融期間で受け取る方法

株式を複数の証券会社の口座で保有している場合でも、事前に登録した1つの金融機関の口座ですべての配当金をまとめて受け取る方法だ。

個別銘柄指定方式――銘柄ごとに振込先を指定する方法

銘柄ごとに配当金の振込先金融機関を書面で届け出ておくことで、振込先金融機関を登録した銘柄の配当金だけを指定の金融機関口座で受け取る方法だ。

かつては、株主が株式の発行会社に直接配当金振込先指定書を届け出ていたが、現在は株式を保有する証券会社の窓口を通して、書面を提出できるようになった。

配当金受領証方式――郵便局などで受け取る方法

株式の発行会社から直接株主に配当金受領証を郵送して、株主が郵便局などの窓口で配当金と配当金受領証を引き換える方法だ。

5,上場企業の配当利回りTOP10 1位の銘柄は28%超!

日本経済新聞社(2020年3月14日付)が公表した、国内全市場を対象にした上場企業の予想配当利回りランキングTOP10は以下のとおりだ。

ランキングで使用した予想配当利回りは、自己株を除く普通株式数で加重した「加重平均利回り」を採用した。「対象銘柄の予想年間配当金÷対象銘柄の株価基準値(2020年3月13日終値)」で算出されたものだ。

上場企業の高配当利回りランキングTOP10(2020年3月13日終値)

順位 会社名 銘柄
コード
予想配当
利回り
株価 会社概要
1 マクセル
ホール
ディングス
6810 28.41% 943円 コイン電池などに強みあり。
太陽光発電の売電事業も手掛ける。
産業用部材、美容家電なども展開。
2 前田道路 1883 25.59% 2,930円 道路舗装の大手。
自己資本比率が高く
効率経営で評価が高い。
地場密着プラントを持ち、
施行監理にも優れている。
TOBにより前田建設の子会社に。
3 明和産業 8103 13.89% 403円 化学品と樹脂主体の三菱系中堅商社。
炭素製品、難燃助剤などで高シェア。
中国関連取引に強み。
4 ウェルネット 2428 11.87% 421円 コンビニなどでの航空券などの
代金決済代行や収納事業大手。
2020年6月期より大幅減配、
人材・開発投資優先へ方針転換。
5 ADワークス 3250 11.11% 18円 鑑定評価に強み。
付加価値を高めて中古マンション・
ビル1棟を富裕層に売却。
テクニカル上場のため、
2020年3月30日上場廃止、
4月1日持株会社に株式移転。
6 青山商事 8219 10.94% 914円 郊外や都心部で店舗展開する
紳士服専門店最大手。
2020年3月期も年間100円の
安定配当維持を方針とするが、
同期はスーツ需要低迷で赤字幅拡大。
7 FPG 7148 9.85% 610円 タックス・リースアレンジメント
事業が主力。
不動産やM&Aアドバイザリーなど、
他部署とのシナジー効果で
富裕層向けに多様な
フィナンシャル・プロダクトを提供。
8 菱洋
エレクトロ
8068 9.60% 1,874円 三菱電機系大手半導体商社。
米インテルなど外国製半導体に強み。
情報通信関連機器も展開。
新規テレビ向け、
AI関連ソリューション、
通信インフラ向けなど堅調。
9 ツバキ・
ナカシマ
6464 9.38% 671円 主力はベアリング用の精密鋼球や
ローラー、ボールネジ。
セラミックやガラス製なども
取り扱う。
自動車、工作機器需要の低迷で
主力の精密鋼球が不振。
10 ワールド
ホール
ディングス
2429 9.30% 1,073円 製造派遣、業務請負が主力事業。
不動産向けは振るわないが、
シニア人材やホテ業界に特化した
派遣などの新規開拓は順調。

(※日本経済新聞社(2020年3月14日付)「予想配当利回りランキング」の上位10社を抜粋して、ランキング表を作成した)

予想配当利回りの算出基準とした2020年3月13日は、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響を受けて株式相場全体が暴落した。それに伴って全体的に予想配当利回りが通常より高くなっているため、参考程度にとどめてほしい。

予想配当利回りランキングは、高配当銘柄を絞り込むのに便利だが、配当利回りの高さだけに着目して銘柄を選ぶことは避けるべきだ。

配当利回りの高い銘柄の中には、著しい業績悪化などの理由で株価が大幅に下がっている銘柄がある。高配当利回り銘柄を選ぶにあたっては、会社四季報や企業分析情報から各社の業績と財務状況、配当政策や利益剰余金などを必ずチェックしたい。

開示されている1株あたり年間配当金(予想)は、期中の業績が悪かったり、企業の経営戦略が修正されたりして、減額あるいは無配に変更されることもある。企業の開示情報やニュースなどで配当内容の変更が発表されていないかどうかも確認してから投資判断を下すようにしよう。

6,配当金にかかる税金は?3つのパターンで紹介

ここまで、利回りの概要や受け取り方、利回りが高い銘柄などを紹介してきた。ここからは、配当金にどのくらい税金がかかるのかを見ていこう。

パターン1,配当所得の場合――基本は確定申告だが、不要制度も選択できる

上場株式を保有する株主が受け取ることができる配当金は、所得税法上の「配当所得」に該当する。利益の配当、剰余金の分配、投資信託(公社債投資信託等を除く)などの収益分配を対象に、利益の20.135%が課税される。

配当所得である配当金は確定申告による総合課税が原則だが、以下の方法で配当控除を申告したり、配当金の納税を行ったりできる。

・方法1,確定申告による総合課税――通常の配当控除を受ける場合
日本国内に本店のある企業から剰余金の配当や分配、利益の配当などを受け取った場合に、総合課税で確定申告をすると、配当金の源泉徴収額が納付すべき税額から控除される。もしくは一定の方法で算出した金額の配当控除を受けることができる。

ただし、外国法人から受け取った配当金は配当控除の対象外である。

・方法2,確定申告不要制度――「特定口座(源泉徴収あり」」で配当金を受け取る場合
上場株式などの配当金の受け取りに「特定口座(源泉徴収あり)」を設定すると、受け取り時に源泉徴収され、口座内で損益通算される。この制度を利用した場合は、確定申告による配当控除を受けることはできない。上場株式などの配当金受取時に源泉徴収されるのは、15.315%の所得税と復興特別所得税、および5.0%の地方税である。

一方、非上場株式などの配当金については、20.42%の所得税と復興特別所得税(地方税はなし)が源泉徴収される。

・方法3,確定申告による申告分離課税――他の証券会社の特定口座と損益通算する場合など
「特定口座(源泉徴収あり)」を配当金の受取口座として設定した場合でも、確定申告による申告分離課税を選択すると、譲渡損の出ている他の証券会社の特定口座と損益通算できる。あるいは、多額の損失が出た場合に翌年以降3年間の繰越控除の適用を受けられる。

ちなみに、配当金の受け取りに「特定口座(源泉徴収なし)」を選択した場合も、確定申告により申告分離課税で納税する。

パターン2,配当金の原資が資本剰余金である場合――「譲渡所得」になる

多くの場合、配当金は「利益剰余金」から拠出され、配当金を受け取る際は税法上「配当所得」として処理される。

それに対して、配当金の原資が「資本剰余金」の場合は、株主が保有する株式の一部を譲渡したと見なされて、「譲渡所得」(みなし譲渡)として処理される。この場合は、株主が自分で譲渡損益などを計算して、確定申告をしなければならない。

資本剰余金を原資とする配当金であっても「資本の払い戻し」に該当しない場合は、「みなし配当」と見なされて「配当所得」として処理される。

配当金の原資が資本剰余金である旨は、株主宛てに届けられる「配当金に関するご案内」に、みなし配当の額や、純資産の減少割合といった情報と併せて記載される。

パターン3,外国株の配当金の場合――現地での源泉徴収分には外国税額控除が適用される

米国株の例を見てみよう。現地において、租税条約で定められた企業所得税10%が源泉徴収された後の金額に、日本国内で20.315%の所得税などが源泉徴収される。

現地と日本国内での二重課税を避けるために設けられているのが、「外国税額控除制度」である。

外国税額控除制度とは、現地で源泉徴収された税額を外国税額控除限度額の範囲内で、日本国内で納めるべき所得税と地方税から控除する制度である。控除しきれない場合は、翌年以降3年間の繰越が認められている。外国税額控除の適用を受ける場合は、外国株の配当金の受け取りに「特定口座(源泉徴収あり)」を選択している場合でも確定申告をする必要がある。

7,配当金目的の株式投資のポイント 

比較的安全で地道に資産を増やせる配当金目的の株式投資は、超低金利の定期預金に代わる有力な資産形成手段と言える。

1回の配当で支払われる配当金はそれほど大きな額ではないが、業績の良し悪しにかかわらず安定的に長期にわたって支払われる配当金には魅力がある。受け取った配当金を元手に、徐々に同一銘柄を買い増していけば、金利の複利効果のように資産を効率的に増やすこともできる。

このような配当金のメリットを活かした資産形成を目指すならば、強固な経営基盤や健全な財務状態、加えて安定的な配当を方針にしている企業を慎重に選びたい。

文・近藤真理(フリーライター)/MONEY TIMES

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