リクルート株めぐる詐欺の被害に遭った富裕層

ファミリーオフィスのリアル#7
(画像=Minerva Studio/Shutterstock, ZUU online)

昨年の夏、数百億円の資産を保有する超富裕層の男性もとに、男性と女性の2人組が訪れた。彼らとは全く面識がなく、その日が初対面。「知人の紹介で」という名目でアポイントを取り、やってきたという。

彼らは開口一番、こう言った。

「リクルート株に興味はありませんか?」

確かに男性は、資産の一部を株式で運用していたが、今、リクルートでこれといった材料がないのに、なぜそんなことを言うのだろうといぶかった。すると、そんな思いを感じ取ったのか、男女はこう続けたという。

「じつは、市場に出回っていないリクルート株が地方には数多く眠っています。リクルートの創業者で亡くなられた江副浩正さんが、上場前に知り合いの地方の富裕層たちのもとに出向き、『この株を持っておいてほしい。ただ、安定株主になってもらいたいから、決して売らずにずっと持っておいてほしい』と譲り渡していたんです」

確かに故江副氏は、政治家などにリクルートコスモスの未公開株を譲渡。贈賄側のリクルート社関係者と、収賄側の政治家や官僚らが相次いで逮捕され、政界・官界・マスコミを揺るがす、大スキャンダルとなった。

それだけに、富裕層の男性は、「江副さんが個人にこっそり渡していたとしても、おかしくないのではないか」と興味を持ち始めたという。

そして、最後のダメ押しが次の一言だった。

「そうしたリクルート株を、じつは私たちがこっそり引き受けています。江副さんも亡くなられて、いつまでも塩漬けにしていても仕方がないからと売ってくれているんです。そうした株を安値であなたに売りますから、徐々に市場で売却してもうけませんか?富裕層のあなただからお教えするんです」

この話を聞いた男性は熟考した上でリクルート株の購入を約束、数日後に数千万円を振り込んだ。

ところがである。しばらくして、この話が全くのデタラメだったことが分かる。振り込んだ後にリクルート株を渡されることもなく、男女との連絡もつかなくなってしまったからだ。そもそもそんな株などなく、完全な詐欺だったわけだ。

「『あなたにしか教えない』という言葉にすっかり騙されてしまった。富裕層にしか得ることができない情報なんだと信じ込んでしまったからだ。そもそも、私が大きな資産を持っているということを知っていたことを疑うべきだった。悔やんでも悔やみきれない」とこの男性は語る。

レストラン開業資金で2億円の被害

富裕層をめぐる詐欺事件は年々増加している。ファミリーオフィスを手掛ける百武資薫さんのもとにも、ここ最近、「詐欺に遭ってしまった。どうしよう」といった相談が相次いでいるという。