所得税や相続税を節税するため、賃貸経営の法人化を考えている人もいるのではないでしょうか。一般的に不動産管理法人の設立には、出資者の責任が限定される「株式会社」「合同会社」「一般社団法人」の3つのうちいずれかが使われます。本記事では法人化する場合の3つの組織パターンについて解説します。
賃貸経営で株式会社へ法人化するケース
所得税・法人税の扱いはいずれも大差ありません。比べるポイントは設立コストや運営の手間、相続対策としての取り扱いなどです。一般的に事業会社を起こす際、株式会社は認知度が高い法人形態であることがメリットとして挙げられます。代表者の肩書きも「代表取締役」となり社会的な信頼感も高まるのではないでしょうか。
また将来的に株式上場も可能ですが賃貸経営をするうえでは実質的なメリットとはいえないでしょう。さらに信頼性の高さから融資の審査に通りやすそうな印象を受けるかもしれませんが実質的に他の形態と大きな差がありません。よほどのことでなければ上場する可能性もないといえるでしょう。
株式会社を設立するメリットはスムーズな相続ができることです。経営権と資産価値は株式に集約されるため生前贈与や遺言による指定などもしやすくなります。株式は自由に分割できるため、業務を執行する「役員」と経営には直接関わらず利益の配当を受ける「株主」に分けることもできます。このような「所有と経営」の分離は他の法人格にない特徴です。
デメリットは、事務的な負担が大きいことです。会社法では、株式会社に決算公告を義務づけています。少なくとも1年に1回、ホームページを作って決算書を公開するか、官報に掲載しなければなりません。いずれにしても費用や手間がかかります。設立費用も高額です。主な内訳は以下のようになっています。
- 定款認証費用:5万円
- 定款収入印紙代:4万円
- 登録免許税:最低15万円(資本金の1,000分の7、15万円に満たない場合は15万円)
定款の収入印紙は電子認証定款の場合は省略できるので最低でも合計20万円はかかります。また法人設立の手続きは自分でも行うことができますが多くの人は司法書士や行政書士に手続きを依頼するため、別途数万円の手数料がかかるでしょう。以上の通り株式会社は相続手続きが簡単ということがメリットです。
一方で設立費用は最低20万円、決算公告の義務があり合同会社と比べて設立・維持ともにコストがかかる点はデメリットといえるでしょう。
賃貸経営で合同会社(LLC)へ法人化するケース
合同会社はLLC(Limited Liability Company)とも呼ばれており従前の有限会社の代わりとして設けられました。一番のメリットは、設立費用が安く法人運営の手間が少ないことです。設立に必要な費用は以下のようになっています。
- 定款認証:不要
- 定款収入印紙代:4万円(電子認証定款の場合は不要)
- 登録免許税:最低6万円(資本金の1,000分の7、6万円に満たない場合は6万円)
電子認証を行えば費用は6万円となり株式会社設立よりも約3分の1の費用ですみます。また決算公告の義務はありません。合同会社は出資比率に関係なく自由に定款で配当を決められるというメリットもあります。株式会社では原則として出資金額に応じた利益の分配が必要です。例えば資本金100万円の会社の場合、最終利益の半分を配偶者に与えようとすると50万円出資してもらうことになります。
合同会社の場合、出資額が1円でも定款に定めることで任意の金額を配当することが可能です。ただし株式会社と合同会社のいずれにしても配当は税務上デメリットがある場合が多いので慎重に選択したほうがよいでしょう。相続については株式会社と比べて少し複雑です。役員が全員亡くなった場合、原則として解散します。
相続させる場合は、その旨を定款に記載しておかなければなりません。合同会社は株式会社に比べて設立・運営コストが低くデメリットが少ないため人気が高まっており年々設立数を増やしています。
賃貸経営で一般社団法人へ法人化するケース
一般社団法人は以前不動産オーナーの相続対策として静かな人気を誇っていました。対策とは、法人に所有権を移管することで相続税を非課税とする荒業です。この法人形態には、株式会社のような「法人の所有物=出資者の財産」という概念がありません。役員としての地位のみを承継します。財産を実質的に支配しながら形式的には取得しないため、相続税がかからないというわけです。
しかしこの手法は2018年の税制改正によって使えなくなりました。一定の要件に当てはまる法人(上記のようなオーナー一族による相続税逃れのケースを想定しています)には、個人間の相続と同様の相続税が課されるようになったのです。一般社団法人は設立時社員が2人以上必要であったり配当に制限を受けたりするなど縛りが多い形態です。相続税対策としてのメリットがなくなってしまったため、あまりおすすめできる点はありません。
相続対策の株式会社と低コストの合同会社
株式会社は利益を受ける人と経営する人を分離でき柔軟な運営が可能で相続対策もスムーズです。一方、合同会社は低コストで設立・運営ができるため、選択する人が増える傾向にあります。賃貸経営で法人化を検討する場合は目的によって使い分けてください。(提供:YANUSY)
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