eiicon lab
(画像=eiicon lab)

中京圏の大都市である愛知県名古屋市。かつては名古屋城の城下町であり、さらには東海道の交通の要にもなるなど、歴史的にも古くから栄えてきた街として知られています。

そんな西と東の文化が交差する名古屋のビジネス事情はどうなっているのでしょう。地方のオープンイノベーション事情を深堀りする企画「CLOSEUP OI」今回は、名古屋市について紹介していきます。

少子高齢化、南海トラフ地震のリスク、そしてリニアの開業

最初に、名古屋市の産業について見ていきます。名古屋市の街づくりの根幹となる指針「名古屋市基本構想」では産業振興について、大きな比重をしめると中小企業、伝統的な地場産業について、「変化に対応する基盤の強化」を図ると明記されています。

世の中の産業が劇的な変化に差し掛かっていることを認識しており、変化に対応できる企業こそ強い企業であると位置づけているようです。

そんな名古屋市を取り巻く現在の潮流を表すのは3つのキーワードです。ひとつはどの自治体も課題として捉えている「少子高齢化」。ふたつめは「南海トラフ地震のリスク」。そしてみっつめが「リニア中央新幹線の開業」です。

良い点も悪い点もありますが、要するにこれらのキーワードをクリアするためには事業の担い手を増やし、インフラを強化し、新たな経済圏を作ることが急務になっている、と理解できます。

関連ページ:名古屋市基本構想

関連ページ:名古屋市総合計画2018【全体版】

【中部経済連合会×名古屋市】NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE

中部経済連合会と名古屋市が共同で2019年7月、栄地区にオープンした「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE(ナゴヤイノベータズガレージ)」。起業や事業改革を進める人々を支援するイノベーション施設として注目を集めています。

コワーキングスペースやイベントスペースとして利用できることはもちろん、入居者は様々なプログラムに参加することができます。中には「ビヨンド・ザ・ボーダー」「アカデミックナイト」「IGES(アイジェス)」といった共創プロジェクトも多く含まれており、オープンイノベーションにも注力していることがわかります。

関連記事:中部経済連合会と名古屋市、イノベーション拠点「NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE」をオープン

関連ページ:NAGOYA INNOVATOR'S GARAGE|ナゴヤ イノベーターズ ガレージ

教育機関によるオープンイノベーション推進

名古屋市の大学がオープンイノベーション推進に一役買っているケースを紹介します。

【名古屋工業大学】Nagoyaオープンイノベーション研究会

名古屋工業大学と名古屋市、そして名古屋産業振興公社の三つ巴で発足したのが「Nagoyaオープンイノベーション研究会」です。産学共同研究、産学官連携による国の提案公募型事業への応募案件、ビジネスマッチングなどを創出する場としてイベントを開催します。勉強会や講演会の開催、成功事例の紹介イベントなどが主旨となっている研究会です。

関連ページ:Nagoya オープンイノベーション研究会 開催のご案内|産学行政連携支援|公益財団法人名古屋産業振興公社

【名古屋大学】オープンイノベーション推進室

正式名称は「名古屋大学 未来社会創造機構 オープンイノベーション推進室」。2018年度文部科学省「オープンイノベーション機構の整備事業」受託にともない2018年11月に設置された組織です。

モビリティ、ナノバイオ、新材料の3つの分野でオープンイノベーションを推進すべく、各分野から専門家を集めて組成されたコンソーシアムです。共同研究から実証実験、事業化、社会実装までを目的としています。

関連ページ:名古屋大学 未来社会創造機構 オープンイノベーション推進室

名古屋市における共創事例

名古屋市における産官学が連携したオープンイノベーションの事例をいくつか紹介していきます。

【富士通×名古屋市】地下鉄駅構内の混雑状況を、IoTで可視化する実証実験

富士通は名古屋市と共同で、名古屋市営地下鉄栄駅構内にWi-Fiパケットセンサーを設置し、人の流れを可視化する実証実験を10月7日より開始したことを発表しています。

地下鉄利用者のスマートフォンのうちWiFiがオンになっているものから固有IDをWi-Fiパケットセンサーで収集し、データを匿名化した上で計測を行います。その計測データから利用者数や人の流れを可視化、分析し、時間帯ごとに栄駅構内の最適な移動ルートを検証するという実験の流れです。

関連記事:富士通×名古屋市|地下鉄駅構内の混雑状況を、IoTで可視化する実証実験に着手―混雑緩和や利便性向上を目指す

【オプティマインド】トヨタなどから総額10億円を超える資金調達でドライバー不足に貢献

ラストワンマイルのルート最適化サービスを提供する名古屋大学初のベンチャーであるオプティマインドは2019年10月、トヨタやKDDI Open Innovation Fund 3号などから10億1300万円の資金調達を実施しています。

資金調達によってルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」のプロダクト開発体制の強化、人材育成・獲得、マーケティング施策の拡充などを推進します。愛知の地元企業でもあるトヨタはオプティマインドとの共同研究を通じ、「すべての人に移動の自由を届ける」という自社のポリシーにも貢献する狙いがあるようです。

関連記事:名古屋大学発のモビリティベンチャー、オプティマインド|トヨタなどから総額10億円を超える資金調達を実施

【メ~テレ】家具・のサブスクサービス「airRoom」を運営するElalyに出資

地元テレビ局である名古屋テレビ放送(通称「メ~テレ」)の子会社「名古屋テレビ・ベンチャーズ合同会社」は2019年7月、家具・インテリアのサブスクリプションサービス「airRoom」を運営するElalyに出資しています。

リビングの中心にテレビがあるというライフスタイルが変化しつつあるなか、将来の新たなテレビ視聴スタイルの提案を目指していくということです。

関連記事:名古屋テレビ・ベンチャーズ、家具・インテリアのサブスクリプションサービス「airRoom」を運営するElalyに出資

【LIFULL×名古屋工業大学】JR土合駅でインスタントハウスを活用した実証実験

LIFULL(ライフル)は2020年1月、建築技術によって世界を革新するための技術開発を目的に、名古屋工業大学大学院工学研究科教授である北川啓介氏と共同で、「LIFULL ArchiTech」(ライフル アーキテックを設立しています。

同社は第一弾の取り組みとして、「日本一のモグラ駅」として知られる群馬県のJR上越線・土合駅で、地域活性化に向けた実証実験を行いました。具体的には、JR東日本スタートアップとVILLAGE INC(ヴィレッジインク)が共催する、グランピング施設「DOAI VILLAGE」にて、北川氏が考案した「インスタントハウス」を導入するという試みです。

インスタントハウスは名前の通り即席で創ることのできる家で、宿泊施設として利用することを想定した取り組みでした。

関連記事:LIFULL×名古屋工業大学による新会社「LIFULL ArchiTech」、JR土合駅でインスタントハウスを活用した実証実験

【編集後記】リスクも歴史もビジネスにつなげる推進力

名古屋市は言わずとしれた大都市で、歴史的にも長く栄えてきた街です。トヨタを始めとしたものづくり文化が強みとなっており、オープンイノベーションの風潮もしっかりと醸成されつつあります。

さらに名古屋市の興味深い点は、南海トラフ地震や少子高齢化といったリスク面も産業振興計画の軸に据えていることです。リスクはすなわち課題であって、大きな課題があるならばそこにはビジネスチャンスもあるということをしっかりと発信しているのが印象的でした。

(eiicon編集部)