「終活」という言葉が広く知られるようになってきました。
人生の終わりに向けた活動を表す言葉として定着しつつありますが、
- 何から終活を始めてよいかわからない
- 終活を始めるきっかけがない
といったことから、なかなか具体的な行動に移せない人も多いようです。
この記事では、終活のさまざまな取り組みを難易度別(すぐできる順)にご紹介します。
高齢になって気力や体力が衰えてくれば身の回りの整理がおっくうになります。認知症になってしまえば死後の希望を伝えることもできなくなってしまいます。高齢の人だけでなく、若い人でも不慮の事故でいつ最期が訪れるかはわかりません。
この記事を参考に、少しずつでもいいので終活に取り組んでみましょう。
1.終活とは
終活とは、「人生の終わりに向けた活動」を略した言葉です。自身が亡くなったときの葬儀やお墓の準備をはじめ、遺産相続の対策、身の回りの整理などを行うことをさします。
長らく、自身の死後のことについて生前から準備することはタブーとされていました。一方で、2010年ごろから終活という言葉が広まり、自身で葬儀や相続について考える人が増えてきています。
いまでは、終活は「人生の終わりについて考えることで、今をよりよく生きるための活動」とも位置づけられています。人生を振り返ったことをきっかけに、より前向きに生きられるようになったという声も聞かれます。
1-1.終活が広まっている背景
ここ10年ほどで終活が広まっている背景について、少しだけお伝えします。
かつて葬儀は親族や地域ぐるみで行われ、遺産は長男がすべて相続する家督相続でした。戦後、相続は相続人全員で分け合う均分相続に変わりましたが、家督相続の考え方も根強く残っていました。
そのため、自身で死後のことを決めたり希望を伝えたりする必要はあまりありませんでした。残された人も自分で決めなければならないことは少なかったでしょう。
しかし、いまでは核家族化や近所づきあいの希薄化、単身世帯の増加などで、葬儀のあり方は変わりました。相続でも、それぞれの相続人が自分の権利を主張する傾向が強くなりました。
葬儀や相続のあり方が変わったことで、自身または残された人が決めなければならないことが多くなり、負担に感じられるようにもなってきました。
死後のことで家族に迷惑をかけたくないという思いも、終活の広まりを後押ししているのでしょう。
1-2.終活をしなければこんな大変なことに
終活にとりかかるためには、終活をすることのメリットを知るより、終活をしなければ家族にどういった困ったことが起こるかをイメージする方がよいかもしれません。
もし終活をしないまま亡くなってしまえば、次のようなトラブルが起こります。
- 預金通帳のありかがわからない
- 預金通帳は見つかったが解約に手間がかかった
- 遺品整理で大切なものを捨ててしまった
- 遺産相続でもめた
重い病気やケガで意思表示ができない状態になったときも、次のような問題が家族に重くのしかかります。
- 保険に入っているかどうかわからない
- 延命処置をするかどうかの判断を迫られた
こういった家族の負担を軽減するためにも、ぜひ終活に取り組んでおくことをおすすめします。
2.終活は今からできる
終活を始めた人の多くは、身近な人が亡くなったり、自身が病気になったりしたことがきっかけになったようです。
しかし、終活はやるべきことが多いため、はじめから完全にやろうとするといつまでたっても始められません。まずは、できることから少しずつ始めてみましょう。
ここでは、すぐにでも少しずつでも取りかかれるように、終活を難易度別(すぐできる順)に分けてご紹介します。
終活といえば、葬儀やお墓の手配に注目が集まりがちですが、財産の整理や一覧表作成といった生前整理も終活の一部と位置づけられます。
なお、タイミングによっては自身の死後のことや終末期医療について考えることがストレスになる場合もあります。心身の状態がすぐれないときは、終活は控えるようにしましょう。
- エンディングノートを使うと終活がスムーズに
- 終活を手際よく進めるには、エンディングノート(終活ノート)と呼ばれる市販のノートを使うとよいでしょう。 エンディングノートは、いざというときに家族や関係者に伝えておきたいことが漏れなく書き込めるようになっています。 必要事項を全部書き込むためには、いろいろ考えなければならないこともあるので、書けるところから書いていくことをおすすめします。エンディングノートに必要事項を書き込む過程で、これからやるべきことや考えるべきことが浮かんできます。 何から終活を始めればよいかわからない人は、エンディングノートを手に取ってみてはいかがでしょうか。
2-1.今すぐ簡単にできる終活【難易度1】
【難易度1】の終活は、今すぐ、簡単に、ひとりでもできるものです。主に身の回りのものを整理することから、身辺整理や生前整理と呼ぶ場合もあります。
たくさんのものを残して亡くなってしまえば、片付けで家族に負担をかけてしまいます。誤って大切なものが捨てられる可能性もあります。また、預金通帳など大切な書類の保管場所がわからなければ、万が一のときに家族が困ることになります。
まずはこれらのものの整理から始めましょう。
2-1-1.自身の身の回りのものを整理する 整理というと、「断捨離」という言葉から連想されるように物を捨てていくイメージがありますが、捨てることだけにこだわる必要はありません。
まずは、自身がどれだけの物を持っているかを確認してみましょう。いわば、身の回りのもののたな卸しです。
その上で身の回りのものを、「いるもの」と「いらないもの」に分類します。いらないものは捨ててもよいですが、捨てることに抵抗があればひとまず置いておいても構いません。
「いるもの」と「いらないもの」の分類だけであれば、抵抗なく簡単に始めることができるでしょう。
2-1-2.お金に関係するものを整理する 預金や保険などお金に関係するものは、日々の生活の中で整理できないまま数が増えてしまいがちです。
預金口座やクレジットカードで使っていないものがあれば、解約手続きをしましょう。預金口座の解約は近くの店舗で手続きをしますが、電話やインターネットで手続きができる場合もあります。クレジットカードは電話で解約できます。
万が一のときや病気になった場合に備えて、保険証券や年金手帳、自宅の権利証(登記識別情報)などの重要書類は一か所にまとめておくようにしましょう。盗難が心配で分けておく場合は、家族に保管場所を伝えておくとよいでしょう。
光熱費、通信費、カードの代金や諸会費など、毎月あるいは毎年引き落とされるものがあれば、それらの一覧表も作っておきましょう。亡くなったときに遺族が解約手続きをしなければ、知らない間に口座から引き落とされるか、別途請求される恐れがあります。
お金に関係するものがひととおり整理できれば、「財産目録」の作成をおすすめします。
財産目録をパソコンで入力して作った場合は、必ず印刷しておくようにしましょう。パソコンがパスワードで保護されていれば、家族は見ることができません。
2-2.家族との話し合いが必要な終活【難易度2】
【難易度2】の終活は、家族との話し合いが必要なものです。終末期医療やお葬式、お墓について考えるため、これらの取り組みだけを「終活」ととらえる場合もあります。
家族との話し合いが必要な理由は、万が一のときに実際に動いたり判断したりするのは自分自身ではなく家族だからです。
どうしても家族に言いづらいのであれば、せめてエンディングノートなどに自身の希望を書き残しておくようにしましょう。介護・医療の方針や葬儀・埋葬の方法を決めるだけであれば、ひとりでもできます。
2-2-1.介護や終末期医療について話し合う 生きている間であれば、どのような介護や治療を受けたいかの希望を伝えることができます。しかし、認知症になったり危篤状態になったりすると、自分自身で伝えることはできません。
万が一のときに備えて、どのような介護や治療を受けたいかを家族で話し合っておきます。たとえば、次のようなことを考えてみましょう。
【認知症で意思表示がうまくできなくなった場合】
- 手厚いサービスを受けたいか、自身の財産や介護保険で賄える範囲でよいか
- 財産の管理は誰に頼みたいか
【病状の回復の見込みがなく死期が迫っている場合(終末期医療)】
- 本人に意識がなければ誰の意見を尊重すればよいか
- 回復の見込みがなくても延命処置をしてほしいか、延命よりも苦痛を和らげることを優先してほしいか
本人に意識がない場合は、延命処置を行うかどうかは家族が決めなければなりません。一度延命処置を始めると、途中でやめることは困難です。延命処置によってかえって苦痛が長引く場合もあって、家族にとっては非常に重い決断になります。
終末期医療の方針を話し合っておくことは、家族の負担を和らげることにもなります。
2-2-2.葬儀について話し合う 葬儀については、いまではさまざまな選択肢があります。生前お世話になった人を多数招いて盛大に執り行ってほしいのか、家族だけでよいのか、それとも葬儀そのものを行わないかを話し合っておきましょう。
葬儀をしてほしいのであれば、家族に負担をかけないように生前に葬祭業者に相談しておくことも一つの方法です。あわせて、お金の準備もしておきましょう。
このほか、万が一のときに知らせてほしい人の一覧表を作成しておくこともおすすめします。
故人の交友関係を家族が知っていたとしても、連絡先を把握できているケースはあまり多くありません。親戚どうしであっても、改めて連絡するとなると連絡先がわからないことがあります。
2-2-3.埋葬について話し合う 埋葬についても、さまざまな選択肢があります。多くの場合は、先祖代々のお墓に埋葬してもらうか、新たにお墓を建てて埋葬してもらうかが選択肢となります。
いまでは、子供や孫に負担をかけたくないといった理由から、お墓を撤去して納骨堂に改葬する、いわゆる墓じまいをする人もいます。
これまでの習慣にとらわれない埋葬のあり方として、自然葬や海洋散骨を希望する人もいますが、家族の中には故人を偲ぶ場所があった方がよいと考える人もいます。
埋葬の方法は家族も交えて話し合っておくことが大切です。
2-3.専門家のサポートが必要な終活【難易度3】
【難易度3】の終活は、遺言書の作成や相続税対策など専門家のサポートが必要と考えられるものです。
遺言書の作成や相続税対策は、本などを読んでひとりですることもできますが、民法や相続税法に関する知識が必要です。少しの間違いでせっかく書いた遺言書が無効になったり、相続税が思いがけず高額になったりする恐れもあります。
遺言書の作成は法律の専門家である弁護士・司法書士・行政書士に、相続税対策は相続税専門の税理士に相談して進めることをおすすめします。
2-3-1.遺言書を作成する 遺言書は、遺産を誰にどれだけ渡すかといった財産に関する事項のほか、子供の認知など身分に関する事項を定める法的な書面です。法律で定められた方法で作成しなければ無効になります。
遺言書で誰に何を継がせたいか意思表示をしておけば、相続人は遺言書に従って遺産を分け合うことになります。
特に次のようなケースではトラブルが起こりやすいため、遺言書を作成するようおすすめします。
- 子供のいない夫婦の場合
- 相続人になる人がいない場合
- 離婚歴があり前妻(前夫)の子供がいる場合
- 息子の妻や孫などに遺産を継がせたい場合
- 内縁の妻など親族以外の人に遺産を継がせたい場合
- 特定の相続人に多額の遺産を継がせたい場合
- 相続人どうしの仲が悪い場合
遺言書の形式には、自筆で書く自筆証書遺言と、公証人に作成してもらう公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は自分だけで作成できますが、法的な要件を満たさず無効になる例もあります。紛失や改ざんの恐れもあります。一方、公正証書遺言は作成に費用がかかりますが、無効になることはほとんどありません。
なお、エンディングノートは遺言書の代わりにはなりません。いくら詳しく記載しても法的な効果はなく、あくまでも生前の気持ちを伝える補助的なものにすぎません。
2-3-2.相続税対策をする 相続税は高額になることもありますが、生前の対策で税額を抑えることができます。
相続税対策は、財産の価値を下げることなく税法上の評価額だけ下げることがポイントです。たとえば、手持ちの現金を不動産に組み替えたり、生命保険に加入したりといったことが考えられます。
多額の財産を動かすことになるため、相続税に強い税理士のサポートを受けて進めるようにしましょう。
なお、遺産総額が相続税の基礎控除額以下であれば相続税は課税されず、申告する必要もありません。遺産総額が基礎控除額以下になることが明らかであれば、相続税対策の心配はしなくてもよいでしょう。ただし、基礎控除額以下になるかどうかが微妙なときは、一度税理士に相談しましょう。
相続税の基礎控除額は、以下のとおり法定相続人の数によって変動します。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
相続人の数と相続税の基礎控除額
3.終活は定期的な見直しも必要
終活は、一度しただけで終わるものではありません。人生の終わりを迎えるその時まで、定期的に見直すことも大切です。
一度身の回りのものを整理しても、年月が経てば物は増えてしまうでしょう。財産の内容も変わっているかもしれません。介護や医療の方針を決めたとしても、のちに考えが変わることも十分あります。
たとえば誕生日や年始など、時期を決めてエンディングノートを書きなおすようにしてはいかがでしょうか。必要に応じて遺言書を書きなおしてもよいでしょう。遺言書が複数ある場合は、新しい日付のものが有効になります。
4.親に終活をしてもらいたいときは
最後に、親に終活をしてもらいたいときに、どうやって話を持ちかければよいかヒントをご紹介します。
親がまだまだ元気なうちに終活の話をすると、「親が死ぬのを待っているのか」と思われるかもしれません。良かれと思ってしたことでも、言い方ひとつで親の態度をかたくなにさせてしまうことがあります。
親に終活をしてもらいたいのであれば、まずは自身が終活を始めてみましょう。子供が終活を始めたのを見れば、親もその気になるかもしれません。
5.まとめ
ここまで、終活のさまざまな取り組みをご紹介しました。
終活を始めるのに早すぎるということはありません。むしろ、まだ早いと思うぐらいのほうがタイミングとしては適しています。はじめから何もかも完璧にやろうとするとなかなか始められません。身の回りの整理など、できることから少しずつ始めてみましょう。
介護・医療や葬儀・埋葬については家族と話し合い、遺言や相続税対策については専門家の力を借りるとよいでしょう。(提供:税理士が教える相続税の知識)