「マスクを着けるのは素晴らしいことだ」トランプ米大統領はそう言った。7月11日、ワシントン郊外の米軍医療施設を視察したトランプ大統領は、紋章が付いたネイビーブルーのマスクを着用、公の場で初めてのマスク姿を披露した。

今年4月、CDC(米疾病対策センター)が新型コロナウイルスの感染防止のためにマスク着用を推奨した際には「着けたい人が着ければよい」「自分は着けないと思う」と主張していたトランプ大統領。かつては自身のツイッターでジョー・バイデン氏のマスク姿をからかう文章を添えた投稿をリツイートした同氏が、ここにきて態度を豹変させている。背景には11月の米大統領選挙を見据え、マスク姿で感染防止を率先する姿勢をアピールする狙いがあるとの観測もある。

実際、コロナ前には再選がほぼ確実視されていたトランプ大統領を取り巻く情勢は急変している。今回は新型コロナ禍で混沌とする米大統領選の話題をお届けしたい。

米大統領選、景気後退で状況が一変

アメリカ大統領選挙,予想
(画像=JBOY / pixta, ZUU online)

まず、現職の大統領が再選を目指す場合、最も重要視されるファクターの一つが経済だ。トランプ大統領は少なくともコロナ前までは経済で「目に見える成果」を上げていた。

たとえば、2019年の米GDP(国内総生産)成長率は2.3%と潜在成長率とみられる2%弱を上回っていた。また、今年2月の失業率は3.5%と約50年ぶりの低水準となっていた。こうした経済状況を踏まえて、今年の大統領選挙は現職のトランプ大統領が圧勝するとの見方もあった。

しかし、新型コロナ危機で状況が一変した。

新型コロナウイルスの感染拡大で経済活動が制限される中、今年1~3月の米GDP成長率は前期比年率でマイナス5.0%に転落、2008年10~12月期以来の下落幅を記録した。今年6月には景気循環を判定するNBER(全米経済研究所)が「過去最長の10年8カ月続いた米国の景気拡大は今年2月に終了した」と判断している。また、アトランタ連銀が公表しているGDPナウは4~6月期の米GDP成長率がマイナス35.5%にまで落ち込むと予想している。

4月には失業率が戦後最悪となる14.7%まで上昇した。その後ピークアウトしたものの、6月も11.1%と高止まりしたままだ。ちなみに、ロビー会社のメルマン・カスタネッティ・ローゼン・アンド・トーマスによると、現役大統領が再選を目指した過去15回の選挙で「選挙前に失業率が前年を上回った」のは3人だけで、その3人全員が再選を果たせていない。今回もそうなるかはともかく、トランプ大統領にとって非常に厳しい情勢にあることは想像に難くない。

新型コロナが逆風…世論調査はバイデン氏優勢