遺産分割協議で遺産の分け方を決めて遺産分割協議書も作成したのに、定められた事項を守らない相続人がいてトラブルになるケースがあります。
約束を守らないで遺産分割協議書の内容に従わない相続人がいれば、まずは話し合いによって解決することが望まれます。定められた事項を守らないような人であれば話し合いにも応じないかもしれませんが、そのような事情があっても遺産分割協議書の内容を一方的に撤回することはできません。
この記事では、遺産分割協議書で定められた事項を守らない相続人がいるときの対処法について考えます。当事者どうしで話し合うことが難しい場合は、弁護士を立てて司法の場で解決を図ることになります。
1.遺産分割協議書の内容は一方的には撤回できない
遺産分割協議書の事項を守らない相続人がいてトラブルが起きた場合に、その内容を撤回してもう一度協議をやり直したいと考える人がいます。
しかし、遺産分割協議書の事項を守らない相続人がいるという理由で、その内容を一方的に撤回することはできません。これは過去の裁判において判断されたもので、理由としては次の2点があげられます。
- 遺産分割は協議の成立とともに終了し、その後は相続人どうしの債権債務の関係が残るだけとなる。問題が起きた場合は、相続人どうしで解決を図る必要がある。
- 遺産分割協議を解除すると、相続開始にさかのぼって遺産分割をやり直す必要がある。つまり、最初の協議結果に基づく行為が無効になり、法的安定性が著しく害されることになる。
(参考)裁判所 裁判例結果詳細 最高裁判所第一小法廷平成元年2月9日判決 事件番号昭和59(オ)717
一方、他の裁判では、相続人の全員が合意して遺産分割協議を撤回することは法律上妨げられるものではないと判断されています。
(参考)裁判所 裁判例結果詳細 最高裁判所第一小法廷平成2年9月27日判決 事件番号昭和63(オ)115
トラブルが起きているという時点で相続人の全員が合意することは現実的ではなく、遺産分割協議書の内容の撤回は事実上できないと考えられます。
2.弁護士に依頼して解決を図る
遺産分割協議書の内容を撤回できないのであれば、その内容に従わない相続人に対して、定められた事項を守るように粘り強く働きかけていく必要があります。当事者どうしで話し合うことが難しい場合は、相続問題を扱う弁護士に依頼して解決を図ることをおすすめします。
2-1.遺産分割後の紛争調整の調停を申し立てる
まずは、家庭裁判所の調停(遺産分割後の紛争調整の調停)で解決を図ります。
調停は裁判とは異なるもので、調停委員の仲介による当事者どうしの話し合いで解決を図ります。
第三者が加わることで冷静な話し合いが期待できます。
一方、相手方の相続人(遺産分割協議書の事項を守らない人)が調停に出席しないこともあります。
相手方が出席しない場合は、調停は不調に終わります。
2-2.訴訟を起こす
遺産分割調停が不調に終わると審判に移行しますが、遺産分割後の紛争調整の調停が不調に終わった場合は訴訟を起こすことになります。また、調停での解決が見込まれない場合には、調停を経ないで訴訟を起こす場合もあります。
具体的には、遺産分割協議書の事項に従わない相続人に対して、遺産分割協議書で定められた義務の履行を求める訴訟を提起します。
訴訟を提起しても和解を持ちかけられることが多いですが、判決が言い渡されれば、相手方はそれに従わなければなりません。
3.遺産分割協議書の事項を守らないトラブルを防ぐための対策
遺産分割協議書の事項を守らないトラブルが起こると、調停や訴訟で解決を図ることになり、解決するまでに時間がかかります。
この章では、遺産分割協議書の事項を守らないトラブルを防ぐための対策をご紹介します。
一つは生前に遺言書を書く場合の対策で、もう一つは遺産分割協議書を作成するときの対策です。
3-1.遺言書を書いて遺言執行者を定めておく
まずご紹介するのは、生前に遺言書を書いて遺言執行者を定めておくという対策です。
遺言書を書いておくことで、遺産分割協議をしないでよい状態にしておきます。
しかし、相続人が遺言で指定された事項を守らないことも考えられるため、遺言に従って財産の名義変更などの手続きを行う遺言執行者を指定しておきます。
トラブルを回避するには、利害関係のない第三者の弁護士に依頼して遺言執行者になってもらうことをおすすめします。遺言執行者は相続人の中から指定することもできますが、他の相続人が遺言執行者に協力しないことでトラブルになる恐れがあります。
3-2.遺産分割協議書を公正証書で作成する
遺産分割協議をするときの対策としては、遺産分割協議書を公正証書で作成することがあげられます。遺産分割協議書を公正証書で作成して、強制執行があればそれに従うことを記載しておくと、遺産分割協議書を根拠に強制執行を申し立てることができます。
強制執行は、財産を差し押さえるなどして裁判所が強制的に債権を回収する手続きです。
申し立てには裁判所の判決や調停調書、審判調書などが必要ですが、公正証書として作成された遺産分割協議書でも申し立てができます。
公正証書ではない遺産分割協議書しかない場合は、遺産分割後の紛争調整の調停を申し立てるか訴訟を起こすなどして、調書や判決を取る必要があります。
4.まとめ
ここまでお伝えしたように、一部の相続人が遺産分割協議書の事項を守らない場合の対処法は限られています。結果として司法の場に持ち込むことになり、解決するまでに費用と時間がかかってしまいます。トラブルに対応している間の精神的な負担も無視できるものではありません。
相続問題を専門にしている弁護士に相談して早めに解決を図るようにしましょう。
また、一部の相続人が遺産分割協議書で定めた事項を守らないと予想される場合は、事前に対策しておくことでトラブルを防ぐことができます。(提供:税理士が教える相続税の知識)