相続放棄は、故人の借金を引き継ぎたくない場合や遺産相続の争いを避けたい場合に行われます。
単に債権者や家族に対して相続放棄を宣言しても法的な効力はないため、家庭裁判所で申し立てをして認めてもらう必要があります。
相続放棄の手続きは、自分で行うほか専門家に依頼することもできます。
どちらの方法で手続きするかを考えるときは、手続きにかかる費用が気になるのではないでしょうか。
この記事では、相続放棄の手続きを自分でする場合と弁護士や司法書士に依頼する場合の、それぞれの費用の相場をご紹介します。相続放棄を考えていて費用がどれぐらいかかるか心配になっている人は、ぜひこの記事をご覧ください。
1.相続放棄とは
相続放棄とは、亡くなった被相続人の財産や借金を一切引き継がないという相続の方法です。
被相続人に多額の借金があって相続した遺産を充てても返済しきれない場合のほか、事業承継のために特定の相続人に遺産を継がせたい場合などで行われます。
相続放棄をする場合は、債権者や他の相続人にその意思を伝えるだけでは手続きとして不十分です。
法的に有効なものとするためには、相続があったことを知ってから3か月以内に家庭裁判所に申し出なければなりません。
この3か月の期間は「熟慮期間」とされていて、相続人はこの間に故人の遺産や借金の額を調査して、相続するか放棄するかを判断します。
2.相続放棄の手続きは自分ですることも専門家に依頼することもできる
相続放棄の手続きの方法は、大きく次のようなパターンに分けられます。
- 自分で手続きをする
- 司法書士に依頼する
- 弁護士に依頼する
3か月の熟慮期間を過ぎてからの手続き(司法書士または弁護士に依頼) 相続放棄の手続きは、専門家に依頼しなくても自分だけで行うことができます。
手続きに必要な戸籍関係書類の準備が難しい場合や、手続きのための時間が取れないような場合では、手続きの代行を司法書士に依頼することができます。
相続人どうしでもめている場合や、すでに債権者からの取り立てが始まっている場合は、弁護士に相談することをおすすめします。本当に相続放棄をするべきかどうか、債務の減額を交渉できないかといったことも相談できます。
故人に借金があることを債権者からの請求で初めて知ったというような事情があれば、3か月の熟慮期間を過ぎてからでも相続放棄が認められる場合があります。ただし、期限内に手続きができなかった事情を説明する申述書が必要で、専門家に頼らざるを得ません。3か月を過ぎた場合の相続放棄の手続きは、弁護士または司法書士に依頼しましょう。
3.相続放棄の手続き方法ごとの費用の相場
これから、手続き方法ごとに相続放棄にかかる費用の相場をご紹介します。
自分で手続きをすれば安く済ませることができますが、司法書士や弁護士に依頼すると費用は高くなります。
なお、ここでご紹介する司法書士費用や弁護士費用はあくまでも一つの目安です。
相続人の数や家族構成、トラブルの有無によって費用は変わるため、事前に見積もりを取るなどして確認することをおすすめします。
3-1.【3,000円~5,000円】自分で手続きをする場合の費用
相続放棄の手続きを自分で行う場合は、戸籍謄本などの必要書類をそろえて家庭裁判所で手続きを行います。
費用には「家庭裁判所に支払う費用」と「提出書類を準備する費用」があります。 あわせて5,000円までに収まることが多いですが、別途、交通費や郵送料がかかります。
3-1-1.家庭裁判所に支払う費用(1,300円程度)
相続放棄の手続きで家庭裁判所に支払う費用は以下のとおりです。
- 申述人1人につき収入印紙800円分
- 連絡用の郵便切手(300円~500円程度。申述先の家庭裁判所によって異なります)
連絡用の郵便切手の金額は、各裁判所のウェブサイトの「裁判手続を利用する方へ」に掲載されている場合があります。
3-1-2.提出書類を準備する費用(1,200円~)
提出書類を準備する費用は、住民票や戸籍謄本の発行のために市区町村に支払う費用で、おおむね以下のとおりです。遠方の市区町村から郵送で取り寄せる場合は、これとは別に郵送料が必要です。
故人の両親や兄弟姉妹が相続放棄する場合は、被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本が必要になるなど提出する書類が増えます。出生から死亡まで連続した戸籍謄本は通常何通かに分かれるため、費用もその分増えることになります。
これらの書類のうち、すでに相続放棄をしている人から提出されているものがあれば、改めて提出する必要はありません。そのため、相続放棄する人が複数いる場合でも1回分の費用で済みます。
3-2.【3~6万円】司法書士に依頼する場合の費用
相続放棄の手続きに必要な書類の準備や家庭裁判所への申し立てを代行してもらいたい場合は、司法書士に依頼するとよいでしょう。
ただし、司法書士が対応できる業務には限りがあるため注意が必要です。
他の相続人や債権者との交渉を司法書士に依頼することはできません。
また、手続きをした後で家庭裁判所から問い合わせがあった場合は、自分で対応しなければなりません。
相続放棄の手続きを司法書士に依頼する場合の費用の相場はおおむね以下のとおりです。
実費には司法書士の日当や交通費が加算されます。
また、複数人で相続放棄する場合や3か月の熟慮期間を過ぎた場合は費用が高くなることがあります。
相続放棄を手がける司法書士事務所の多くはホームページで報酬額を掲げているので、事前に確認しておくことをおすすめします。
3-3.【5~10万円】弁護士に依頼する場合の費用
相続放棄手続きの代行だけでなく、相続人や債権者とのトラブルの解決が必要な場合は、弁護士に依頼する必要があります。相手方との法的な交渉の代行は弁護士にしかできません。
相続放棄の手続きを弁護士に依頼する場合の費用の相場はおおむね以下のとおりです。
司法書士に比べて費用が高額になるため、トラブルがない場合では割に合わないかもしれません。
実費には弁護士の日当や交通費が加算されます。
また、複数人の相続放棄や3か月の熟慮期間を過ぎてからの相続放棄では弁護士費用が加算されることがあります。
弁護士事務所によっては、先に着手金を支払って、相続放棄ができた場合に成功報酬を支払うという体系をとっている場合もあります。
4.お金がない場合は「法テラス」を利用できる
ここまでお伝えしてきたように、相続放棄の手続きを専門家に依頼する場合はそれなりの費用がかかります。相続放棄をする以上、遺産をあてにすることはできません。
司法書士や弁護士の費用が準備できない場合は、公的機関である「法テラス」の立替制度を利用することができます。ただし、利用するには収入や資産額などの条件があります。
このほか、事務所によっては分割払いやクレジットカード払いに応じてもらえる場合があります。
費用の面で心配なことがあれば、初回の相談で確認するとよいでしょう。
5.まとめ
ここまで、相続放棄にかかる費用の相場をお伝えしました。
自分で手続きをする場合は5,000円ほどの費用で済みますが、司法書士や弁護士に依頼すると費用は高くなります。
相続放棄が認められなかった場合は多額の債務を負うことがあるため、手続きは慎重に行う必要があります。費用を抑えることだけを考えるのではなく、自分だけで手続きができるのか、あるいは専門家に間に入ってもらう必要があるのかもよく考えることが大切です。(提供:税理士が教える相続税の知識)