市場が急拡大しているクラウドファンディング。いまや人々の生活にも当たり前のように普及し始めている。CAMPFIREの大東洋克さんは、「クラウドファンディングは金融のあり方はもちろん、産業構造そのものを変える可能性がある」と指摘。すでに、CAMPFIREは出版業界に革命を起こしつつある。ここでは、大東さんの話を中心に、クラウドファンディングが秘める力や可能性を探っていく。

クラウドファンディングで広がる“ライトな共感”

クラウドファンディング
CAMPFIRE取締役COO 大東洋克氏(写真=永井浩)

6月某日、電車で移動中にCAMPFIREのサイトを何気なく眺めていたら、ロケット型蚊取り機「ROCKET」というプロジェクトが目に止まった。「可愛い見た目と安全安心なデザイン! 体には無害で光と空気の力で蚊を誘い込む蚊取り機」というコピーと、ユーモラスなフォルムを描く製品の写真が好奇心をくすぐられたのだ。赤外線で蚊を誘引して、捕虫カゴに吸い取る仕組みだという。

確かに、これなら危険ではなさそうだし、これからの季節に重宝しそうだ。募集終了まで残り6日。すでに125人が支援しており、10万円の目標額に対して39万320円を獲得している。

一瞬、「目標の3倍超を達成しているなら、自分はいいか……」と思ったものの、すぐさま考え直して「このリターンを選択する」をタップした。 通常販売予定価格4980円に対し、40%オフの2980円(100台限定)の枠はすでに在庫切れとなっていたが、26%オフの3,680円(100台限定)はまだ枠が残っていたからだ。

完全に通常のショッピングの感覚でこの蚊取り機を手に入れたわけだが、結果的にはこのプロジェクトを発足させた会社を支援したことになっている。「おお、いいじゃん!」という“ライトな共感”が広がることで叶えられる資金調達。いまやクラウドファンディングは、ここまで日常の暮らしに溶け込み始めている。

「クラウドファンディングは単にお金を出すだけにとどまらず、その先に存在しているものがあります。特に、『購入型』はeコマース(電子商取引)に近い感覚で支援するケースが多いようですが、単なるショッピングではなく、ヒト、モノ(サービス)、カネ、これら3つが必ず関わってくる。たとえば、当社スタッフの奥さまは『駆除されたイノシシで革細工を作る』というプロジェクトを立ち上げました。害獣とはいえ肉だけ食用に回して川を捨ててしまうのは忍びないという思いから始まったもので、賛同した人たちがお金を通じて、その活動を応援しているわけです」

こう語るのは、CAMPFIREの大東洋克取締役COO(最高執行責任者)だ。同社はクラウドファンディングおいて「購入型」プラットフォームのCAMPFIRE、「寄付型」プラットフォームのGood Morningを運営し、プロジェクト掲載数2万件、支援者数延べ108万人、支援額105億円超という国内随一の実績を築いてきた。

近日中には、CAMPFIRE Ownersというサービスが新たにスタートする。これまで取り扱ってきたクラウドファンディングとは何が違っているのだろうか。

CAMPFIRE大東COO
CAMPFIREで実現したプロジェクトから生まれたグッズの数々(写真=永井浩)

クラウドファンディングが日本の金融を変える

CAMPFIRE大東COO
(写真=永井浩)

CAMPFIRE Ownersで取り扱うのは「融資型」のクラウドファンディング。「購入型」や「寄付型」よりも金融の領域に大きく接近することになる。

「クラウドファンディングは、フィンテック(最先端のICTを駆使した金融サービス)という文脈で捉えられることが多いようですが、その一方で、“資金調達の手段の1つ”というとらえ方もあります。そういう意味では、IPO(株式の新規公開)と似た性質を持つと言えます」(大東さん)

IPOを果たせるのはすでにいくつかのフェーズを乗り越え、証券取引所が定めた基準をクリアできる体制が整っている企業に限られる。とはいえ、そのレベルにたどり着くまでにもかなりの資金を必要とするのが現実だろう。

そのためにベンチャーキャピタルやエンジェル投資家の存在があるとはいえ、事業の初期段階からの投資には彼らも慎重なスタンスを取らざるをえない。パトロン(経済的な支援者)として利益を度外視して応援するわけではないからだ。もちろん、個人や小規模事業者にとって、従来の銀行融資はハードルが高い。つまり、企業のアーリーステージの資金ニーズを埋める手段は、かなり限定的ということだ。

しかし、「融資型」のクラウドファンディングなら話は別である。

「旧来型の融資では、企業の資金ニーズにはきちんと応えられていませんでした。つまり、金融機関側は商機を取りこぼしていたし、資金提供を求めている側も成長のチャンスを逃していたわけです。特に中小企業の資金調達は非常に厳しかったわけですが、『融資型』のクラウドファンディングならそういった状況を変える可能性を秘めています」(大東さん)

もちろん、これまで既存の金融機関が融資に消極的であったように、中小規模の会社だったり、社歴が浅かったりする企業への融資にはリスクがつきものだ。「融資型」のクラウドファンディングにおいても、その点を軽視するわけではない。「外部企業との連携によって与信(信用力の調査)や貸出資金の回収は徹底する」(大東さん)という。

資金を出す側にとっても、「融資型」の普及は資産運用の可能性を拡大

ところで、「融資型」のクラウドファンディングの普及は、資金提供を求める側だけにメリットが限定された話ではない。資金を出す側にとっても、資産運用における魅力的な選択肢が新たに生まれるという点で、大いに注目すべきことだ。

なぜなら、預貯金や債券といった安全性の高い(その裏返しで増やすことはほとんど期待できない)資産運用の選択肢と、株式投資やFX(外国為替証拠金取引)のような高いリターンを期待できる分、リスクも高い選択肢の中間を埋めることになるからだ。

「融資型」のクラウドファンディングが一般的になってくれば、個人の資産運用の在り方も大きく変わってくる可能性がある。CAMPFIRE Owners では、10種類以上の投資ジャンルを設け、1万円から投資が可能で、かつ1.5〜8%の利回りが期待できる案件を取り扱う予定だという。

「融資型」のクラウドファンディングはソーシャルレンディングとも呼ばれる。日本における同ジャンルのパイオニアであるSBIソーシャルレンディングでは、3.0〜10.0%の予想利回りを提示してきた。もちろん、この利回は保証されているものではない。利回りが高いものほど信用リスクも高いとみなしたほうがいいだろう。

とはいえ、高格付の(信用力が高い)大手企業が発行する社債よりも高い利回りで、高配当の株式よりもリスクが相対的に低い投資対象があまり見当たらなかったのも確かだ。「融資型」のクラウドファンディングがそのすき間を埋めることが期待されるわけである。

大手企業や全国の地銀もCAMPFIREとの協業に動き始めた

国内のクラウドファンディング市場は、2017年度に年間新規プロジェクト支援額ベースで1700億円規模に達しており、過去4年間で約8倍もの急スピードで膨張してきた。2011年の日本初上陸の直後は静観してきた大手企業も、もはやその急成長を軽視できなくなってきているのが現状だ。

「いまや日本の産業全体がクラウドファンディングに対して高い関心を示していると言っても過言ではないでしょう。私たちと伊藤忠商事、KDDIが提携を結んだことはその象徴的な出来事でしょう」

今年の4月10日、伊藤忠商事はCAMPFIREが第三者割当増資によって発行する株式の一部を引き受けることに合意したと発表。伊藤忠は出資を通じて、CAMPFIREの事業拡大をサポートするという意思表明を行ったのである。

昔から大手総合商社は有望なニュービジネスに対する目利きに長けており、これぞと目をつけた新興企業に積極的に出資を行ってきた。今回の出資は、クラウドファンディングの可能性やこの分野のリーディングカンパニーであるCAMPFIREの成長性に対して、伊藤忠商事の期待があらわれている。

しかも、伊藤忠商事が手掛けているファッションブランドの新商品立ち上げや、国内未上陸ブランドの需要予測などにCAMPFIREのプラットフォームを積極的に活用する方針だという。将来的には市況の影響を受けにくい非資源分野にもクラウドファンディングの活用を拡大され、さらにその先には海外市場での展開も視野に入れているようだ。

また、KDDIも今年の3月に有望なベンチャー企業への出資を目的とした「KDDI Open Innovation Fund 3号」を通じてCAMPFIREに出資したことを明らかにした。やはり、クラウドファディング市場がさらに拡大することや、フィンテックの一形態としてもクラウドファンディングが有力な事業であることを見据えての決断だったのだろう。

一方、こうした動きに並行してCAMPFIREが進めてきたのが、約50行にも及ぶ地方銀行との業務提携である。営業エリア内においてクラウドファンディングの活用を推進することで、地域の活性化や新たな収益源の獲得を図るというのが地銀サイドの狙いらしい。

前述の話にも関連してくるが、銀行からの融資という形式では資金を融通できなかった案件でも、「融資型」のクラウドファンディングなら事情が違ってくる。

出版業界にも革命を

「融資型」のCAMPFIRE Ownersに先駆けて、CAMPFIREが2018年12月から立ち上げたEXODUSも極めて斬新な試みと言える。出版の世界にクラウドファンディングのスキームを活用するというものだ。同社のWebサイトには、「出版の常識をぶった切る」の文字が躍る。

「CAMPFIREが培ってきた クラウドファンディングのノウハウに、幻冬舎の編集力、宣伝力を掛け合わせることによって、まったく新しい出版のモデルを構築しました。昨年末から募集を開始した第1期では、当社に持ち込まれた出版企画から候補者を3名に厳選し、クラウドファンディングで30日間の期限内に1000冊以上の注文を獲得しました。250万円以上の金額を集めることに成功すれば、幻冬舎からの刊行が決定します」(大東さん)

1冊が2500円という設定なので、250万円のハードルのクリアには「値引き禁止」が前提となる。6月14日の時点で2人は条件をクリアしており、残る1人はあと661冊で注文が必要となっていた。その彼の経歴を知れば誰もが驚愕するに違いない。

名前は加藤路瑛。2006年生まれの13歳(中学2年生)だ。クラウドファンディングで115万円を調達し、わずか12歳にして「親子起業スタイル」で自分の会社を立ち上げたのである。「親子起業スタイル」とは、自分の親を代表取締役に据えるものの、社長は子どもが務めるというもの。12歳では印鑑証明を取得できなくて法人登記が叶わなかったことから考えた苦肉の策だ。

小・中・高校生のみで運営するメディア「TANQ-JOB」の編集長を務め、U-18専用のクラウドファンディングサイトも開発中だという加藤さん。このように、計り知れないポテンシャルを秘めた若手が発掘されるのもクラウドファンディングの大きな魅力と言えるだろう。

「ひょっとしたらクラウドファンディングとさらにプラスアルファの何かが加わることで、産業の構造に生じている歪みを正していけるかもしれません。そのためには、クラウドファンディングを通じて結果的に何かが生まれることが大事。生まれたものを通して社会の仕組みが変わっていくこと。これが私たちの使命と思っています」(大東さん)

海外の案件も取り扱いを拡大、クラウドファンディングは国境を越えて…

もう一つ、クラウドファンディングの世界において新たなる潮流となっているのがグローバル化だ。大東さんはこう述べる。

「すでに中国や台湾、韓国のプロジェクトも紹介してきていますが、今後はアジア圏を中心に海外の案件の取り扱いをいっそう拡大させていきたいと思っています。そのために、現地のプラットフォームとの提携も進めていくつもりです」

どうして、クラウドファンディングでは国境がさほど障害となってこないのか。その答えは意外と簡単に見つかる。クラウドファンディングに資金を投じるという意思決定のスイッチは、“共感”という感情の動きに委ねられており、共感は人類にあまねく広がるものだからだ。

義務感(日頃の付き合いから)ではなく素直にSNSで「いいね!」をタップするのと同じように、純粋に支援したいと思ったプロジェクトには自然と資金が集まる。そういった意味でも、クラウドファンディング発展性は底知れぬ力を秘めていると言えそうである。

CAMPFIRE大東COO
(写真=永井浩)

大東洋克(おおひがし・ひろかつ)
2002年GMOインターネット株式会社入社。アクセス事業本部長、ドメイン事業本部長などを経て、2009年にGMOドメインレジストリ株式会社を設立、同社常務取締役に就任。2013年に独立し、Webコンテンツやニュースメディアのデータ分析、機械学習を活用したWebコンテンツ最適化などの事業に参画。2018年に株式会社CAMPFIREに入社。クロスボーダー事業部長として海外事業推進とアライアンス事業推進を担当。2019年3月株式会社CAMPFIRE取締役COO就任、兼事業推進室長として海外事業戦略、CAMPFIRE事業、金融事業を管掌。

(提供:YANUSY

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