~小売、情報通信、電気・ガスに上方修正期待。円安方向の想定レートに要注意~
要旨
● 9月短観における今期の収益計画によれば、売上高の半期ごとの伸び率は20年度下期も減収だが、経常利益については20年度下期に減益幅縮小に転じる。年度後半に情報関連財以外でも在庫循環が底打ちし、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の下支え要因となることも期待される。
● 売上高が最大の上方修正となったのが「小売」であり、それに続くのが「情報サービス」「通信」と巣籠・デジタル関連業種が目立つ。巣ごもり消費の恩恵を受けた「小売」に加えて、旺盛な日本企業のIT投資意欲の恩恵を受けやすい「情報通信」関連の上方修正が期待される。
● 経常利益計画から業績の上方修正が期待される業種を見ると、巣ごもり消費の恩恵を受けた「小売」、原油安などに伴う燃料コスト低下の恩恵を大きく受けた可能性がある「電気・ガス」、オンライン・EC化の恩恵を受けやすい「情報サービス」と続く。下期計画だけで見れば、中国経済の持ち直しなどにより「木材・木製品」「紙・パルプ」「はん用機械」も上方修正となっていることにも注目。
● 大企業製造業の想定為替レートは、2020年度下期にドル円で107.1円/㌦、ユーロ円で119.7円/㌦だが、足元のドル円レートは105円台。中でも円安方向に今期の為替レートを想定しているのが「食料品」「金属製品」「非鉄金属」と続く。
● 今後は、再拡大となった世界のコロナ感染状況や11月3日の米大統領選等に加えて、FRBが金融緩和にさらに前向きな姿勢を示すなどして為替レートの水準が更に円高方向になれば、こうした今期の為替レートを円安方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目。
3か月前から下方修正
10月1~2日にかけて公表された9月短観の大企業調査は、9月下旬にかけて金融・保険を除く資本金10億円以上の大企業約1900社に対して行った調査であり、先月公表された法人企業景気予測調査に続いて、今期業績予想の先行指標として注目される。
そこで本稿では、同調査を用いて、10月下旬から本格化する四半期決算発表で堅調な今年度計画が見込まれる業種を予想してみたい。
資料1は、9月短観の調査対象大企業(全産業、除く金融)が計画する半期別売上高・経常利益前年比の推移を見たものである。まず売上高を見ると、20年度は下期にかけてマイナス幅が縮小するものの、前回調査からは上期・下期とも下方修正となっている。
また、経常利益は20年度上期で減益率が大幅に拡大しており、前回調査からも下方修正となっている。ただ、下期に関しては前年比でマイナス幅が縮小する見込みは変わってない。このことから、企業は業績の底を今年度前半と見ており、今年度後半は持ち直すと予想している。
つまり、産業全体で見れば、売上高の半期ごとの伸び率は20年度下期に前年比増収に転じることは難しいものの、経常利益については20 年度下期に減益幅縮小を計画する姿に変わりは無い。特に、年度後半に向けて電子部品デバイスのみならず、鉱工業全体の在庫循環の底打ちが見え始め、収益回復への市場の期待が高まれば、株式相場の下支え要因となることも期待されるだろう。
売上高上方修正期待の小売・情報通信
続いて、9月短観の売上高計画を基に、上方修正が見込まれる業種を選定してみたい。資料2は20年度の業種別売上高計画を前年比と修正率に分けて状況を見たものである。
結果を見ると、「小売」「情報サービス」を除く全ての業種で減収計画となる中で、前回調査から最大の上方修正率となっているのが「情報サービス」の+1.4%である。それに続くのが「小売」の同+0.4%、「通信」の同+0.1%であり、巣籠・デジタル関連業種の上方修正が目立つ。
従って、20年度の業績見通しにおいては、こうした業種に関連する企業について売上高計画が注目されよう。特に今回は、巣ごもり消費の恩恵を受けた「小売」に加え、「情報通信」もオンライン・EC化やデジタル基盤の拡充等の恩恵を受けそうだ。
上方修正期待は小売、情報サービス、電気・ガス
続いて、9月短観の経常利益計画から上方修正が期待される業種を見通してみよう(資料3)。
結果を見ると、上方修正幅が最も大きいのは巣ごもり消費の恩恵を受けた「小売」の+7.0%となる。それに続くのが、原油安などに伴う燃料コスト低下の恩恵を大きく受けた可能性がある「電気・ガス」の+1.0%、オンライン・EC化の恩恵を受けやすい「情報サービス」の+0.9%となる。
このように、今期の経常利益見通しでは、上方修正が期待される業種として、売上高見通し同様に巣籠やデジタル化の恩恵を受けた小売や情報サービス関連に加えて、原油をはじめとした燃料コスト低下の恩恵を受けたエネルギー関連が期待される。
これら以外の業種では、中国経済の持ち直しなどにより、下期計画だけで見れば「木材・木製品」「紙・パルプ」「はん用機械」も上方修正となっていることにも注目だろう。
為替レートの変動で業績が修正される可能性も
なお、9月短観の収益計画では、企業の想定為替レートも公表されることから、業種別の想定為替レートも今後の業績見通しの修正の可能性を読み解く手がかりとして注目したい。
資料4にて実際に今年度下期の想定為替レートを確認すると、大企業製造業における事業計画の前提となる想定為替レートはドル円で107.1円/㌦、ユーロ円で119.7円/㌦となっている。しかし、足元のドル円レートは105円台である。
中でも、製造業で足元のドル円レートよりも円安で今期の為替レートを想定しているのが「食料品」の108.5円/㌦、「金属製品」の108.3円/㌦、それに続くのが「非鉄金属」の107.9円/㌦となっている。
以上の結果を踏まえれば、今後は交渉再開となった米中通商協議や10月末が期限となっているEU離脱等に加えて、FRBが利下げに前向きな姿勢を示して為替レートの水準が更に円高方向になれば、こうした今期の為替レートを円安方向に想定している業種に属する企業を中心に今期業績が修正される可能性があることにも注目すべきだろう。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 永濱 利廣