亡くなる人は多くの場合高齢で、未成年者が相続人になることはめったにありません。しかし、次のようなケースでは未成年者が相続人になることがあります。
- 被相続人が若くして亡くなったとき
- 相続税の対策の一環で被相続人が孫を養子にしていたとき
- 被相続人の子が先に亡くなっていて孫が相続人になるとき
未成年の相続人がいる場合は、通常の相続手続きとは異なる手続きが加わります。具体的にいえば、未成年の相続人に代わって遺産分割協議を行う「特別代理人」を定める必要があります。また、遺産分割の内容について家庭裁判所の許可も必要になります。
この記事では、未成年の相続人がいる場合の遺産分割協議の進め方についてお伝えします。
目次
1.未成年者は法的に遺産分割協議ができない
被相続人が亡くなれば、相続人同士で遺産分割協議をして遺産を分けあいます。ただし、未成年者は十分な判断能力が備わっていないという理由から、法律上、遺産分割協議に参加することができません。未成年の相続人がいれば、代理人を立てて遺産分割協議をすることになります。
一般に未成年者が法律に基づく契約などをするときは、親権者が代理人になります。ただし相続では、親権者が代理人になれない場合があります。
たとえば、父親が亡くなって母親と未成年の子供が相続人となる場合では、未成年者と親権者が同じ相続の当事者となって互いに利益が相反する関係になります。このケースでは、母親は子供の代理人にはなれません。母親が子供の代理人になれば、母親が自分の利益を優先して、子供が遺産を十分に受け取れなくなる恐れがあるからです。
ただし、父親が先に亡くなっている場合で、父方の祖母が亡くなり未成年の子供(祖母から見た孫)が相続人になる場合は、母親は子供の代理人になれます。母親は祖母の相続人ではなく、母親と子供は利益が相反しないからです。
2.未成年の相続人がいる場合には特別代理人の選任が必要
未成年の相続人について親権者が代理人になれない場合は、「特別代理人」を選任する必要があります。
この章では、特別代理人の選任手続きと注意点をお伝えします。特別代理人を選任するときは、特別代理人の候補者を定めて申立書に書くことと、遺産分割協議書の案を一緒に提出することに注意が必要です。
2-1.特別代理人の選任手続きについて
特別代理人を選任するには、未成年の相続人の住所地の家庭裁判所で親権者が申立てを行います。申立てには次の書類等が必要です。
- 特別代理人選任申立書(800円分の収入印紙を貼付)
- 未成年の相続人の戸籍謄本
- 親権者の戸籍謄本(未成年の相続人と同じ戸籍であれば兼用できます)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 遺産分割協議書の案
- 連絡用の郵便切手
2-2.特別代理人には誰がなれるのか?
特別代理人には、相続の当事者でない成人であれば誰でもなることができます。弁護士などの資格も必要ありません。知人や友人に依頼することもできますが、遺産相続の内容が知られてしまいます。できれば親族の誰かに依頼するのがよいでしょう。
なお、1人の代理人が兄弟姉妹など2人以上の未成年者の代理人を務めることはできません。親が代理人になるのと同様に、兄弟姉妹どうしで利益が相反する関係になるからです。未成年の相続人が複数いる場合は、その人数分だけ特別代理人を選任しなければなりません。
親族に適任な人がいない場合は、弁護士や司法書士などの専門家を特別代理人にすることもあります。
2-3.遺産分割協議の内容に裁判所の許可が必要
特別代理人の選任手続きでは、遺産分割協議書の案を家庭裁判所に届け出る必要があります。
家庭裁判所は、特別代理人の選任を認めるかどうかを、遺産分割協議書の内容から判断します。遺産分割協議書の内容が未成年の相続人にとって不利なものであれば、選任が認められない可能性があります。
実際には、特別代理人を選任してから遺産分割協議を始めるのではなく、遺産分割協議の案を考えてから特別代理人を選任し、そのあと正式に遺産分割協議を行うという流れになります。
3.未成年の相続人がいる場合の遺産分割協議書の作成方法
未成年の相続人がいるときは、遺産分割協議書の作成方法も通常の場合とは少し異なります。
3-1.遺産分割協議書には特別代理人が署名・押印
遺産分割協議の内容は、遺産分割協議書に記録します。遺産分割協議書は、銀行預金の名義変更手続きや不動産の相続手続きなどでも必要になります。
遺産分割協議書には、相続人全員が署名して印鑑登録した印鑑を押す必要があります。ただし、未成年の相続人については、相続人本人ではなく特別代理人が署名・押印します。
3-2.遺産分割協議書を家庭裁判所に認めてもらうには
特別代理人を選任するときは、家庭裁判所に遺産分割協議書の案を提出します。ここで遺産分割協議の内容が認められなければ特別代理人を立てられず、遺産分割の手続きが滞ってしまいます。相続手続きをスムーズに進めるためには、遺産分割協議書を家庭裁判所に認められるようなものにしておくことが重要です。
法定相続分を未成年の相続人に与えることが理想
遺産分割協議書の内容が未成年の相続人にとって不利なものであれば、家庭裁判所に認められない可能性があります。遺産分割の比率を考えるときは、少なくとも法定相続分は未成年の相続人に与えるようにすることが理想です。
法定相続分は、相続人が母と子供2人の場合では、母は2分の1、子供は1人あたり4分の1となります。
理由を明記して親権者が相続することもできる 遺産分割協議書を家庭裁判所に認めてもらうためには、法定相続分を未成年の相続人に与えることが理想ですが、必ずしもそのように遺産を分割できるとは限りません。
遺産が自宅の不動産しかない場合、子供に遺産を分け与えるために自宅を売却してしまっては、今後の家族の生活が立ち行かなくなってしまいます。また、子供の養育に必要なお金は実際には親が管理していくため、遺産をすべて親権者に相続させるほうが良い場合もあります。
このようなときは、遺産分割協議書や特別代理人選任申立書に「子供の養育費や生活費に充てるため便宜的に親権者に遺産を相続させる」といったような理由を明記します。未成年の相続人に不利な内容ではないことを示すと、家庭裁判所に認められやすくなります。
4.まとめ
未成年者は遺産分割協議をすることができないため、未成年の相続人には代理人を立てなければなりません。特に親と子がともに相続の当事者になっている場合は、第三者の特別代理人を立てなければなりません。未成年の相続人が二人以上いる場合は、その人数分の特別代理人が必要になります。
特別代理人を立てるには家庭裁判所への申立てが必要で、遺産分割の内容が未成年の相続人に不利なものでないことを家庭裁判所に認めてもらう必要もあります。
このように、未成年の相続人がいる場合は手続きが通常とは異なるだけでなく、家庭裁判所とのやりとりも必要になります。
また、相続税節税の為に未成年の孫を養子とするケースもあります。基礎控除額が増加し相続税は下がりますが、遺産分割協議において一定割合を未成年者に相続させる必要が出てくるので、税額計算で損をしてしまうことも考えられます
相続手続きをスムーズに進めるためには、相続問題に詳しい弁護士や司法書士に、相続税の対策で未成年者の養子縁組を考えている場合には相続税に詳しい税理士に早めに相談することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識)