失踪宣告は、行方不明の人や生死が不明の人に対して法律上死亡したとみなすための手続きです。相続では、行方不明の相続人に対して失踪宣告を申し立てることがあります。

遺産分割協議は相続人が一人でも欠けると無効になるため、協議を成立させるためには行方不明の相続人を探し出さなければなりません。しかし相続税の申告には期限があるため、行方不明の相続人が見つからない場合には、失踪宣告を申し立てたり不在者財産管理人を立てたりして相続手続きを進めます。

この記事では、失踪宣告について具体的な手続きと手続き上の注意点を解説します。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

目次

  1. 1.失踪宣告とは?どんな時に必要?
    1. 1-1.普通失踪と危難失踪
    2. 1-2.失踪宣告が必要になるとき
  2. 2.失踪宣告を家庭裁判所に申し立てる手順
  3. 3.失踪宣告を取り消したい場合の手続き
  4. 4.失踪宣告について知っておきたい注意点
    1. 4-1.遺産分割後に失踪宣告された人が現れた場合
    2. 4-2.市区町村への届け出が必要
    3. 4-3.相続税の期限に間に合わない場合がある
    4. 4-4.行方不明者自身の相続も発生する
  5. 5.まとめ

1.失踪宣告とは?どんな時に必要?

失踪宣告とは、行方不明になっている人を法律上死亡したことにする手続きです。失踪は行方不明になった原因によって「普通失踪」と「危難失踪」に分けられていて、認定されるための条件が異なります。

1-1.普通失踪と危難失踪

普通失踪と危難失踪の違いは次のとおりです。

  • 普通失踪
    行方不明になって7年間生死が明らかでない場合
  • 危難失踪
    戦争、船舶の沈没、震災などの危難に遭遇して、その危難がやんだ後1年間生死が明らかでない場合

失踪が宣告されると、普通失踪では行方不明になってから7年経過したときに、危難失踪の場合はその危難がやんだときに死亡したとみなされます。

1-2.失踪宣告が必要になるとき

遺産分割協議は相続人全員で行うこととされていて、行方不明などで相続人が一人でも欠けているとその協議は無効になってしまいます。遺産分割協議を有効にするには、行方不明の相続人を見つけて協議に加えなければなりませんが、行方不明者は簡単には見つからないものです。

相続税の申告には期限があり、いつまでも行方不明者を探し続けるわけにはいきません。相続の手続きを先に進めるために失踪宣告が必要になります。

失踪宣告で行方不明者が死亡したとされる日が被相続人の死亡前であるか死亡後であるかによって、相続の権利は次のようになります。

  • 行方不明者が死亡したとされる日が被相続人の死亡前であるとき
    行方不明者ははじめから相続人でなかったことになります。行方不明者を除いて遺産分割協議をしても問題はありません。
  • 行方不明者が死亡したとされる日が被相続人の死亡後であるとき
    行方不明者の相続権はその人の子供など代襲相続人に移ります。代襲相続人が遺産分割協議に加わることで、遺産分割の手続きが始められます。

失踪宣告以外の方法

行方不明の相続人がいる場合の対応方法には、失踪宣告のほかに不在者財産管理人の選任があります。

失踪宣告が行方不明の人を法律上死亡したことにするのに対し、不在者財産管理人の選任は行方不明の人が生存していることを前提にした手続きです。不在者財産管理人は、行方不明の人が現れるか死亡が確認されるか、失踪宣告されるまでの間、その人に代わって財産を管理します。家庭裁判所の許可を得て遺産分割協議に加わることができます。

2.失踪宣告を家庭裁判所に申し立てる手順

失踪宣告を受けるためには、行方不明者の住所を管轄する家庭裁判所に申し立てをします。失踪宣告の申し立てには次のものが必要です。

  • 申立書(収入印紙800円分を貼付)
  • 行方不明者の戸籍謄本
  • 行方不明者の戸籍附票
  • 失踪したことを証明する資料(行方不明者の捜索願受理証明書や戻された行方不明者宛ての手紙など)
  • 戸籍謄本など行方不明者と申立人の関係を示す資料
  • 連絡用の郵便切手
  • 官報公告料(4,298円)

失踪宣告の申し立てをすると、まず申立人や行方不明者の親族などに対して家庭裁判所の調査官による調査が行われます。次に、行方不明者自身または行方不明者の生存を知っている人に対して、一定期間内に届け出るように官報や裁判所の掲示板で催告されます。その期間内に届出がなければ失踪が宣告されます。

申し立てをしてから失踪が宣告されるまでには半年以上かかります。

3.失踪宣告を取り消したい場合の手続き

失踪宣告された人が後日現れた場合や、失踪宣告で死亡したとされる日が実際とは異なることがわかった場合は、失踪宣告を取り消すことができます。

失踪宣告された本人または利害関係者が家庭裁判所に失踪宣告の取り消しを申し立てます。失踪宣告が取り消されれば、その人は法律上死亡していなかったことになります。相続権などの法的な権利は、失踪宣告される前の状態に戻されます。

4.失踪宣告について知っておきたい注意点

4-1.遺産分割後に失踪宣告された人が現れた場合

遺産分割後に失踪宣告された人が現れた場合、遺産分割が無効になって遺産を返さなければならないかどうかが問題になります。

行方不明だった人が現れて失踪が取り消されても、すでに行った遺産分割は取り消されません。ただし、受け取った遺産が残っていれば、その範囲内で遺産を返さなければなりません。

4-2.市区町村への届け出が必要

家庭裁判所の失踪宣告があっても、戸籍に記録されるわけではありません。申立人は失踪宣告から10日以内に、市区町村役場に失踪の届出をしなければなりません。届出には審判書謄本と確定証明書が必要になるため、家庭裁判所に交付を申し出ます。

4-3.相続税の期限に間に合わない場合がある

失踪宣告には半年以上の時間がかかるため、相続税の申告期限(被相続人の死後10か月以内)に間に合わない場合があります。そのようなときは、一度不在者財産管理人を選任して申告期限までに相続税を申告しておき、失踪が宣告された後で改めて申告します。

なお、一定の条件を満たす場合は申告期限を延長することができますが、延長期間は最大でも2か月しかありません(「相続税の申告期限はいつ? 期限に間に合わない時の対処法も解説」)。失踪宣告にかかる期間を考慮すると、不在者財産管理人を選任して相続税を申告する方が現実的です。

4-4.行方不明者自身の相続も発生する

失踪宣告は行方不明の人を法律上死亡したことにするため、行方不明者自身の相続も始まります。行方不明者が他の相続の相続人である場合は2回分の相続を同時に行うことになり、手続きが複雑になる可能性があります。

5.まとめ

以上、失踪宣告の手続きについてお伝えしました。失踪宣告は、相続人の中に行方不明になっている人がいるとき、相続手続きを先に進めるために必要になります。

失踪宣告の申し立ての手続き自体はそれほど複雑なものではありませんが、申し立てから失踪宣告までは半年以上の期間が必要で、その間に家庭裁判所とのやり取りがあります。さらに、行方不明者自身の相続も発生するため手続きが複雑になります。失踪宣告の手続きは、相続に詳しい弁護士や司法書士など法律の専門家に依頼することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識