借地権とは、建物を所有するために地主に賃料を支払って土地を借りて使用する権利です。土地を借りているため、財産として認識していない人もいますが、借地権も相続財産の対象になります。
借地権の相続では地主から金銭を要求されることがありますが、これは支払わなくてよいものです。借地権の相続手続きについて正しく理解していなければ、支払わなくてもよい金銭を支払うことになりかねません。
この記事では、借地権を相続した場合の相続手続きについて解説します。借地権をすでに相続した人や、今後借地権の相続が見込まれる人はぜひ参考にしてください。
目次
1.借地権を相続したらまずは地主に連絡する
借地権を相続したらまずは地主に連絡します。この連絡は、地主との良好な関係を維持するため、または賃料の支払いをスムーズにするために行います。地主の承諾や地主への承諾料の支払いが必要かどうかは、法定相続人への相続であるか、法定相続人以外への遺贈であるかによって異なります。
1-1.法定相続人への相続では地主の承諾は不要
法定相続人が借地権を相続したときは、地主の承諾を得たり、地主に承諾料や名義書換料を支払ったりする必要はありません。地代や契約期間といった契約内容は、そのまま相続人に承継されます(借地借家法36条)。
借地権を相続して借地上の建物も相続人が所有していれば、そこに居住する必要はありません。「住まないのであれば土地を返してほしい」と地主から要求される場合がありますが、応じる義務はありません。借地上の建物を第三者に貸し付ける場合も地主の承諾は不要です。
1-2.法定相続人以外への遺贈では地主の承諾が必要
法定相続人が相続した場合とは異なり、法定相続人以外への遺贈は譲渡の一種とみなされます。したがって、遺贈で借地権を受け取ったときは、地主の許可と契約の変更が必要になります。このとき、承諾料や名義書換料も必要になります。地主の承諾が得られない場合は、家庭裁判所で借地権譲渡の承諾に代わる許可を受けることができます。
2.地主との契約書がない場合の借地権の相続手続き
長年にわたって土地を借りている場合、地主との契約書が存在しない場合もあります。
借地権(定期借地権を除く)は契約書がなくても契約が成立しており、改めて契約書を作成する義務はありません。契約書がない場合も借地権の相続ができます。
今後の取引関係を考慮して、原契約ではなく更新契約という形で契約書を作成しておくのもよいでしょう。
3.借地権を相続した場合に名義変更料は必要なのか!?
借地権の相続では地主の承諾は不要ですが、借地権の譲渡では地主の承諾が必要です。地主が相続と譲渡を混同して、借地権を相続した人に名義書換料や承諾料を要求するケースがしばしばあります。
借地権の相続では、取引関係を明確にするために契約書を書き換えて少額の手数料を支払うことはあっても、名義変更料や承諾料という名目で金銭を支払う義務はありません(契約書書き換えの少額の手数料を名義変更料と呼ぶこともあるため、請求されたときは内容を確認しましょう)。
名義書換料や承諾料を要求されないように、借地権を相続したことを地主に連絡しないケースもみられます。しかし、取引関係を円滑にするためにもできるだけ早く地主に連絡するようにしましょう。
一方、賃借料は遺産分割が決まらない間でも支払わなければなりません。遺産分割が遅れていることを理由に賃借料を支払わなかったり、一部しか支払わなかったりといった行為は認められません。
4.借地権の名義変更手続きで相続登記は不要
借地権を相続したときは、借地権そのものを相続登記する必要はありません。借地上にある建物を登記することで第三者に借地権を主張できるため、借地権を登記しているケースはごくまれです。建物の相続登記をして建物の登記名義を借地権者と一致させることで、第三者に借地権を主張できるようになります。
5.借地権を売却したいときの手続き
遺産分割や相続税の納税のために借地上の建物を売却する場合は、借地権も同時に売却することになります。
借地権を売却するときは地主の承諾が必要で、承諾料を地主に支払う必要もあります。地主の承諾が得られない場合は、家庭裁判所で借地権譲渡の承諾に代わる許可を受けることができます(借地借家法19条)。
6.まとめ
ここまで、借地権の相続手続きについてお伝えしました。
法定相続人が借地権を相続した場合は、地主の承諾は必要なく承諾料を支払う必要もありません。相続したことを地主に連絡しておくだけでよいでしょう。一方、法定相続人以外の人が遺贈で借地権を受け継いだ場合は、譲渡と同じことになり、地主の承諾とともに承諾料の支払いも必要になります。また、相続した借地権を売却するときも、地主の承諾とともに承諾料の支払いが必要になります。
借地権の相続手続きで不安な点やわからない点があれば、相続や不動産の実務に強い弁護士や司法書士に相談することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識)