相続では、事業を手伝ったり療養看護に努めたりといった、被相続人に対する貢献を相続に反映させるかどうかで争われることがよくあります。

被相続人に対する貢献のうち財産を維持または増加させたものについては、「寄与分」として相続財産に上乗せすることが認められます。

この記事では、どのようなときにどれぐらいの金額が寄与分としてもらえるのか、その考え方をお伝えします。

税理士が教える相続税の知識
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目次

  1. 1.寄与分とは?
  2. 2.寄与分が認められる場合は民法で明確に定められている
    1. 2-1.寄与分が認められる5つの行為
    2. 2-2.「特別の寄与」が必要
  3. 3.【ケース別】寄与分が認められる場合と認められない場合
    1. 3-1.事業従事型
    2. 3-2.財産出資型
    3. 3-3.療養看護型
    4. 3-4.扶養型
    5. 3-5.財産管理型
  4. 4.寄与分がある場合の相続分の計算方法
  5. 5.まとめ

1.寄与分とは?

特定の相続人が被相続人の財産の維持または増加に特別な貢献をしたとき、その貢献の度合いを金額に換算したものを「寄与分」といいます。

寄与分がいくらになるかは、相続人どうしの話し合い(遺産分割協議)で定めます。被相続人のために支出した金額が明らかであればその金額が寄与分となります。事業を手伝った場合や療養看護に努めた場合などは、貢献の度合いと期間を考慮して金額を定めます。

特定の相続人の寄与分を認めることは、他の相続人にとっては自分の相続分が減ることになるため、遺産分割協議では合意に至らないこともあります。そのときは、家庭裁判所に調停を申し立てて解決を図ります。

2.寄与分が認められる場合は民法で明確に定められている

遺産は原則として法定相続分で分け合うことになっています。寄与分は法定相続分の例外という位置づけから、どのような場合に寄与分が認められるかは、民法第904条の2で規定されています。

民法第904条の2
共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。

2-1.寄与分が認められる5つの行為

民法第904条の2の「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法」は、次のように分類することができます。

  • 事業従事型:(例)被相続人が行う事業を手伝った
  • 財産出資型:(例)被相続人の借金の肩代わりをした
  • 療養看護型:(例)被相続人を介護した
  • 扶養型:(例)被相続人の生活の援助をした
  • 財産管理型:(例)被相続人が保有する資産の売却を手伝った

これらの行為は、無償もしくはそれに近い状態で行われていることが基本となります。事業を手伝ったといっても、給与を受け取っていたのであれば寄与分は認められません。

2-2.「特別の寄与」が必要

民法第904条の2ではさらに「被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした」ことが求められています。したがって、寄与分が認められる行為があっても、結果として被相続人の財産の維持または増加に寄与していない場合は寄与分が認められません。

「特別の寄与」とは、通常期待される程度を超える貢献をさします。事業を行っている夫に代わって妻が家事を担ったり、年老いた両親に仕送りしたりといった行為は通常期待される程度の貢献であり、寄与分は認められません。被相続人の介護に専念するために仕事を辞めた場合であれば、寄与分が認められる可能性が高くなります。

法的な婚姻関係にない妻(夫)や、いとこ、血縁関係のない人など法定相続人でない人は寄与分を主張することができません。たとえば長男の妻が被相続人の療養看護をすることは実際にはよくあることですが、長男の妻は法定相続人ではないため寄与分は主張できません。そのときは法定相続人である長男が寄与分を主張することができます。

3.【ケース別】寄与分が認められる場合と認められない場合

この章では、寄与分が認められる行為の分類(事業従事型、財産出資型、療養看護型、扶養型、財産管理型)ごとの代表的なケースについて、寄与分が認められるか認められないかをお伝えします。

なお、個別の事情によってはここで示したものとは異なる判断がされる場合もあります。個別のケースで寄与分が認められるかどうかを知りたい場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談してください。

3-1.事業従事型

被相続人の事業を無償で手伝っていた

【認められる】被相続人が家業として事業を行っていた場合は、事業を手伝っても家事の延長とみなされて給料が支払われないことがあります。このような場合は、被相続人の財産形成に貢献していれば寄与分が認められます。

被相続人の事業を手伝って給与を受け取っていた

【認められない】被相続人の事業を手伝っていても、給与を受け取っていたのであれば寄与分は認められません。事業を手伝ったことによる貢献の度合いはすでに給与として支払われているからです。ただし、事業の拡大に特別な貢献があったなど、給与に見合った以上の働きがあれば寄与分が認められる可能性があります。

3-2.財産出資型

被相続人の施設入所費用を負担した

【認められる】被相続人の財産の維持に貢献していることが明確であるため、寄与分が認められます。

被相続人の借金を肩代わりした

【認められる】施設の入所費用を負担した場合と同じく、被相続人の財産の維持に貢献していることが明確であるため、寄与分が認められます。

3-3.療養看護型

相続人が仕事を辞めて被相続人の介護に専念した

【認められる】被相続人の介護をした場合、被相続人との関係から通常期待される程度の貢献では寄与分は認められません。ただし、相続人が仕事を辞めて長期間にわたって被相続人の介護に専念したのであれば寄与分が認められます。寄与分の額は、仮に介護サービスを利用したときに負担が見込まれる金額となります。

近年は介護保険を利用することでさまざまな介護サービスが少ない自己負担で利用できるため、療養看護型の寄与分は認められにくくなっています。

入院している被相続人を毎日訪ねた

【認められない】入院している被相続人を毎日訪ねたとしても、その行為が財産の維持や増加につながるわけではありません。また、話し相手になったり身の回りの世話をしたりする程度では通常期待される以上の寄与とは言えません。したがって、寄与分は認められません。

3-4.扶養型

被相続人と同居して生活費を負担した

【認められない】被相続人と同居して生活費を負担していても、特別の療養看護が必要なかった場合は通常考えられる範囲での扶養とみなされ、寄与分の対象にはなりません。夫婦や親子、兄弟姉妹であれば相互に扶養する義務があるため、扶養型の貢献で寄与分を認めてもらうことは難しいのが実情です。

3-5.財産管理型

被相続人の資産売却をかわりに行った

【認められる】被相続人の資産売却にあたって、被相続人に代わって手続きや入居者との立ち退き交渉にあたるなどした場合は寄与分が認められます。同様に、被相続人の財産を相続人が無償で管理して、管理費用の支出を免れた場合にも寄与分が認められます。

これらの行為は、被相続人の財産の維持に貢献したと判断されます。寄与分の額は、相続人が関与しなければ得られなかったか負担したと見込まれる金額になります。

4.寄与分がある場合の相続分の計算方法

寄与分がある場合の相続分は、次のようにして計算します。

  1. 相続財産の総額から寄与分を差し引く
    相続財産の総額-寄与分=みなし相続財産
  2. 寄与分を差し引いた部分(みなし相続財産)をもとに遺産分割する
    みなし相続財産×法定相続分=各人の相続分
  3. 寄与した相続人の相続分に寄与分を足す
    各人の相続分+寄与分=寄与した相続人の相続分

【例】被相続人の遺産は6,000万円、相続人は長男、長女、次男の3人である場合

  • 法定相続分のとおりに遺産を分割すれば、長男、長女、次男がそれぞれ2,000万円ずつ相続します。
  • 長男は被相続人が営む事業を手伝っていたことから、寄与分を主張しました。
  • 長男、長女、次男の3人で協議した結果、寄与分を1,500万円とすることで合意しました。

このときの各相続人の相続分は次のように計算します。

  1. まず、被相続人の遺産6,000万円から寄与分1,500万円を差し引いて、みなし相続財産を計算します。みなし相続財産は6,000万円-1,500万円=4,500万円となります。
  2. みなし相続財産を法定相続分で分けると、長男、長女、次男はそれぞれ4,500万円÷3=1,500万円を相続します。
  3. 長男には寄与分があるため、各人の相続分1,500万円に寄与分1,500万円を加算します。
  4. 以上の結果、長男の相続分は3,000万円、長女と次男の相続分はそれぞれ1,500万円となります。
税理士が教える相続税の知識
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5.まとめ

寄与分をめぐっては相続人どうしで争いになることが多く、家庭裁判所の調停で解決が図られます。特に、療養看護や扶養など金銭以外の貢献では寄与分を客観的に測ることが難しく、寄与した相続人とそうでない相続人では温度差もあって話し合いがまとまらない傾向があります。

生前の被相続人に対する寄与分を主張したい場合は、相続問題に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識