相続ではさまざまな権利が発生します。遺産を受け取る権利だけでなく、遺産の受け取りを放棄する権利も認められています。しかし、これらの権利はいつまでも認められるわけではなく、時効が定められています。

相続権にかかわる時効でもっとも短いものは相続放棄の時効で、死後3か月以内となっています。亡くなった人に多額の借金がある場合は、期限内に相続放棄をしないと相続人が借金を返済しなければなりません。

相続権の時効について知識がなければ、必要な手続きができずにさまざまな不利益を被ります。背負わなくてよい借金を背負ったり、もらえるはずの遺産がもらえなかったりすることもあります。

この記事では、相続権にかかわる5つの時効についてお伝えします。相続に直面している人だけでなく、まだ相続に直面していない人も予備知識としてこの記事を参考にしてください。

税理士が教える相続税の知識
(画像=税理士が教える相続税の知識)

目次

  1. 1.遺産の受け取りを放棄するときの時効
  2. 2.遺留分減殺請求権の時効
  3. 3.遺産分割請求権の時効
  4. 4.相続税の時効
  5. 5.相続回復請求権の時効
  6. 6.まとめ

1.遺産の受け取りを放棄するときの時効

遺産の受け取りを放棄する相続放棄の時効(期限):3か月

民法では遺産の受け取りを放棄すること(相続放棄)が認められています。

相続では、被相続人(亡くなった人)の預貯金や不動産など資産だけでなく借金も相続の対象になります。被相続人に多額の借金がある場合は、相続放棄をすることで借金を引き継がなくてよくなります。そのかわり、預貯金や不動産なども受け取れなくなります。また、1人の相続人に遺産のすべてを相続させるために、他の相続人が相続放棄をすることがあります。

相続放棄をするには家庭裁判所への申し立てが必要で、被相続人の死亡を知ってから3か月以内が期限となっています。

ただし、借金があることを知らなかったなどやむを得ない事情がある場合は、3か月を過ぎても相続放棄が認められる可能性があります。期限後の相続放棄は手続きが難しくなるため、相続問題に詳しい弁護士や司法書士に依頼しましょう。

2.遺留分減殺請求権の時効

遺留分減殺請求権の時効:遺留分の侵害を知ってから1年(最長でも相続開始から10年)

生前に遺言を書いておくと、財産を誰にどれだけ相続させるかを自由に決めることができます。遺言で親族以外の第三者に全財産を譲ることもできます。しかし、それでは遺族の生活が立ち行かなくなるため、民法では被相続人の配偶者と子または親に対して、最低限相続できる遺産の割合を定めています。これを「遺留分」といいます。

遺留分減殺請求権とは、遺留分が侵害された場合(遺産を全くもらえなかったか、遺留分に満たない割合しかもらえなかった場合)に、遺産を受け取った人に支払を求めることができる権利です。

遺留分の減殺請求をするときは、相手方にそのことを伝えます。ただし、遺留分が侵害されたことを知ってから1年以内に請求しなければなりません。また、遺留分が侵害されたことを知らなかった場合でも、被相続人の死亡から10年が経過すれば遺留分減殺請求権は時効になります。

3.遺産分割請求権の時効

遺産分割請求権の時効:なし

相続人同士で話し合って遺産を誰がどれだけ相続するか決めることを「遺産分割」といいます。相続人がほかの相続人に対して遺産分割を働きかける権利を「遺産分割請求権」といいます。

遺産分割請求権に時効はありませんが、遺産分割は早めに行うことをおすすめします。

遺産分割をしなければ遺産は相続人全員の共有となり、処分をするときは相続人全員の同意が必要になります。長期間にわたって遺産分割をしなければ、世代が進むごとに相続人が増えて収拾がつかなくなるおそれがあります。

相続税には税額が軽減される特例がありますが、遺産分割をしなければ適用できないものがあります。相続税の申告と納税の期限は被相続人の死亡から10か月以内です。節税のためにも遺産分割は早めに行うようにしましょう。

4.相続税の時効

相続税の時効:相続税の申告期限から5年(悪質な場合は7年)

相続税の申告と納税の期限は、被相続人の死亡から10か月です。その申告期限から5年を経過すれば、相続税は時効となります。ただし、申告しなければならないとわかっていて申告しなかったり、財産を隠したりなど悪質な場合は7年に延長されます。

ここで「申告期限から7年間申告しなければ相続税を払わなくてもよいのか」と考えられるかもしれません。しかし、申告をしなければ相続税を払わずに済むということは、まずありません。

相続税の申告を怠ると、必ずといってよいほど税務署が調査を始めます。税務調査で相続税の無申告が発覚すると、本来の税額に加えて、無申告加算税(または重加算税)と延滞税を加えた金額を納めなければなりません。相続税は負担の大きな税金ですが、時効をあてにすることなく、期限までに正しく申告・納税しましょう。

5.相続回復請求権の時効

相続回復請求権の時効:権利の侵害を知ってから5年(最長でも相続開始から20年)

事例としては多くありませんが、相続欠格や相続廃除などにより相続人でなくなった人が遺産を相続することがあります。このとき、本来の相続人は遺産を返すように求めることができます。これを「相続回復請求権」といいます。

相続回復の請求は、本来の相続人が相続権を侵害されたことを知ってから5年以内にしなければなりません。相続権の侵害を知らなかった場合でも、被相続人の死亡から20年で相続回復請求権は時効になります。

6.まとめ

ここまで、相続権の時効についてお伝えしました。相続で発生する権利の多くは時効が定められていて、一定の期限内に手続きをしなければ、権利を行使することができなくなってしまいます。特に、相続放棄の時効は被相続人の死亡から3か月と短いので、早めの対応が必要です。

相続税については、徴税されなくなる時効がありますが、その期限までに必ずといっていいほど税務調査が行われます。本来の納期限より納税が遅れれば遅れるほど、延滞税の金額が増えていきます。相続税は本来の期限内に申告・納税するようにしましょう。

さまざまな相続権の時効についてわからない点や不安な点があれば、早めに弁護士や税理士など専門家に相談することをおすすめします。(提供:税理士が教える相続税の知識