【経営トップに聞く 第37回】金在龍(カカオジャパン社長)

数多くのマンガアプリがある中で、最も大きく成長しているのが〔株〕カカオジャパンが運営する「ピッコマ」だ。今年7月のiOSとGoogle Playを合計した販売金額は、前年同月比3.2倍となって35億円を超え、非ゲームアプリで日本一に。8月も引き続き非ゲームアプリ1位となった。その成長の理由を、同社代表取締役社長の金在龍(キム・ジェヨン)氏に聞いた。

「ムリ」と思えた目標を達成したことが社員を変えた

ピッコマ,金在龍
(画像=THE21オンライン)

――「ピッコマ」は、1日待てば、1話、無料でマンガが読める「待てば¥0」という仕組みです。これが成長の理由なのでしょうか?

【金】成長の要因にはビジネスモデルと人があって、皆さんの関心が高いのはビジネスモデルだと思いますが、当社にとってより重要なのは人です。すごい経営の秘訣を期待されている方には申し訳ないのですが(笑)。

「待てば¥0」は当社が作った新しいビジネスモデルですが、今は無料でマンガが読めるアプリは数多くあります。それでも「ピッコマ」が成長を続け、マンガアプリでずっとトップだった「LINEマンガ」を抜いて、非ゲームアプリで販売金額1位になれたのは、やはり人が成長要因になっているのだと考えるしかありません。

――人が成長要因とは、どういうことでしょうか?

【金】私の考え方は性善説で、会社で働いている人たちは皆、頑張って仕事をしていると信じています。けれども、達成感を味わって、仕事の楽しみを感じたことがある人は、実は少ないのではないでしょうか。

2015年5月に私が社長として合流したときのカカオジャパンの社員もそうでした。「カカオトーク」がLINEとの競争に負け、ヤフー〔株〕との合弁が解消されたあとの時期です。ヤフーから来ていた社員が引き上げたり、辞めた社員もいたりして、残った16人の社員たちの気持ちは沈んでいました。

「ピッコマ」をスタートしたのは2016年4月20日でしたが、初期には同時接続している人数が13人や15人という日もありました。私がiPhoneとAndroidのスマホで接続しているのに、社員数より少なかった(笑)。そんな状態から、社員が頑張ってくれたおかげで閲覧者数が少しずつ増えて、初めての「待てば¥0」の作品として5月20日に『テンプリズム』(曽田正人)を入れると、3000人になりました。

そこで私が社員に言ったのは、「7月までに閲覧者数1万人を目指したい」ということです。マネージャーたちはポカーンとしましたね。社員の顔には「ムリ」と書いてありました。3000人まで増やすのも大変だったのに、2カ月ほどでさらに3倍以上にしようと言ったわけですから。開発や企画をしなければならないことを考えると、早くても9~10月にならなければ達成できない状況でした。それでも、「日本の夏休みが9月まで延期されることはない」と言って、何としても7月中に間に合わせるように指示しました。

すると、皆が力を合わせた結果、7月27日に1万180人になったんです。その日に社員たちにカカオトークで送ったメッセージは、画面をキャプチャして今でも持っています。感謝を伝えたあと、最後に書いたのが「2万人を目指します」。悪魔ですよね(笑)。

でも、わずか10日で2万人を達成しました。すると、そこからは私は何も言っていないのに、「この調子なら10万人も行けるぞ」と冗談のように社内で皆が言うようになって、2016年の年末には15万8000人になっていました。

ムリだと思っていたことが、1万人を達成することで「できたじゃん」になり、2万人を達成することで「できるじゃん!」になった。その楽しさを知ったことで、社員が変わったのです。

2017年の販売金額は2016年の16倍になり、その後も毎年2~2.5倍の成長を続けています。