(本記事は、髙島一夫氏、髙島宏修氏、立石守氏、今吉貴子氏の著書『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』総合法令出版の中から一部を抜粋・編集しています)

個人富裕層を狙う大増税時代の到来

増税
(画像=PIXTA)

増税に関して言えば、もっとも私たちに身近なのは2019年10月に消費税が10%に上がったことでしょう。しかし、その他にもさまざまな増税が着々と進行していました。その一例が、「給与所得控除」の改正です。

給与所得控除は、給与収入に応じて差し引ける金額であり、いわば「みなし経費」のようなものです。給与所得控除が多ければ多いほど、所得税や住民税は少なくなります。

この給与所得控除の額について、特に高収入のゾーンについては引き下げが続いています。これは紛れもなく増税です。

そのことを分かりやすく示しているのが、給与所得控除の「上限額」の推移です。給与所得控除は給与収入に応じて増えるものですが、給与収入が一定額に達すると、控除額がそれ以上増えなくなってしまいます。

それでは、この給与所得控除の上限額の推移を見てみましょう。

・平成25年分〜平成27年分:給与収入1500万円超上限額245万円
・平成28年分:給与収入1200万円超上限額230万円
・平成29年分〜令和元年分:給与収入1000万円超上限額220万円
・令和2年分以降:給与収入850万円超上限額195万円

ここ7年の間に、給与所得控除の上限額は下がり、この上限額が適用される給与収入の条件も下がっていることがお分かりいただけるでしょうか。

給与所得控除の他にも、配偶者控除や配偶者特別控除の改正や、公的年金など控除の引き下げなど、個人のフローに対する増税が続いています。そのフローが多い高所得層には大きなインパクトがあります。コロナ禍で政府の財政が著しく悪化しており、アフターコロナ時代を考えるとさらなる所得税増税や富裕税創設なども現実味を帯びるのではないかと思います。

相続税の基礎控除額を大幅に引き下げ

富裕層をターゲットとする増税は、個人のフローに関する所得税・住民税だけではなく、個人のストックにも増税がされています。平成25年度の税制改正では、40年ぶりに相続税のルールが大きく変わりました。

それまで、相続税においては5000万円+(1000万円×法定相続人の数)を基礎控除として、課税価格(遺産総額から債務・葬儀費用を差し引いた金額)から差し引いて税額を算定していました。

課税価格が基礎控除額以内に収まれば相続税の申告・納税は必要ないのですが、この基礎控除額が引き下げられてしまったのです。

この改正により、2015年1月1日以後に相続が発生した場合の基礎控除額は、3000万円+(600万円×法定相続人の数)により計算するものとなりました。

例えば、法定相続人が妻と子2人という場合、基礎控除額は、3000万円+(600万円×3)で、4800万円です。税制改正の前であれば基礎控除額は、5000万円+(1000万円×3)で、8000万円だったわけですから、大きく違います。

また、相続税の最高税率についても改正前は50%でしたが、改正により55%となっています。

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(画像=『富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継』より)

近年の税制改正の動向を見ていると、「富裕層をターゲットとした増税」であるとともに、「ターゲットになる範囲が広がっている」ということも言えます。

以前であれば、給与所得控除が上限に達するのは給与収入1500万円超の人に限定されていたにもかかわらず、今は850万円が基準になっています。相続税も、遺産価格が5000万円程度であればまったく考える必要がなかったのですが、今は違います。

それまではタックスプランニングをそこまで考えていなかった人も、考えをあらためる必要があるかもしれません。

税務当局の伝家の宝刀

このように富裕層に対する増税が実施されれば、節税したいという意識はますます高まるでしょう。何も対策を講じずにいれば、資産が目減りしてしまうため、当然のことです。

しかも、日本においては税制改正の問題に加え、税務当局により、申告内容が否認される恐れがあります。これも日本に住むリスクです。

その一例が、相続税や贈与税を算定する際、不動産や株式などの評価に用いられる「財産評価基本通達」の運用です。

相続税法第22条において、相続、遺贈または贈与によって取得する財産の価額は、「その財産の取得の時における時価」によるものと定められています。

しかし、時価の具体的な計算方法などは法律で規定されていないため、国税庁は財産評価基本通達により土地や建物、株式などの評価方法を細かく示しています。

ところが、財産評価基本通達に沿って相続税の申告をしたにもかかわらず、国税局から否認され、数億円単位の追加納税を求められるケースが出ているのです。こうしたケースでは、国税局により独自に鑑定評価が行われ、その金額に基づき、相続税などの再計算が行われています。

実は、財産評価基本通達には、「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」との文言があります。税務当局はこのルールと、相続税法第22条の規定により、独自に「時価」を算出し、これに沿って相続税の処分を行っているということです。

なぜ富裕層が狙われるのか

富裕層をターゲットにしたと考えられる増税は、日本が最終手段を取らざるを得ない局面に入っていることをうかがわせます。

グローバル化が進む今、富裕層に高い税金を課せば、海外に流出することが容易に予想できます。実際、若い人でも数億の資産を持って海外移住をしている人が増えているようです。一定の条件はありますが、海外に住所を移してしまえば、彼らは日本に納税をせずともよくなります。

今や、高所得者だけでなく、低所得者も含めて増税をしなくてはならない状況です。消費税は10%に上がりましたが、OECD(経済協力開発機構)やIMFは、10%程度では足りないという見解を示しています。

しかし、高所得者と低所得者をまとめて一気に増税すると、低所得者からの反発が高まることは必至です。政府への不満の高まりにつながることは明らかですから、政府としてはこうした事態は避けたいことでしょう。また、生活保護受給者が増えるなどし、社会保障費が膨れ上がることも懸念されます。

現にコロナ禍で生活保護の申請数もかなり増加し、さらに個人事業主や中小企業にも大きな減収・減益、最悪のケースでは倒産に陥っており、社会保険料を納める側が減少することも懸念材料です。ここで多くの人に等しく負担を求めるような増税は好ましくありません。

そこで、人数で比べれば少ない富裕層をターゲットとした増税をまず実施し、大勢を占める低所得者の不満を逸そらせようと考えるかもしれません。当然ながら政府の意図は公にはされていません。

富裕層がおこなっている資産防衛と事業承継
髙島一夫(たかしま・かずお)
株式会社T&T FPコンサルティング代表取締役社長CFP。早稲田大学卒業後、大和証券に入社。ロンドン大学留学後、大和スイスSA にて、日本株・債券の投資アドバイザーとして8年間勤務。その後、外資系証券会社数社に機関投資家マーケティング部門の責任者として勤務。1990年からスイスの大手プライベートバンクであるピクテ(ジャパン)の取締役 として5年間勤務。1996年に独立して、主に個人富裕層を対象に資産運用のコンサルティング業務を開始。主な著書に『資金3000万円からできるスイス・プライベートバンク活用術』(同友館)、『世界の富豪に学ぶ資産防衛術』(G.B.)などがある。
髙島宏修(たかしま・ひろのぶ)
株式会社T&T FPコンサルティング取締役CFP。1985年生まれ。日本大学経済学部経済学科卒業後、豪ボンド大学大学院でビジネススクールBBT グローバルリーダーシップMBA(経営学修士)取得。経営コンサルティング、 資産運用会社で実務経験を積み、株式会社T&T FPコンサルティングのコンサルタントとして従事。2014年にCFPを取得し、取締役となる。現在、個人向けの資産運用相談業務を担うファイナンシャルアドバイザーとして活躍している。
立石守(たていし・まもる)
みらいウェルス株式会社代表取締役税理士。専門学校講師、税理士法人を経てみらいコンサルティンググループへ入社。事業承継・組織再編を中心に、法人ソリューション業務としてタックスプランニング・人事労務を含めたチームコンサルティング案件に多数関与。長年の経営支援の経験から、将来の資産形成・活用の重要性を痛感し、資産形成サービスを展開している。これまで以上に幅広いサポートを行うため、みらいウェルス株式会社を設立した。
今吉貴子(いまよし・たかこ)
みらいウェルス株式会社税理士。2002 年に税理士試験合格後、個人税理士事務所・大手テーマパーク運営会社にて会計・税務業務に従事し、その後、みらいコンサルティンググループに入社。中小企業から大企業まで幅広く法人税務に関与し、中堅企業を対象とした組織再編や、事業承継に纏わる資産税など多数の案件に関与している。

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