iDeCo(イデコ)は「個人型確定拠出年金」のことであり、自助努力による老後資金準備をサポートする制度だ。iDeCoで積み立てた資産は、転職や退職のときにそのまま持ち運べる。どのような手続きが必要になるのか、それぞれの状況別に確認しておこう。

1.会社員であるiDeCo(イデコ)加入者が別企業へ転職する場合

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(画像=tamayura39stock.adobe.com)

iDeCoは職業などで加入資格や拠出金額が変わってくる。iDeCoの加入資格は以下だ。

・自営業……第1号被保険者
・会社員、公務員…第2号被保険者
・専業主婦(夫)…第3号被保険者

会社員の場合、iDeCoでは第2号被保険者(第2号加入者)になり、別の企業へ転職する場合でも第2号加入者のままだ。転職先に企業型確定拠出年金制度があるか、iDeCoとの併用が認められているかによって、手続きが変わってくる。

(1)転職先に企業型確定拠出年金がある場合……iDeCo(イデコ)の資産を移換する

転職先に企業型確定拠出年金制度があれば、これまでiDeCoで積み立てた資産を移せる。移換した資産は、企業型確定拠出年金の資産とあわせて運用する。

iDeCoの資産を企業型確定拠出年金へ移換する場合、iDeCoの加入者資格はなくなる。転職後に「加入者資格喪失届」を運営管理機関(iDeCoの口座を開設している金融機関)に提出し、手続きを行おう。

加入者資格喪失届は、加入者資格を喪失した理由や、喪失年月日を証明する書類を添付して提出する。「個人型年金の加入資格喪失に係る証明書」または、本人確認書類と企業年金の加入者であることを確認できる書類のどちらかを用意しよう。資産の移換手続きの詳細については、転職先の担当部署に確認してほしい。

転職先に確定給付年金制度があり、確定拠出年金の個人別管理資産を受け入れ可能と定められている場合には、iDeCoで運用していた個人別管理資産を、その確定給付年金へ移換できるケースもある。

(2)転職先に企業型確定拠出年金がありiDeCo(イデコ)の加入が認められている場合…iDeCo(イデコ)を継続する

転職先に企業型確定拠出年金制度があり、iDeCoへの同時加入が認められている場合には、 そのままiDeCoの加入者として掛金の拠出を続けられる。これには登録事業所の変更手続きが必要だ。

「加入者登録事業所変更届」に、転職先の会社が記入した「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して運営管理機関に提出すれば完了だ。

(3)転職先に企業型確定拠出年金がない場合、企業型確定拠出年金に加入しない場合……iDeCo(イデコ)を継続する

転職先に企業型確定拠出年金があるが加入しない場合や、そもそも企業型確定拠出年金がない場合には、そのままiDeCoの加入者として掛金の拠出を続けることができる。

この場合も登録事業所の変更手続きが必要であり、「加入者登録事業所変更届」に「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して、運営管理機関に提出する。

2.会社員であるiDeCo(イデコ)加入者が退職する場合

iDeCoの第2号加入者であった会社員が退職して以下に該当する場合は、引き続きiDeCoの加入者でいられる。

・自営業者(第1号被保険者)になる場合
・再就職せず無職(第1号被保険者)になる場合
・結婚して専業主婦/主夫(第3号被保険者)になる場合

これには国民年金の被保険者種別の変更手続きが必要である。「加入者被保険者種別変更届」を運営管理機関に提出しよう。

3.会社員である企業型確定拠出年金加入者が転・退職で加入資格を喪失した場合

企業型確定拠出年金に加入していた会社員が、以下に該当する場合は企業型確定拠出年金の資産をiDeCoに移す必要がある。ただし要件を満たす場合には、資産を移換せず脱退一時金の請求もできる。

・企業型確定拠出年金のない会社などに転職した場合
・役員に就任して企業型確定拠出年金の対象から外れた場合
・独立して自営業者(国民年金第1号被保険者)になる場合
・結婚して配偶者の扶養配偶者(国民年金第3号被保険者)になる場合

これらの手続きは、企業型確定拠出年金の加入者資格を喪失した翌月から起算して6ヵ月以内に行う必要がある。

iDeCo(イデコ)に資産を移換する場合

iDeCoへの資産の移換手続きは、運営管理機関(iDeCo取扱金融機関)を選び、移換を希望する旨を連絡する。その後、「個人別管理資産移換依頼書」を提出する。

移換手続きと同時にiDeCoの加入手続きをすれば、加入者として掛金を拠出できる。「個人型年金加入申出書」に必要書類を添付し、運営管理機関に提出すればiDeCoを始められる。

ちなみにiDeCoに資産を移換するときには、国民年金基金連合会へ支払う手数料が2,829円かかる。

iDeCo(イデコ)に資産を移換せず脱退一時金を受け取る場合

企業型確定拠出年金の加入資格を喪失した場合は、iDeCoに資産を移換するのが原則だが、次の1~3のすべてに該当する場合は、iDeCoに資産を移換せず、脱退一時金を請求できる。

  1. 企業型確定拠出年金のまたは個人型確定拠出年金の加入者・運用指図者でない
  2. 脱退一時金の請求日における個人別管理資産額が1万5,000円以下である
  3. 企業型確定拠出年金加入者資格を喪失した日の属する月の翌月から起算して6ヵ月を経過していない

脱退一時金が支給されるかは特定運営管理機関の裁定によって決まる。そのため、上記の要件を満たして請求しても脱退一時金を受け取れないことがある。また勤続年数3年未満で企業型確定拠出年金の加入者資格を喪失すると、規約によって会社が拠出した掛金の全部または一部を返還しなければならないこともある。

さらに脱退一時金を受け取るときは、特定運営管理機関裁定手数料として資産から4,180円(税込)が差し引かれる。脱退一時金を受け取れたとしても、ごくわずかな金額になってしまう。

iDeCo(イデコ)への移換手続きをするときの注意点

いずれの手続きもせず6ヵ月が過ぎてしまうと、資産は国民年金基金連合会に自動移換される。この場合、以下のようにかなりのデメリットが生じてしまうので注意したい。

・現金のまま管理されるため、資産が運用されない(運用の指図ができない)
・資産は運用されない一方で、管理手数料はかかり続ける
・自動移換中は、老齢給付金を受け取るために必要な加入者期間に算入されないため、受給開始時期が遅くなるおそれがある
・60歳以降に老齢給付金を受け取るには、一旦資産を個人型確定拠出年金へ移換する必要がある

さらに以下のように、国民年金基金連合会(特定運営管理機関)への移換時や自動移換中、自動移換後、国民年金基金連合会(特定運営管理機関)から移換するときの手数料がかかる。ただし、資産が0円であれば負担はない。

・自動移換されるときの手数料……4,348円(税込)
特定運営管理機関へ支払う移換手数料3,300円、国民年金基金連合会へ支払う移換事務手数料1,048円

・自動移換中の管理手数料……52円/月(税込)
特定運営管理機関へ支払う管理手数料。自動移換された月の4ヵ月後から負担が発生し、3月末にその年度分をまとめ、4月に資産から差し引かれる

・iDeCo(個人型確定拠出年金)へ移換するときの手数料……3,929円(税込)
特定運営管理機関へ支払う移換手数料1,100円、国民年金基金連合会へ支払う移換事務手数料2,829円

・企業型確定拠出年金へ移換するときの手数料……1,100円(税込)
特定運営管理機関へ支払う移換手数料、移換先の運営管理機関で別途手数料がかかる場合もあり

・確定給付企業年金へ移換する際の手数料……1,100円(税込)
特定運営管理機関へ支払う移換手数料

新たにiDeCo(イデコ)の加入者になった場合は資産が自動的に移換される

企業型確定拠出年金の資格喪失後6ヵ月以内にiDeCoに加入した人や、6ヶ月以内に手続きをせず国民年金基金連合会へ自動移換後された後にiDeCoに加入した人は、自動的にiDeCo口座へ資産が移換される。

移換などの手続きがされないまま6ヵ月を経過した場合でも、ほかの企業型確定拠出年金口座があれば、国民年金基金連合会ではなく、その口座に移換されることがある。そのときは本人情報(基礎年金番号・性別・生年月日・カナ氏名)が一致することが条件だ。

このような仕組みがあるとはいえ、やはり自身で移換手続きを行うほうが確実だ。

4.会社員である厚生年金基金・確定給付企業年金加入者が転職・退職した場合

転職・退職で厚生年金基金・確定給付企業年金を脱退した人がiDeCoに加入した場合、脱退後1年以内に移換元である厚生年金基金・確定給付企業年金に移換を申し出たほうがよい。厚生年金基金・確定給付企業年金の脱退一時金相当額をiDeCoに移せるからだ。

利用する運営管理機関を自身で選び、「個人型加入申出書」に必要書類を添付して提出すれば iDeCoに加入できる。あわせて移換元から証明を受けた「厚生年金基金・確定給付企業年金移換申出書」を提出すればiDeCoに資産を移換してもらえる。

5.会社員以外のiDeCo(イデコ)加入者が会社に就職する場合

第1号加入者である自営業、無職、学生の人、または第3号加入者である専業主婦/主夫の人が厚生年金適用事務所である会社に就職した場合は2通りだ。その会社に企業型確定拠出年金制度があるか、iDeCoとの併用が認められているかによって異なる。

(1)就職先に企業型確定拠出年金がありiDeCo(イデコ)との併用が不可の場合……iDeCo(イデコ)の資産を移換する

就職先に企業型確定拠出年金制度がありiDeCoとの併用が不可の場合は、iDeCoに積み立てた資産を企業型確定拠出年金に移せる。

iDeCoの資産を企業型確定拠出年金へ移換する場合、iDeCoの加入者資格はなくなるため、転職後に「加入者資格喪失届」を運営管理機関に提出し、資格喪失の手続きを行う。

iDeCoの加入者資格喪失届には、加入者資格を喪失した理由や喪失年月日を証明する書類として、「個人型年金の加入資格喪失に係る証明書」を添付する。本人確認書類と企業年金の加入者であることを確認できる書類でも問題ない。資産の移換手続きの詳細については、転職先の担当部署に確認してみよう。

(2)就職先で企業型確定拠出年金がありiDeCo(イデコ)への同時加入が認められている場合……そのままiDeCo(イデコ)を継続する

就職先に企業型確定拠出年金制度があり、iDeCoへの同時加入が認められている場合には、 そのままiDeCoの加入者として掛金の拠出を続けられる。

この場合は国民年金の被保険者種別の変更手続きが必要だ。「加入者被保険者種別変更届」に、就職先の会社が記入する「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して、iDeCoの運営管理機関に提出する。

(3)就職先に企業型確定拠出年金がない場合、加入しない場合……iDeCo(イデコ)を継続する

就職先に企業型確定拠出年金がない場合や、企業型確定拠出年金はあるが加入しない場合には、そのままiDeCoの加入者として掛金の拠出を続けられる。

この場合にも国民年金の被保険者種別の変更手続きが必要だ。「加入者被保険者種別変更届」に、就職先の会社が記入する「事業所登録申請書兼第2号加入者に係る事業主の証明書」を添付して、運営管理機関に提出する。

6.状況が変化した場合は早めにiDeCo(イデコ)の手続きを

iDeCoは一度口座を開設すれば、脱退一時金を受け取って脱退する場合を除き、60歳以降給付を受け取り終わるまで同じ口座を持ち続ける制度だ。せっかく積み立てた資産が適切に管理・運用されないのではもったいない。

転職や退職など大きな変化があった場合は慌ただしくなるが、必要な手続きはなるべく早めに行おう。それが老後の資産形成へとつながっていくからだ。

執筆・竹国弘城(ファイナンシャルプランナー)
証券会社、保険代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®︎

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