将来の年金への不安から、老後の生活資金を資産運用によって準備したいと考える人は多いでしょう。しかし、いざ投資を始めようとしても商品を選ぶ基準は多岐にわたるため、最初の一歩を踏み出せない人もいるのではないでしょうか。今回は、長期投資に向いているとして注目を浴びている「ESG投資」についてメリット・デメリットを解説し、ESG投資ができる投資信託をご紹介します。

ESG投資とは?

ESG投資
(画像=PIXTA)

ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(企業統治)の頭文字で、企業が行うさまざまな社会的取り組みのことです(表1)。これまでは、企業の業績や財務状況から投資先を選ぶ方法が一般的でしたが、ESG投資ではESGに積極的に取り組む企業を対象に投資を行います。

表1.ESGの取り組み例

具体的な取り組みの例
Environment
(環境) 
・二酸化炭素の排出量の削減
・再生可能エネルギーの利用
・省エネルギー化の推進
Social
(社会)
・地域社会への貢献
・外国人社員の雇用
・女性活躍の推進
Governance
(企業統治)
・積極的な情報開示
・働きやすい職場環境の整備
・取締役会の多様化

ESG投資が注目されている理由

ESG投資が注目されるようになった背景には、国連が2006年に「PRI(責任投資原則)」という自主的な投資原則を提唱したことがあります(表2)。

表2.PRI(責任投資原則)の6つの原則

1 私たちは投資分析と意思決定の
プロセスにESG課題を組み込みます。
2 私たちは活動的な所有者となり、
所有方針と所有習慣にESG問題を組み入れます。
3 私たちは、投資対象の企業に対して
ESG課題についての適切な開示を求めます。
4 私たちは、資産運用業界において本原則が受け入れられ、
実行に移されるよう働きかけを行います。
5 私たちは、本原則を実行する際の
効果を高めるために、協働します。
6 私たちは、本原則の実行に関する
活動状況や進捗状況に関して報告します。

PRIには2,400以上の年金基金や運用会社などが署名しています。日本の公的年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資を採用していることから、今後ますます重要になってくると考えられます。

ESG投資ができるファンド3選

ここからは、ESGに配慮した投資信託を具体的にみていきましょう。ESG関連の投資信託自体まだ数は多くないですが、その中でも、気候変動関連や医療分野など特定の分野だけではなく、幅広いESGを対象とし、分配頻度が高くない、長期的な資産形成に適したファンドをご紹介します。

ニッセイ日本株ESGフォーカスファンド(資産成長型)(ESGジャパン)

まずは、国内株式を対象にした「ニッセイ日本株ESGフォーカスファンド」です。なお、ここで紹介する商品の手数料はすべて税込です。

目的・特徴 ・中長期的に「TOPIX」を上回る成果を目標とする
・持続的な企業価値の向上が期待される銘柄
投資先の国・地域 日本
投資対象 株式
購入時手数料 販売会社による(購入価額の3.3%が上限)
信託財産留保額 なし
信託報酬 年率1.573%

この投資信託は日本の株式を投資対象とし、中長期的に「TOPIX(東証株価指数)(配当込み)」を上回る投資成果を目指して運用されています。徹底した調査・分析に基づいて、国内企業の中でもESGに対する取り組みに優れ、持続的な企業価値の向上が期待される銘柄が厳選されているため、安心して投資できるでしょう。

「資産成長型」と呼ばれる、運用で得た利益を分配せず再投資に回す運用方式であることも特徴です。同シリーズには年2回決算型の投資信託もありますが、「資産成長型」のほうが複利効果を期待できるため、長期運用に向いています。

Smart-i 先進国株式ESGインデックス

目的・特徴 ・日本を除く先進国へ投資
・為替ヘッジは行わない
・購入時手数料がないノーロード型
投資先の国・地域 先進国(日本を除く)
投資対象 株式
購入時手数料 なし
信託財産留保額 なし
信託報酬 年率0.286%

「Smart-i 先進国株式ESGインデックス」は、日本を除く先進国に投資する投資信託です。アメリカへの投資比率が64.9%であるため、「海外に投資したいが、その中でも日本と関わりが深いアメリカを中心に投資したい」人に向いているでしょう。

グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)<愛称:未来の世界(ESG)>

目的・特徴 ・信託財産の成長を図ることを目的に積極的な運用を行う
・日本と新興国を含む世界の株式に投資
投資先の国・地域 グローバル(日本を含む)
投資対象 株式
購入時手数料 販売会社による(購入価額の3.3%が上限)
信託財産留保額 0.3%
信託報酬 年率1.848%

「グローバルESGハイクオリティ成長株式ファンド(為替ヘッジなし)」は、日本を含む世界中の企業を対象に投資を行う投資信託です。投資を行うにあたっては、資金をさまざまな業種や地域に分散するのが理想ですが、この投資信託1本で世界中に分散して投資できます。

ESG投資のメリット

長期投資に向いている

革新的な技術を持つ会社やカリスマ社長が経営する会社への投資は、うまくいけば大きなリターンを得られますが、その分リスクも大きくなるため、長期的な投資に向いているとはいえません。

ESG投資は短期的なリターンを目指すのではなく、継続的かつ持続的に社会に貢献する会社に投資することで、長期的なスパンでリターンを狙う投資方法です。

会社を長期間経営するためには、自社の商品やサービスの開発だけでなく、経済や環境の変化、法律や規制などの変更、働く人の価値観、消費者の購買行動の移り変わりなどにも対応する必要があります。これらはまさにESGの範疇であり、ESGに取り組む企業はこのような変化に対する耐性が高いといえるでしょう。

リスクが比較的低い

財務諸表上は業績がよくても、利益ばかりを重視して品質や安全管理を犠牲にしていたり、社員を無理に働かせていたりする会社は、いずれ業績が悪化し優秀な社員も減っていくでしょう。特に昨今はSNSなどで情報が拡散しやすく、労働環境や不祥事に対する世間の目も厳しくなっています。

ESG投資で選ばれる投資先はESGに積極的に取り組んでいる会社であるため、このようなリスクは低いと考えられます。これからは、むしろESGに配慮していない会社のほうがリスクは高いといえるかもしれません。

社会貢献をしているという満足感を得られる

表1で具体的な活動を見ていただいたとおり、ESG投資の対象に選ばれる会社は環境問題や人権問題、地域社会への貢献など、さまざまな社会問題に取り組んでいます。つまり、それらの企業に対して投資を行うと、間接的にその会社のESGへの取り組みを支援することになるのです。

ESG投資も投資ですから利益を得るチャンスがありますが、それだけでなく自分のお金が社会をよくするために使われているという実感も得られます。

ESG投資のデメリット

短期売買には向かない

ESG投資の投資先は商品・サービスや新技術よりも、ESG課題に取り組んでいるかどうかを重視します。もちろん、ESGに取り組みつつ大きな利益を上げる会社もあると思いますが、基本的には短期的なリターンを求める投資ではないことを認識しておかなければなりません。

本当によい投資信託かどうかの判断が難しい

ESG投資を個人で行う場合は調べることが多くなるため、本当によい投資信託かどうかを判断することが難しくなります。

財務諸表であれば指標の見方がありますし、商品やサービス、技術力やブランド力などを確認するのは、手間はかかりますが難しくはありません。しかしESGで取り組むのは環境問題や人権問題なので、たとえホームページに「環境問題に取り組んでいます」と書いてあっても、それが本当かどうか確かめるのは至難の業です。どの程度ESGの課題に取り組んでいるかは、多くの資料に目を通さなければわからないでしょう。

長期的な運用を目指すならESGという視点も取り入れよう

今回は、最近注目を浴びているESG投資をについて解説しました。これまで、会社は業績や財務諸表、新しいテクノロジーなどによって評価されるのが一般的でしたが、最近は長期的に成長する会社の目安としてESGに対する姿勢が重視されるようになっています。特に老後資金の準備といった長期的なリターンを目指す必要がある場合は、ESG投資という新しい視点を取り入れてみてはいかがでしょうか。

文・松岡紀史(ファイナンシャル・プランナー、ライツワードFP事務所)
筑波大学経営・政策科学研究科でファイナンスを学ぶ。20代の時1年間滞在したオーストラリアで、収入は少ないながら楽しく暮らす現地の人の生活に感銘を受け、日本にも同様の生活スタイルを広めたいという想いから、帰国後AFPを取得しライツワードFP事務所を設立。家計改善と生活の質の両立を目指し、無理のない節約やお金のかからない趣味の提案などを行っている。

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