不動産投資
(画像=PIXTA)

不動産投資信託(Jリート)市場は株式市場と比べて回復の遅れが目立っています。新型コロナワクチンの開発期待などを背景に、東証株価指数(TOPIX)が既に昨年末の水準を超えているのに対して、東証REIT指数(配当除き)は昨年末比▲21%下落し、上値の重い展開が続いています(図表1)。その要因の1つに、運用資産の4割を占めるオフィスセクターへの先行き警戒感が挙げられます。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

三鬼商事によると、10月時点の東京都心5区オフィス空室率は3.93%と8カ月連続で上昇し、平均募集賃料は3カ月連続で下落しました。前年比でみると、空室率は上昇スピードが加速し、賃料はプラスを維持するものの上昇率は+1.9%に縮小しています(図表2)。

ニッセイ基礎研究所では、「東京都心部Aクラスビルの空室率は現在の0.6%から2024年に4%台へ上昇し、賃料についても緩やかに下落する」と予測しますが1、景気低迷やテレワーク拡大に伴う今後のオフィス需要への影響は今なお見通し難い状況にあります。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

こうしたオフィス市況の不透明感を背景に、Jリート市場ではオフィスセクターの市場評価が低迷しています。バリュエーション指標の1つであるNAV倍率(株式のPBRに相当)を確認すると、オフィスセクターは0.87倍と目安となる1倍を下回り、Jリート市場平均(0.94倍)と比べた相対NAVプレミアムは▲6%と過去最低水準で取引されています(図表3)。

前回のリーマンショック後の調整局面では、オフィスセクターのNAV倍率は一時0.52倍にまで低下しましたが、相対NAVプレミアムはプラス圏で推移しました。つまり、オフィスセクターは、不動産市況の悪化時期において、市場規模や流動性などの観点から資金の逃避先に選ばれるセクターでしたが、今回は、オフィスセクターに代わって物流や住宅セクターがその役割を担っていると言えます。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

もっとも、Jリート市場においてオフィスセクターに対する悲観的な見方が強まるなか、Jリートが保有するオフィスビルのファンダメンタルズ(収益や評価額)は堅調を維持しています。2020年上期の賃貸事業収益(NOI、Net Operating Income)は前期比+1.7%増加し、10期連続でプラス成長を達成しました。また、保有不動産の鑑定評価額(4~8月期決算)についても前期比+0.5%上昇し、コロナ禍の影響は現在のところ限定的です(図表4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

もちろん、オフィス市況がさらに悪化すればJリート保有ビルもその影響は避けられないでしょう。しかし、足もとの運用実績に照らしてJリート市場の懸念はやや行き過ぎの感もあります。

いずれにしても、Jリート市場全体の本格回復には最大セクターであるオフィスセクターの上昇が欠かせません。今後は、オフィス市況の見極めが重要なカギとなりそうです。

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(1)吉田資『東京都心部Aクラスビル市場の現況と見通し』(ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2020年5月27日)


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岩佐浩人(いわさ ひろと)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 不動産調査室長

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