2020年11月3日に投票日を迎えた米大統領選挙は民主党のバイデン候補が優勢な状況だ(11月9日時点)。米大統領選という最大級のリスクイベントを事実上通過、不透明感が和らいだとみた投資家が積極的に株式の買いに動き、日経平均は11月6日に約29年ぶりの高値をつけた。
一方、同時に行われた議会選挙では下院は民主党が、上院は共和党がそれぞれ過半数を維持し、“ねじれ”になるとみられている(同)。そこで、バイデン氏とトランプ氏の政策について実行可能性を踏まえて比較してみる。
図表1は「責任ある連邦予算委員会」という米国超党派の調査機関が試算したもので、支出規模が低位に収まれば財政への追加的な影響は軽微だ。しかし、支出規模が中位から高位の場合、バイデン氏・トランプ氏どちらも5兆ドル~8兆ドルの財政悪化を見込んでおり、いずれも財政拡張的、大きな政府という方向性は共通といえる。
ただ、公約の内訳は両者で異なっている。図表2のとおり支出規模が中位のケースでは、トランプ氏はおしなべて支出を拡大させるのみであるのに対し、バイデン氏はトランプ氏以上の支出拡大と増税がセットだ。
具体的にはトランプ氏はインフラ・環境等への支出と減税の拡大がメインだが、バイデン氏は育児・教育やヘルスケア・介護、インフラ・環境など幅広い領域で大盤振る舞いしつつ、「税制」がマイナスなのは4兆ドルを超える増税を意味している。
バイデン氏が大統領に就任した場合、これらの政策を実行するタイミングが重要になってくる。インフラ等の支出が先なら景気にプラスだが、増税が先なら景気にマイナスとなる。しかし、議会のねじれ状態が続きそうなので、しばらく増税はないとマーケットは安心したようだ。
というのも、上院の過半数を維持しそうな共和党は増税に反対の立場であり、さらに今の経済状況を考えれば増税などとてもできないだろう。「いずれ増税するかもしれないが、向こう数年は景気刺激策が優先される」と評価しているようだ。市場の見立てはおそらく正しい。
ただ、逆に言うとバイデン氏の大盤振る舞いを上院が認めない可能性もある。そう考えると、大統領選前後に大きく上昇した株式市場は“いいとこ取り”しているように見える。期待したほどの財政支出も無ければ、増税もない。特徴が乏しい政権になるかもしれないからだ。
さらにバイデン氏は中国との対話姿勢を示している。対中政策で日本などに同調を求める可能性は高いが、トランプ氏ほどマーケットに刺激的な材料は提供しないかもしれない。その結果、“つまらない相場”になるのではないか。
ただ、あくまで短期を好む投資家にとって面白みに欠けるという意味であって、年金や個人の積立投資のような長期志向の投資家には、安定的でむしろ好ましい相場となるかもしれない。
井出真吾(いで しんご)
ニッセイ基礎研究所 金融研究部 上席研究員 チーフ株式ストラテジスト
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