成功・成長している企業はどのような仕事をしているのか。本稿では、2020年3月に上場を果たし、音楽の著作権等管理事業などで業界に一石を投じる株式会社NexToneの代表取締役・阿南雅浩氏にお話を聞いた。(取材・構成:杉山直隆)

※本稿は『THE21』2020年10月号から一部抜粋・編集したものです

規制緩和でJASRACの独占市場に参入

NexTone,阿南雅浩
(画像=THE21オンライン)

当社は様々なアーティストの音楽コンテンツの著作権を管理している会社です。と言うと、「それはJASRAC(日本音楽著作権協会)がしているのでは?」と思うかもしれませんが、実は、当社も同じ業務を行なっています。

2001年に著作権等管理事業法が施行されたことで、民間企業も著作権管理事業ができるようになったのです。ただ、一時は数多くの事業者が参入したものの、この事業は収入となる手数料が低いうえ、コンテンツの管理にコストがかかることから、参入した企業の大半が撤退しました。

生き残ったのはイーライセンスとジャパン・ライツ・クリアランスの2社だけで、両社が2016年に合併して誕生したのが当社です。

管理している音楽作品数は約17万曲(20年4月現在)。JASRACは約440万曲ですから、その4%程度にすぎませんが、順調に増えています。それに伴い、合併以降の売上高は毎年、前年比130~140%増で推移しています。

民間ならではの「攻めのサービス」も

当社に大切なコンテンツの管理を任せていただけている理由の一つは、合併前の両社がそれぞれ特定の分野に強みを持っていたことです。イーライセンスは、アニメやゲーム、ボカロなどのジャンルのクリエイターに支持されていました。

一方、ジャパン・ライツ・クリアランスは、ユイミュージックや烏龍舎、ロードアンドスカイなど、ロック系の音楽事務所が共同で設立した経緯から、ロック系からの支持がありました。両社がスムーズに合併できたのは、競合する分野がなかったこともあります。

加えて、三つの「攻めのサービス」を手がけていることも、当社を選んでいただけている理由です。

一つ目は、「DD(デジタルコンテンツディストリビューション)業務」。音楽・映像コンテンツの原盤を管理して、スポティファイやアマゾンなどの国内外の音楽配信プラットフォームや、YouTubeなどの動画配信プラットフォームに供給しています。

こうしたプラットフォームと1社ずつ契約をするのは、著作権者にとっても、プラットフォームにとっても、非常に煩雑です。当社を通せば、プラットフォーム側は複数の著作権者とまとめて契約できますし、著作権者も複数のプラットフォームと契約できるので、双方にメリットがあります。

二つ目は、「キャスティング事業」。アーティストの作品を様々なシーンで使っていただくようにコーディネートする事業です。その具体例が、THE YELLOW MONKEYが16年に再結成したときのプロモーション。

映画館と組んでコンサートの同時生中継(ライブビューイング)をしたり、auと組んで楽曲のダウンロードプレゼントを行なったりしました。また、DDも組み合わせて行ない、多数の音楽配信サービスに楽曲を提供しました。

DD業務とキャスティング事業は、もともとイーライセンスが積極的に手がけていました。そのノウハウを、ジャパン・ライツ・クリアランスが管理していたアーティストの作品にも持ち込むことで、実績を挙げています。

三つ目は「著作権管理システムの提供」。著作権管理は非常に手間がかかり、人海戦術ではとても処理できません。当社だけでなく、著作権者側もそれは同じで、小さな音楽事務所だと管理できないのです。そこで、システム子会社が作った管理システムを提供しています。

JASRACは、一般社団法人という立場上、これらの事業を行なえません。そこを補うのが我々の存在意義。「著作権周りでこんなものがあったらいいのにな」という付加価値のあるサービスを行なっています。