リスクを回避しながらリターンを狙いたい日本の投資家にとって、米国債は頼りになる存在だ。日本の超低金利環境に比べて、高い利回りが期待できる。金利は低下傾向にあるが、依然有望な投資先である米国債を、利益が非課税になるNISAで運用できるのだろうか。

1.米国債とは?特徴やメリットを解説

nisa,米国債
(画像=BillionPhotos.com/stock.adobe.com)

米国債は信頼性が高く、日本国債よりも高い利回りが期待できる。

米国債とは

米国債とは、アメリカ政府が発行している公債のことだ。国債は日本をはじめ各国が発行しているが、米国債はとりわけ信頼性が高く安定感がある。戦争や災害などの有事では安全資産である米国債に資金が流入する傾向があり、コロナショックでも同様の動きがあった。

債券はあらかじめ決められた期限まで保有することで定期的に利子が支払われ、満期日には額面金額が償還される金融商品だ。債券の利回りや価格は、債券を保有している期間の市中金利や、発行体の信用リスクによって変動する。米国債では、元本と利子の支払いをアメリカ政府が保証している。

米国債は安全性が高く日本国債よりも金利が高い

米国債に投資するメリットは日本国債よりも金利が高く、安全性への評価が高い点にある。国債の利回りは、以下のように国によって大きな差がある(2020年12月9日時点)。

日本10年国債…0.014%
アメリカ10年国債…0.936%
オーストラリア10年国債 …1.029%
ブラジル10年国債…7.361%
南アフリカ10年国債…8.875%
中国10年国債…3.304%

超低金利政策が続く日本では、債券による利子はほとんど期待できない。一方で米国債は、3%の金利を付けていた頃に比べるとかなり低くはなっているが、日本国債の67倍もの利回りが期待できる。

ブラジルや南アフリカなど、アメリカよりも利回りの高い国は他にもある。しかしこれらには、流動性が低く価格が安定しない、政治・経済情勢が不安定なため信用リスクが高いといった不安がある。

米国債に対する信頼性は高い。主要格付会社であるフィッチ・レーティングスの格付けでは、米国債は最高位の「AAA」、日本国債は「A」となっている。

米国債には常に多くの売り手と買い手がいるため、流動性の高さも評価されている。つまり米国債は、日本国債よりも利回り・格付け・流動性のすべてにおいて勝っているということだ。

2.米国債はNISAで購入できるのか

投資商品としての米国債に興味を持った人も多いだろう。米国債は、個人でも証券会社を通じて購入することができる。しかし、せっかくなら非課税で運用したいところだ。投資で得た利益が非課税になるNISAで、米国債を運用することはできるのだろうか?

NISAの対象商品に債券は含まれない

一般NISAの対象商品は、株式投資信託、国内・海外上場株式、国内・海外ETF、ETN(上場投資証券)、国内・海外REIT、新株予約権付社債(ワラント債)だ。一方つみたてNISAの対象商品は、金融庁が定めた条件を満たす投資信託とETFである。一般NISAもつみたてNISAも、国債を含めた債券は対象商品に入っていない。つまり、NISAで米国債を直接運用することは制度上不可能なのだ。

個人が米国債を証券会社で直接購入する方法

米国債を購入するには、証券会社や銀行などから直接購入するしか方法がない。

国債には新しく発行された「新発債」と、すでに発行されている「既発債」がある。新発債はごく稀にしか募集されない。既発債の募集数は、証券会社によって偏りがあるようだ。

従来型の大手証券会社である野村證券では、新発米国債の募集はゼロ、利付きの米国債が4本、ゼロクーポン債(割引債)が9本。ネット証券大手SBI証券では、利付債が9本、ゼロクーポン債が16本で、こちらも新発米国債の募集はない(いずれも2020年12月10日時点)。

利付債とは一定期間ごとに利息が支払われる債券、ゼロクーポン債とは利息が支払われない代わりに、購入時の額面が低めに設定されている債券のことだ。

米国債を取引するためには「外国証券取引口座」を開設する必要があるが、証券口座に手持ちの米ドルがない場合、円貨を米ドルに交換する際に為替手数料がかかる。円でいくら用意すればいいのか、現在の為替相場ではどのくらいの手数料が妥当なのか、外貨建て商品の投資に慣れていない人にはわかりにくいかもしれない。

NISAでは米国債が含まれている投資信託・ETFを購入する

証券会社などで米国債に直接投資するのはハードルが高く、NISAの対象商品にも入っていないとなれば、どうすればよいのだろうか。米国債を投資対象にする投資信託やETFを購入するという手がある。NISAの対象になっている投資信託であれば非課税で運用でき、外貨を用意する必要もなく、募集時期を待つことなく好きなタイミングで取引できる。

3.米国債を組み入れている投資信託一覧

米国債を主な投資対象とする投資信託は、以下のとおりだ。なお、設定から1年に満たないもの、投資対象に米国債以外の商品が含まれるもの、極端に純資産総額が低いものは除外している。(※トータルリターンや信託報酬率は2020年12月10日時点)

ファンド名 会社名 リターン
(3年)
信託報酬等
(税込)
上場インデックスファンド米国債券(H有) 
『愛称:上場米債(為替ヘッジあり)』
日興アセット
マネジメント
3.69% 0.18%
上場インデックスファンド米国債券(H無)
 『愛称:上場米債(為替ヘッジなし)』
日興アセット
マネジメント
3.45% 0.18%
iシェアーズ・コア 米国債7-10年ETF(H有) ブラックロック 3.86% 0.15%
iシェアーズ・コア 米国債7-10年 ETF ブラックロック 3.62% 0.15%
三菱UFJ米国債券オープン(毎月分配型) 三菱UFJ
国際投信
1.84% 1.10%
米国国債ファンド 為替ヘッジなし
(毎月決算型)
大和アセット
マネジメント
2.49% 1.14%
米国国債ファンド 為替ヘッジあり
(年1回決算型)
大和アセット
マネジメント
2.81% 1.14%
米国国債ファンド 為替ヘッジあり
(毎月決算型)
大和アセット
マネジメント
2.80% 1.14%
米国国債ファンド 為替ヘッジなし
(年1回決算型)
大和アセット
マネジメント
2.51% 1.14%
米国国債ファンド フレックスヘッジ
(年1回決算型)
大和アセット
マネジメント
1.52% 1.23%
※筆者作成

米国債のみを対象とする投資信託やETFは、それほど多くないようだ。上記の投資信託のうちNISAでいくつ取り扱っているかは、金融機関によって異なる。

米国債を投資対象にする投資信託の為替ヘッジの有無による違い

米国債に投資する投資信託は、為替ヘッジありと為替ヘッジなしに大別できる。為替ヘッジとは、為替レートの変動による外貨資産の価値の変化を回避する措置のことだ。為替ヘッジは先物取引や信用取引によって行われるため、相応のコストがかかる。運用上のコストは、運用成績を下げる要因になる。

今後円高になると予想する場合は「為替ヘッジあり」が望ましいが、リターンを重視する場合は「為替ヘッジなし」の銘柄を選ぶとよいだろう。

償還までの残存期間による違い

投資信託に組み入れられている米国債の残存期間も、ファンドによって異なる。残存期間が「7年以上10年未満」「20年超」のように期間を限定したものもあれば、0年から15年までを均等に組み入れることを目指すものもある。償還までの期間が長くなるほど、金利変動に伴う債券価格のブレが大きい。償還までの残存期間は、交付目論見書に記載されているので確認してほしい。

投資信託とETFの違い

上記の表のうち、商品名に「ETF」「上場インデックスファンド」とあるものはETF(上場投資信託)で、それ以外は投資信託に該当する。

ETFは株式のよう価格がリアルタイムで変わるため、値付けが1日1回である投資信託よりも取引金額がわかりやすい。とはいえ、購入してから数日以内に売却するような超短期売買でない限り、投資信託でも特に不便はないだろう。

ETFの取引コストは、投資信託よりも低めに設定されている。しかし、昨今はインデックス型を中心に投資信託の売買手数料無料化や信託報酬の値下げが行われているので、個人が保有するにあたっては、それほど大きな違いを感じることはないだろう。

4.NISAで米国債に投資する際のポイントや注意点

NISAで米国債を運用する場合、商品の選択肢が少ないことと、直接投資ができないことはすべに述べたが、証券会社によっては取り扱っていないところもある。それでもNISAで米国債を運用したい場合は、以下のことに注意してほしい。

株式や株式投資信託を同時に保有してリスクを分散する

特に投資初心者は、リスクヘッジのために分散投資を行うのが基本だ。仮にNISAで米国債に投資する投資信託だけを保有し、米国債が大きく値下がりした場合は元本割れとなり、NISAの非課税メリットを享受できなくなる。

リスクを分散するためには、上場株式や株式中心の投資信託も同時に保有するとよい。基本的に債券と株式は逆の動きをするため、保有資産がすべて値下がりする事態を避けられる。

米国債の高い利回りがそのままリターンとして得られるわけではない

NISAでの米国債投資で注意したいのは、米国債の高い利回りをそのまま手にできるわけではない点だ。

NISAでは米国債に直接投資できないので、投資信託を通じて間接的に米国債に投資する。したがって、得られる利益はその投資信託の運用成績による。確認すべきは、ファンドのリターンと手数料(特に信託報酬)だ。交付目論見書や運用報告書のほか、モーニングスターなどの投資信託格付け機関の情報は常にチェックしておきたい。

一般NISAではなくつみたてNISA(積立NISA)を利用する

つみたてNISAではなく一般NISAで米国債を運用する場合は、非課税期間が購入から5年間であることにも注意したい。非課税期間を過ぎると、値上がり益や分配金に対して20.315%が課税される。債券は株式に比べて比較的値動きが緩やかなので、5年では十分な利益を得られないかもしれない。

NISAで米国債に投資する投資信託を運用する場合は、一般NISAではなくつみたてNISAを利用するほうがよいだろう。

5.NISAでの米国債投資は投資信託を活用する

NISAでは米国債に直接投資できないが、米国債を投資対象にする投資信託を購入することはできる。購入の際は、目論見書や運用報告書を確認した上で、株式など他の資産を同時に保有することでリスク分散を図りたい。

執筆・篠田わかな(ファイナンシャルプランナー)
外資系経営コンサルティング会社にて製造・物流・小売部門のコンサルタントとして業務/システム改革プロジェクトに参画。退職後独学でFP技能士の資格を取得。開業して個人事業主となり、マネー・ビジネス分野の執筆、企業からの請負業務を手がける。

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