重要性が増す「自助」、高齢期への備えには何をすべきか?
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重要性が増す「自助」、高齢期への備えは十分か

(金融広報中央委員会「家計の金融行動に関する世論調査」)

大和総研 政策調査部 / 石橋 未来
週刊金融財政事情 2021年3月1日号

 菅義偉首相は、目指す社会像として「自助・共助・公助、そして絆」を掲げている。個々人の努力、家族や地域・共同体での助け合い、政府によるセーフティーネットという三つの要素のバランスを取ることは、確かに重要だ。

 「共助」の一形態である社会保険を巡っては、負担能力のある後期高齢者における医療費の窓口負担割合の引き上げを求める法案が、2月5日に国会に提出された。こうした自己負担や医療・介護保険の適用範囲の見直しは、今後も進むとみられる。超高齢社会で社会保障制度の持続性を確保するには、「自助」の要素を強めざるを得ないだろう。

 こうしたなか、人々の自助のための経済的準備は、十分に進んできたわけではないようだ。図表は、2019年時点で、将来への備えや運用のための預貯金を保有していない世帯(貯蓄非保有世帯)の割合を年齢階級別に示している。年齢と貯蓄非保有世帯の割合との関係が見られない時期もあったが、現在では年齢が高い世代ほど貯蓄非保有世帯の割合が大きい。医療や介護の自己負担がかさみがちな高齢者で、自助が難しいケースが増えているのではないか。

 高齢になるほど慢性の病気を抱えたり、介護サービスを長期に必要とする状態になったりする確率は高まる。病気やけがで医療機関を受診する人の比率(受療率、外来と入院の合計)は、30~64歳が4.7%であるのに対し、65歳以上は13.1%と大幅に上昇する(注1)。また、日常生活を送る上で介護が必要になる人の比率は医療以上に高い。65歳以上の要介護(要支援)認定率は18.7%、75歳以上では32.3%に跳ね上がる(注2)。さらに、バリアフリーにするための住宅改修などに思わぬ費用がかかるケースもある。

 若い世代や働き盛りの世代の中にも貯蓄非保有世帯は一定数存在することも見過ごせない。一億総中流社会といわれる状況や日本的雇用慣行が変質したこともあり、高齢期になってからの経済状況のバラツキはこれまで以上に大きくなるだろう。

 自助での備えは重要だが、それは自己責任の社会にするということではない。例えば、税制上のメリットが大きいNISA(少額投資非課税制度)やiDeCo(個人型確定拠出年金)など、自助を応援する仕組みはさまざまに整備されており、将来に向けた資産形成の機会は広がっている。こうした制度を活用して、人々が豊かで安心な老後に向けて私的な経済的準備を進めることは、公的年金や医療・介護、福祉の改革を円滑にすることでもある。超高齢社会における共助や公助の仕組みを強化する上でも、自助は重要である。

重要性が増す「自助」、高齢期への備えには何をすべきか?
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(提供:きんざいOnlineより)